二百三十九話 魚料理を味わいながら
※飯テロ注意報、発令回です!
昼の木漏れ日が射すノンパル森林の中を進み、ノンパル草原を横切って石門からパルの街へと戻り、サロンのクラン部屋がある建物の中へ。
その間、なんとも色々と思うところがあるような、あるいは何かしら興味深いものがあるような、その様な表情をうかべていたみなさんはしかし、話題としてはどのような魚料理が食べたいかという内容から、言葉をそらすことはなかった。
……さすがに薄々、本当に語り合いたい内容は私の魔法についてなのだろう、ということは察しつつ、みなさんがまだ口火を切らない話題を紡ぐのは、やめておく。
そうして、同じように魚料理について意見を交わしながら建物へと入ると、クラン部屋へと向かう通路とは別の通路を進み、広々とした厨房らしき場所へとたどり着く。
とたんに、そこはかとなく活き活きとした雰囲気を放ちはじめたフローラお嬢様とロゼさんを見やり、なるほどと納得した。
――どうやらここで、魚料理をつくってくださる、ということらしい。
「腕が鳴りますわね!!!」
「まさしく、腕の見せ所、だからね」
さっそくと腕まくりをして意気込むお二方を、お邪魔にならないよう数歩離れた位置から見つめている間に、お手伝いの声をかける間もなく次々と魚料理が出来上がっていく。
そのあまりの手際の良さに、半ば呆然と美味しそうな香りが広がるのを眺めて待つことしばし。
あっという間に完成した数々の魚料理を配ぜん用のカートに乗せ、それをついてサロン部屋の中まで運ぶと、みなさんと一緒に長机の上へと丁寧に並べて――食事会がはじまった!
どうやら、魚釣りの後の恒例らしいこの魚料理での食事会もまた、非常に心躍る時間となる予感に、緑の瞳が煌く。
「ロスト兄、これ! 姐さんが焼いてくれた焼き魚!」
「ありがとうございます、ルン君。ロゼさん、頂きます」
「あぁ。塩加減には自信があるから、堪能しておくれ」
「はい!」
ルン君が渡してくださった皿の上に乗るこの焼き魚は、どうやらロゼさんが作ってくださったもののようだ。
香ばしい焼き魚の香りに惹かれ、綺麗に骨が抜かれた身をフォークで刺し、口に運ぶ。
ほろほろと口の中で崩れた身は、ロゼさんの自信の通りちょうど良い塩加減で、とても美味しい!!
他にも、フローラお嬢様がつくったムニエルや、お二方が綺麗にさばいて一口大にカットした刺身など、魚の旨味をたくさん楽しむことができる料理の数々に、ゆるむ頬をかろうじて整えながら舌鼓をうつ。
「あっ、フローラさん! このムニエル、とってもおいしいです!!」
「ふふん! 今日のわたくしの最高傑作でしてよ!!!」
アルテさんの弾んだお声に、胸を張るフローラお嬢様は、とても嬉しそうに見え、つい笑みが深まる。
お二方のやりとりを聞きながら、隣のルン君へと視線を流すと、ちょうどお刺身を口へ運んでおり、
「刺身もうま~い!!」
と、すぐに歓声が上がった。
思わず同意のうなずきを小さくこっそりおこなうと、私とルン君の両方の様子に紫紺の瞳を細めたロゼさんが、やわらかな表情で口を開く。
「それは良かった。……本当は、寿司がつくりたいんだけど、まだここでは米が売ってなくてね」
「お寿司ですか……私もいつか、食べてみたいです!」
ロゼさんが零したお寿司と言う心惹かれる響きに、反射的に言葉を紡ぐと、キラリと煌いた紫紺の瞳がひたとこちらへ注がれた。
「そうだよね。ロマンだよね」
「えぇ、ロマンです!」
突然の以心伝心に、ロゼさんとお寿司のロマンを語り合うのも、また一興。
お魚がいるならばお寿司もあってしかるべし、などと二人そろって会話を弾ませていると、どうしてか生暖かい視線が二つほど注がれはじめた。
「何さ」
「いいえ、なんでもありませんわ。ロゼのお寿司好きは、今にはじまったことでもありませんもの」
ジトっとロゼさんが返した視線と言葉に、フローラお嬢様はそう軽やかに言葉を返す。
本当にお二方は仲良しだなぁと思いつつ、にこにこと眺めていると、右隣でルン君が小さく笑い声を零した。
「姐さんもだけど、ロスト兄もかなり寿司好きだったんだな!」
「そうですねぇ。純粋に、美味しいと思います」
「それはわかる! おれも寿司はうまいっておもうし! さすがに、二人みたいに語るほどじゃないけど」
「えっと、お話しできるくらい好きなのは、すてきだと思います……!」
カラリとしたルン君の言葉につづいたアルテさんの優しい言葉に、ロゼさんとそろって穏やかな笑みを口元にうかべる。
たしかに、誰かと語り合うことが出来るほど、好きだという思いがあることは、とても素敵なことだ。
今回のお寿司しかり、私の場合は精霊のみなさんや、魔法のことも当てはまるだろう。
そしてすでに――このサロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんのことも。
それこそ、アトリエ【紡ぎ人】のみなさんも、そうだ。
機会があれば、双方のクランについて、いかに素敵なのかを語りたいくらいだと感じる。
ふわりと、どこかあたたかな空気が満ちた部屋の中、再びみなさんもそれぞれの料理を思い思いに楽しむ様子に、自然と微笑みが深くなった。




