二百四十三話 この偉大なる星がより輝くように
※戦闘描写あり!
宵の口のまだ明るさを放つ夜空の下、ダンジェの森の手前で夜の時間がおとずれるのを、戦闘準備をしながら待つことしばし。
星空が煌く夜の時間へと移り変わった空を見上げ、フッと不敵な笑みをうかべる。
戦闘準備として、今回は常に並行発動している三つの魔法に加え、念のためにもう一つの魔法を《隠蔽 三》にて隠すことにした。
二つの精霊魔法〈ラ・フィ・フリュー〉と〈アルフィ・アルス〉、そして時折かすかに金から白金へと至るグラデーションのかかった長髪をゆらす〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉。
ここに〈オリジナル:風まとう水渦の裂断〉を発動して加え、七つの水の渦という脅威を隠したまま、さっそくとダンジェの森に踏み入る。
ぴたりと肩と頭にくっついてくれている、小さな四色の精霊さんたちと共に、あまり人気のない暗い森を進んで行くと、探すまでもなく《存在感知》が魔物たちの存在を知らせてくれた。
サッと周囲を見回し、同じシードリアのかたが近くにいないことを確認して、深呼吸を一つ。
いざ――星魔法の訓練をはじめよう!
ひたと見すえた前方の茂みの奥から、五匹のフォレストハイエナが飛び出してくる。
濃い緑のたてがみをゆらし、緑の毛並みにおおわれたウルフたちよりは一回り小柄な体躯でこちらへと迫ってくる姿に、迷いは見えない。
まっすぐに赫い炯眼をこちらへと注ぐ五匹の魔物たちは、杖や剣を構えもしない眼前の獲物を見つめ、問題なく狩りが終わると……きっとそう、確信しているのだろう。
――当然、その様な結果に、なりはしないのだが。
素早く距離を縮めてくる、群れの半数にあたるフォレストハイエナたちを前にして、蒼の手飾りがゆれる右手を星空へとかかげる。
不敵な笑みをフッと深め、遠慮なく偉大なる星の魔法の名を紡いだ。
「〈スターレイン〉!」
刹那、頭上から五つの星が銀と蒼の尾を引き、鮮やかに疾く、眼前に迫っていたフォレストハイエナたちを貫く。
とたんに緑のつむじ風となって消えた仲間の消失に、私の周囲を囲むようにじりじりと距離をつめていた残りの五匹が、慌てて樹の陰から飛び出してくる。
ただし残念ながら、彼らの牙が届くことは、ない。
もう一度唱えた〈スターレイン〉が、一切の容赦なく頭上から降り落ち、残りの五匹もまたつむじ風となってかき消えた。
その場に残ったものは、濃い緑の毛束と緑の魔石と……何度実戦で使用してもとんでもないと感じる星魔法の威力に、またしみじみと感じ入る私と精霊さんたちのみ。
「果たして……本当にこれ以上、星魔法の強さを磨く必要があるのでしょうか……?」
『ほしまほう、いっぱいつよい!』
『もっとつよくする~?』
『いっぱいいっぱい、つよいのもだいじ~!』
『ほしまほう、つよくするのたいせつだよ~!』
思わず疑問を零してしまった私に対し、小さな四色の精霊さんたちが返してくださる言葉にうなずきを返す。
「そうですよね。慢心していては、足下をすくわれる――どれほど強い魔法であっても、まだまだ目指すことのできる上があるのでしたら、積極的に目指していきましょう!」
『お~~!!!!』
穏やかながらも天へと振り上げた拳の上に、精霊さんたちが元気な声を上げてぽよんと乗る姿に微笑み、しかし油断大敵だと気を引きしめる。
再びぴたりと肩と頭にくっついてくれたみなさんと一緒に、星魔法の訓練をつづけるべく、ダンジェの森を奥へと進んで行く。
道中、さらに二回ほどフォレストハイエナの群れと遭遇し、ことごとくを美しくも脅威的な流星によって問題なく倒して、勝利を重ねた。
そうして星魔法をこっそり連発しつつ、たどり着いた星の石が隠された闇を抜け、美しい星空色の巨石を見上げて両の手を組む。
スキル《祈り》を静かに発動し、星魔法のその偉大さを胸の内で讃え、これから先もこの星の輝きを磨いて行くことを誓った。
祈りを捧げ終えると、帰路でも星魔法を使って魔物を倒して研鑽をつむ。
行きと併せて計五組のフォレストハイエナの群れを星魔法で倒したが、レベルは三十五から三十六へと、一つだけ上がるのみに留まった。
この事実については、やはり三十レベル以上ともなると、このパルの街周辺のフィールドの敵では経験値量が物足りないのではないかと、そう思い至る。
もっとも、現状では特別すぐにレベルアップを目指したいわけではないので、私にとってはあまり気にすることではないのだが。
つらつらと思考を巡らせながら石門をくぐり、今回のログイン時にはできていなかった、神殿でのお祈りをおこなうためにと足を進める。
星の石にお祈りをしたのだから、やはり神々へのお祈りもしっかりとしておきたい!
足早に石畳を鳴らして大通りを歩み、神殿にて精霊神様、天神様に魔神様、獣神様に技神様と、五柱の神々へ《祈り》を捧げたのち。
現実世界で夕食を摂るために、久しぶりに神殿の宿部屋をお借りして、二つの精霊魔法と二つのオリジナル魔法を解除し、精霊のみなさんへあいさつをおこなってからベッドに横になり――そっと、ログアウトをつぶやいた。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




