二百四十一話 知識の提供とオリジナルのロマン
ちょうど、昼から夕方へと時間が移り変わり、窓から橙色の光が射し込む中、次に控えめに手を上げたのは――アルテさん。
「あの、わたしは無詠唱のことをおたずねしたくて……」
「はい。かまいませんよ」
「ありがとうございます! えっと、無詠唱で魔法を発動するためには、余分に魔力を消費する必要がある……と言うような条件があったと思うのですが」
「えぇ。おっしゃる通りです」
「で、では! 戦闘中に無詠唱で発動させるオリジナル魔法をたくさん使った場合、魔力がなくなってしまったりは……しないのでしょうか?」
なるほど、たしかにそれは気になる点だろう。
この問いにはしっかりと、エルフ族ならばそのような事態におちいることは少ないはずだ、ということをお伝えするための言葉を選ぶ。
「たしかに、スキル《無詠唱》は魔力消費と引き換えに、魔法名の宣言をなくし、かつ威力の高い魔法を発動するものです。そのため、アルテさんのご懸念通り、魔力量が多い種族でなければ、連発してしまうと魔力枯渇におちいってしまうことでしょう」
「やっぱり、そうなのですね……!」
「はい。ただ、逆に私たちエルフ族ならば、元々有している魔力量が多いので、問題なく無詠唱でのオリジナル魔法も、連発することができますよ」
「わぁ……!!」
「すっげぇ!!」
アルテさんのつぶらな水色の瞳と、ルン君の碧の瞳がキラキラと煌き、フローラお嬢様とロゼさんが感心したように深くうなずきを返す姿で、上手く伝わったことを確認する。
笑みを深めて次の質問をうながすと、すぐにルン君が手を上げた。
「ハイッ! それなら、普通に魔法の名前を言って発動する魔法と、オリジナル魔法だと、やっぱりオリジナル魔法のほうが強いってことだよな? ロスト兄のオリジナル魔法も、めっちゃ強かったし!」
机の上に乗り上げる勢いで紡がれた言葉に、あえてゆったりとうなずいてから、答えを紡ぐ。
「えぇ。少なくとも私の現状としましては、ルン君の考察の通りです。やはり、詠唱が必須である既存の魔法よりは、無詠唱で発動させるオリジナル魔法のほうが、威力があります」
「速度もかなり違うよね?」
すかさず投げかけられたロゼさんの問いにも、うなずきを返す。
「はい。威力、速度、あるいは範囲など、今のところどれをとっても、既存魔法よりはオリジナル魔法のほうが秀でていると、私が習得したオリジナル魔法に関しましては、そのように感じます」
「おぉぉ!!」
「なるほど……」
ルン君の輝く碧の瞳に微笑み、ふむと思考するように腕組みをしたロゼさんへ、緑の瞳を向ける。
伏せられていた紫紺の瞳が開かれると、どこかイタズラな気配を含んだ笑みが、ロゼさんの口元にうかんだ。
「それなら、いよいよ重要なことをたずねるとしようか」
「はい、どうぞ」
フローラお嬢様からはじまった質疑応答が、順番になされてきたことを考えると、ひとまずはロゼさんが最後になる。
穏やかにうながすと、不敵な笑みに切り替えたロゼさんが紫紺の瞳を意味深長に細めて、問いを紡いだ。
「――オリジナル魔法の、習得方法は?」
ごくり、と効果音がつきそうなほどに真剣な表情が、三つ向けられる。
それにあえてやわらかに微笑み、前提を置いてから答えを返す。
「この方法だけが成功に導くものではない、という可能性は前提としていただきたいのですが……。私がいつもおこなっているオリジナル魔法の習得方法は、神殿の精霊神様の祈りの間でスキル《祈り》と共に、実際魔法を発動する時に用いるスキル《魔力放出》を使用しながら、鮮明な魔法のイメージをおこなう、というものです」
「へぇ……予想よりは簡単そうだけれど、実際はそうでもないのかな?」
考え込んでいるお三方をちらりと見やりつつ、私と同じようにお三方の真剣に考え込む表情を見たロゼさんが紡いだ問いに、さらりと金から白金へと至る長髪をゆらして首をかしげる。
「どうでしょう……? 難しさは、個々人の感覚で差があると思います。私も、慣れるまでは鮮明なイメージが出来上がるまでに、多少時間がかかっていましたから」
「なるほど。こればかりは、試してみるしかないか」
「えぇ。実践あるのみ、かと。……あぁ、そう言えば一つ、ぜひともお伝えしておきたいことがあります」
「うん? なんだい?」
ロゼさんとの会話の中で、ふと大切なことを思い出して、そう紡ぐ。
首をかしげたロゼさんと、視線を合わせてくださったお三方を見つめ、右手をかかげて人差し指を立て、
「いいですか? みなさん。オリジナル魔法は……」
少しの溜めの間の後に、好奇心を笑みと言葉に変えた。
「――ロマン、そのものなのです!!」
ぴん、と立てていた人差し指を、ぐっと握り込んで拳をつくり、キラリと緑の瞳を煌かせる気持ちで、言葉を紡ぐ!
「魔法の形が決められている既存魔法では不可能なことも、オリジナル魔法ならば可能です! ならばこそ! ご自身のロマンの体現として、オリジナル魔法を活用しない手はありません!!」
「まさしくその通りだと思いますわ!!!」
「ロマンの、体現……!」
「おぉ~~!!」
私の好奇心と高揚をそのまま表した熱弁に、真っ先にうなずいたのはフローラお嬢様。
次いで、アルテさんとルン君の感動めいた呟きが零れる。
お三方の反応ににこりと笑顔を返したのち、少々呆気にとられた、という表情をしているロゼさんに視線を向けて、締めくくりの言葉を紡ぐ。
「ということで――ぜひ、理想の魔法の形を、オリジナル魔法としてイメージしてみてくださいね!」
あぁ、無事に言い切ることができた!
これでもう、オリジナル魔法について、説明はともかくとして私がお伝えしたかったことは、伝え終わったと言える。
スッキリとした気持ちで、にこにことロゼさんの反応を待つこと、一拍。
すぐに持ち直したロゼさんは、なぜか生暖かい眼差して、口を開いた。
「……うん。とりあえず、落ち着こうか?」
「はい!」
一応、すでに言いたいことを言い終えて落ち着いているので、軽やかに答える。
すると、肩と頭の上でぽよぽよと、小さな四色の精霊さんたちが楽しげに跳ねた。
『しーどりあ、いっぱいたのしい、だった!!!!』
「ふふっ! えぇ。つい熱が入ってしまいました」
可愛らしい精霊のみなさんの言葉に、笑みを零しながら肯定を返す。
驚かせてしまったロゼさんには、申し訳なかったが――オリジナルのロマンを語ることができた私にとっては、大満足なひと時だった!!




