二百四十六話 かの水晶への疑問と閃き
さぁ、お次は新しい魔法のお試しを――と言いたいのは、やまやまだが。
『しーどりあ、またね~!』
「はい、小さな闇の精霊さん、また遊びましょう」
『うんっ!』
ひゅいっと眼前へと移動してきた小さな闇の精霊さんを見送ったことで、外ではすでに朝の時間へと移り変わっていることを察する。
であれば、ここは朝にしかできないことを、優先しておこないたい。
と言うのも、以前水晶卿が遺した地下の部屋で採取した、水晶卿の水晶たち。
かの水晶を採取する際に疑問に思っていたことを、ようやく思い出したのだ。
すなわち――大きな水晶を採取するためには、どのような道具が必要なのか、を!
一つうなずき、精霊神様への《祈り》を丁寧に終えて、小さな四色の精霊さんたちへと次の方針を紡ぐ。
「お次は職人ギルドへ、大きな水晶を採取する方法をたずねに行きましょう!」
『はぁ~い!!!!』
精霊のみなさんの返事に微笑み、白亜の神殿を出てギルド通りの職人ギルドへとたどり着くと、迷いなく広い室内へ入り、左右の壁側を占める長い石のカウンターを見やる。
以前の登録時にお世話になった、人間族の鑑定士であるベルさんを探して視線を巡らせ、ちょうど彼女の琥珀色の瞳と目が合った。
向けられた優しげな微笑みに、同じく穏やかな微笑みを返しつつ近づくと、茶色の長髪をゆらして丁寧なお辞儀をしてくださる。
それにエルフ式の一礼を返し、まずはあいさつの言葉を紡ぐ。
「おはようございます、ベルさん」
『はい。おはようございます、ロストシード様。本日はどのようなご用向きでしょうか?』
あいさつののち、流れるようなベルさんの問いかけに感謝して、そのままの流れで本題のはじまりを言葉にする。
「今日は少し、お尋ねしたいことがあり、こちらへまいりました」
『ご質問ですね。私や、他の鑑定士に分かる範囲のみにはなりますが、できる限りお答えいたします』
「ありがとうございます! 実は、装飾品づくりのために、大きな水晶の採取方法を知りたいのです。小さな物はともかく、大きなものは手で折って採取することは出来そうになく……。もし何か、適切な採取方法があるのでしたら、ぜひ教えていただけませんか?」
『なるほど。大きな水晶の採取方法、ですか』
ありがたい言葉に微笑みを重ね、改めて本題の疑問を紡いだ私に、ベルさんは記憶をたぐりよせ、真剣な表情で採取方法を教えてくださった。
いわく、水晶に限らず大きな鉱石類の採取方法は、切断部分が魔法の影響で使えないことを覚悟の上で、風の魔法などで切り取るか、割れることを覚悟で鉱石類専用の道具を使って採取するかの、二択らしく。
熟練の技術者ならば、道具を使っても割れることはないが、初心者……それも力仕事の向かないエルフ族のかたならば、魔法で切り取るほうをオススメします、とのこと。
専用の道具を使うというのも面白そうではあるが、せっかくベルさんが魔法のほうをオススメしてくださったのだ。
ここは大人しく、今後大きな水晶を採取する時には、得意な戦法――もとい、得意な手段である魔法を使って、採取することにしよう!
知識提供にお礼を紡ぎつつ、ついでに商品用の品をつくるために必要な各種素材を、中央に並ぶ机の上から探して買い、ベルさんに改めて一礼をおこなってから職人ギルドを後にする。
お次は――水晶卿の地下部屋へ!
コツコツと軽やかに石畳を鳴らし、大通りから中央の噴水広場へと足を進めると、さらに書館のある通りへと入り古本屋があった裏路地に向かう。
建物の陰であっても、等しく降り注ぐ朝の陽光が照らす通路を歩み、古本屋の前を通りすぎてもう少し進むと、以前魔法陣のトラップが発動した場所へとたどり着く。
胸中に湧き出でた高揚感に、ふっと微笑みを深め、トンっと一歩を踏み出した――刹那。
前回同様、銀と蒼と黒の光を放つ魔法陣にいざなわれ……無事に、地下空間へと到着した!
「移動方法は、魔法陣を使うということで問題ないようですねぇ」
『わぁ~い!!!! すいしょうのところ~~!!!!』
あっさりと再びおとずれることのできた状況に、のほほんとつぶやきを零す。
楽しげな歓声と共に、肩と頭の上でぽよぽよと跳ねる小さな四色の精霊さんたちの可愛らしさに癒されながら、石で造られた通路と空洞の入り口を以前の小冒険でたどった通りに進み、水晶卿の言葉が書かれた二つの石盤を乗せた石の机がある部屋へと踏み入る。
前方の壁に開いた空洞の先、暗がりで煌く水晶卿の水晶を見やり……ふと気づいた。
「そう言えば……水晶卿の水晶を、商品用の装飾品につかってしまいますと、すぐにここの水晶が無くなってしまうことになりますね?」
それはさすがに、大問題だ!!
水晶卿の貴重な遺産である水晶を、そうそうに失うわけにはいかない!
一瞬で思考を埋めた危機感に、思わず黙して考えを巡らせる。
……遺されている水晶の数自体は、決して少なくはない。
大小さまざまな大きさではあるが、装飾品づくりに使うのであれば、そもそも小さな水晶の半分ていどでも事足りるため、少しずつ使っていくことで消費量は抑えることが出来るだろう。
とは言えこれは、自身が身につける装飾品のみに使うのであれば、と注釈がつく。
逆に言えばどう考えても、商品用の十を超える量の装飾品づくりのために今後も使ってしまうと、目の前で煌く水晶たちをあっという間に使いつくしてしまう。
そのようなことになってしまっては、水晶卿に申し訳がたたないにもほどがあるというもの……!
かといって、商品用の装飾品には水晶を使わないようにするというのも、手を抜いているようで、いささか細工師としての誠実さに欠けると思う。
ではいったい、どうしたものか。
うぅんと小さくうなり、さらに頭を回転させ……ようやく、一つの案を閃いた。
「あぁ! そうですよ!! 足りないのでしたら、足してしまえば良いのです!!」
つまるところ――私も水晶をつくってしまえばいいのだ、と!




