二百四十二話 吟遊詩人の星物語
オリジナル魔法についての説明を締めくくったその後も、楽しみながら弾ませる会話はしばらくつづき、机の上の魚料理を綺麗に食べ終える頃になってようやく、五人揃って満足さに笑みを交し合う。
魚釣りのち魚料理での食事会までを、私の親睦会としておこなってくださり、本当にありがたい限り。
この感謝の気持ちをみなさんに伝えると、個性豊かな【ユグドラシルのお茶会】の面々は、それぞれ素敵な笑顔を返してくださった。
この後は、いったん解散をしようと言うお話になり、個々人が休息や冒険を楽しむ準備に取りかかる。
私も一礼をしてサロン部屋がある建物から外へと出ると、ちょうど夕陽が沈み、宵の口の時間がおとずれた。
暗さを広げた空を見上げ、ぽよっと頭の上で跳ねてから眼前へと降りてきた小さな光の精霊さんに微笑む。
「小さな光の精霊さん、また遊びましょうね」
『うんっ! またね、しーどりあ!』
『またね~!!!』
くるっと綺麗な一回転を披露してくださった小さな光の精霊さんを、三色の精霊さんたちと共に見送り、入れ替わりに現れた小さな闇の精霊さんともあいさつを交わす。
「いらっしゃいませ、小さな闇の精霊さん」
『きたよ~! しーどりあ~!』
『いらっしゃ~い!!!』
小さな三色の精霊さんたちの歓迎の声を聴きつつ、さてお次は何をしようかと考える。
何か冒険者ギルドで依頼を受けようか、それとも商人ギルドへ持って行くための商品づくりをしようか、と思考を巡らせながら、ひとまずギルド通りへと向かって歩いていると、美しい竪琴の音と女性が物語る声が聞こえてきた。
緑の瞳を向けると、いつもの小さな噴水のそばで、吟遊詩人の女性が静かに楽の音を披露している。
『万物に干渉し、すべての魔を祓う古き星の御力。
神々が世界に隠した、偉大なる希望のそのひと欠片。
其はいつの日か世界を救う光の一つ』
……何やら、聞き覚えどころか身に覚えのある言葉に、思わず足が止まった。
星と呼ばれる偉大な御力とは、すなわち――星魔法に他ならないだろう!!
まさか、吟遊詩人が紡ぐ語りの中に、星魔法が出てくるとは……!
ついつい、お邪魔にならないように大通りの端により、聞き耳を立てる。
『眠りし石へ詩を捧げ、その御力を継承するすべての者たち。
我らただびと、その偉業を忘れることなかれ』
静かな竪琴の音色と共に、かつて私もおこなった出来事が語られるのは、非常に興味深い。
〈星の詩〉にて星の石を目醒めさせ、星魔法を継承しその使い手となったことは、もはやなつかしささえ感じるものの、実際はほんの最近の出来事だ。
しかし、次いで紡がれた、ただびとはその偉業を忘れないように、と言う言葉はどういう意味だろう?
小さく首をかしげると、竪琴の音が転調して深みを帯びる音を響かせた。
まるで……一面に晴れた空に、灰色の雨雲がかかるように。
『天が魔の赤きにも黒きにも染まりし時、星の御力は真価を示す。
一等輝き、魔を祓う』
……本当に、何やら不穏さをたたえた語りがつづき、反射的に表情が引きしまる。
魔の赤きにも黒きにも、という表現にはどうにも魔物や穢れが思いうかぶ上、それが空にまで広がるとは、いったい何事が起こるというのだろう?
どう考えても、穏やかではない。
とは言え、語り手である吟遊詩人の女性はと言えば、いつもの穏やかな表情のまま言葉を紡いでいるあたり、この語り自体は吟遊詩人にとって珍しい内容ではないのだろう。
いかに星魔法の物語といえども、実際に御力を継承していない者たちにとってはまさしく――フェアリーテイル、いわゆる御伽噺なのだろうから。
再び竪琴の音は転調し、次は力強さを秘めた音が鳴り響く。
『ゆえに御力を継ぐ者は、今にもさらなる輝きを求めよ。
眠りし石へ祈りを捧げ、星空の下で御力を磨け。
そうして数多の人々は、星の輝きと共に行け。
果て無き魔へと、立ち向かえ――』
朗々と、吟遊詩人の女性が語りを紡ぎ終えた姿に、ノンプレイヤーキャラクターのかたがたに混じり拍手を捧げる。
なんとも、示唆的な語りだった。
これからの未来、あるいは過去にあったことを想像させる語りに、やはり星魔法はとても重要な魔法なのだとしみじみと感じる。
もし本当にこの先、大いなる厄災のごとく天空に魔物や穢れが広がるようなことがあれば……たしかに、星魔法の本領発揮のしどころだろう。
「さらなる輝きを求めよ、ですか……」
最後の語りの部分を思い返し、ぽつりとつぶやく。
星の石へと祈りを捧げ、星空の下で星魔法を使い訓練にはげむことが必要なのだと、そうつづいていた語り。
それはまるで、今のうちに星魔法をしっかりと使いこなせるようにしておきなさいと、諭しているかのように聴こえた。
それに実のところ、厄災めいた出来事がこの先、【シードリアテイル】にて起こる可能性は、十分にあり得る。
すべてがはじまる前、創世の女神様もおっしゃっていた。
時には、乗り越えられないほどの困難にもまた、立ち向かわねばなりません、と。
――であれば、私がこの後の時間におこなうことは、もう定まった!
思考を巡らせながらも、自然と足を進めて目指していたのは、夜のはじまりの時間にも映える、白き石門。
「せっかく大切な物語を聴くことができましたので――お次は、かの魔法の訓練を兼ねて、ダンジェの森で戦いましょう!」
『お~~!!!!』
石門をくぐり抜け、ノンパル草原へと出たところで次の方針を紡いだ私へ、小さな四色の精霊さんたちが元気に、気合いの入ったかけ声を返してくれる。
さぁ、それでは気を引きしめて、取りかかるとしよう。
吟遊詩人の女性が、語り聞かせてくださった通りに――星魔法のさらなる輝きを求めて!!




