二百三十三話 番外編三 Omnis habet sua dōna diēs(毎日その日の贈り物がある)
※現実世界でのお話です。
※飯テロ注意報、発令回です!
戻ってきた現実世界の感覚に、ぐっと伸びを一つ。
今日は午後からも、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんと一緒の時間をすごす約束をしているため、さっそく昼食をとることにする。
隣の食事部屋に移り、ふとついさきほど、【シードリアテイル】で食べた料理を思い出して閃く。
そうだ――今日の昼食は、バーガーとフライドポテトにしよう!!
そうそうに決まったメニューを、空中展開するタブレットの中から選び、待つことしばし。
軽やかな音楽と共に、テーブルの上の転送装置へと、今日の昼食が届いた。
転送装置の中の箱を引き出し、蓋を開いて皿に乗るバーガーとフライドポテトを取り出す。
しっかりと手洗い用洗浄器で両手を清めて、頂きますとつぶやいて――野菜と肉が挟まったバーガーを両手で持ち上げ、ぱくりとかぶりつく。
やわらかなバンズと、みずみずしい野菜、それに味わい深い肉との、絶妙なハーモニーが口の中に広がり、思わず頬がゆるんだ。
もぐもぐと咀嚼して、お次はとフライドポテトに手を伸ばす。
一つ、二つと口に入れると、絶妙な塩加減とポテトの味に感動さえ覚える!
バーガーとフライドポテトを交互に食べ、食事を楽しむ幸福感に浸りながら、そう言えばと思考は別のことを頭にうかべた。
それは、昨日と今日とで出逢った、素敵なフレンドさんたちのこと。
アトリエ【紡ぎ人】の四人と、サロン【ユグドラシルのお茶会】の四人それぞれに対して感じた、印象だった。
どちらも素敵な出逢いからはじまり、参加へと至ったことには変わりないが……その場に集うみなさんは、ずいぶんと雰囲気が異なっている。
たとえば、【紡ぎ人】のみなさんは明るい雰囲気ながらも、どこか職人らしく冷静で落ち着いた一面が目立っていた。
リーダーのノイナさんは、熱意あるお声がけをしてくださったように、とても行動力があるかたで、明るく真面目な印象。
場の空気を盛り上げ、それが勢い余って不注意を招くこともあるように見受けられたものの、同時に修正力もそなえている。
楽しげに、しかし集中力は損なわず作業をつづける姿は、さすが一つのアトリエのリーダーをつとめているかただと、感心さえいだいた。
ナノさんは、ゆれるフェアリー族特有の翅と小さな姿が可愛らしく、どことなくリリー師匠を思い出させるかた。
幼げな外見と口調に反して、とてもしっかりしているように思う。
裁縫技術は本当に見事なもので、ひたと手元を見つめていた真剣な眼差しが、とても澄んでいたのを思い出した。
サブリーダーのドバンスさんは、落ち着きと貫禄をひしひしと感じる、いかにもドワーフ族の職人! という印象。
会話の際には大人の対応力があり、鍛冶部屋をのぞいた時に見た、炉を見つめる背中は、とてもかっこよかった。
そして、エルフ族での錬金術の先駆者である、アルさん。
彼に関しては、のんびりとした表情や雰囲気の内側に、冷静で聡明な人柄を感じた。
打てば響くような会話は、アルさんの賢さと気さくさがにじみ出た結果、形作られているものだろう。
それに、短い冒険の中での所作を見た限り、おそらくは私と同じように他の没入ゲームも、たくさん遊んだことのあるかたなのではないだろうか?
どうにも、没入ゲーム自体に慣れている気がするのだ。
もしそうであれば、機会があり次第、他のゲームの話題を出してみるのも良いかもしれない。
最後のフライドポテトを飲み込み、手を洗浄して片付けと次のログインのための準備をおこないながら、つらつらと思考をつづける。
今日、素敵な出逢いを果たした、【ユグドラシルのお茶会】のみなさんは、まさしくそのサロン名の通りの活動をおこなう者にふさわしい、華やかさと明るさに満ち満ちているように見えた。
リーダーのフローラお嬢様は、偶然にもその目醒めの瞬間を目撃した時から、なんとも華やかなお嬢様だと思っていたのだけれど……正直なところ、予想以上に鮮やかなかただと思う。
一見、そのにぎやかさとお嬢様ロールプレイ然とした振る舞いが目立つものの、ご本人自体は気遣いもできる優しい心根の持ち主だ。
それでいて、明るさを武器にした少々押しの強いところが、鮮やかな魅力につながっている。
フローラお嬢様に気に入られて声をかけられた後、このサロンに入ることを拒もうと思うかたは、おそらくそう多くはないことだろう。
反対に、まだ印象を掴み切れていないのが、サブリーダーのロゼさんだ。
ごきげんよう、とあいさつを交わしたかつての日にも思ったことだったが、男装の麗人である彼女の所作はとても洗練されていて、美しい。
しかし、その内面はまだ、あまり読み取ることができないと感じた。
落ち着いていて、イタズラ好きなことが分かったくらいか。
他はと言えば……どこか、底知れない心情がありそうな気がするなぁ、などと思ったりもしたが、こればかりは今後の交流で見えてくるもののほうが、多いだろう。
ルン君は、初見の印象通り、元気いっぱいで快活な子だ。
素直にこの世界を楽しんでいる様子は、見ているこちらが元気をもらえるのではないかと感じるほど。
おそらく、外見といわゆる中身の年齢の差が、あまりひらいていないタイプのプレイヤーだと思われる。
ぜひ、純粋にゲームを楽しんでほしいと思う。
最後に、私の現在唯一の、読書好き仲間のプレイヤーである、アルテさん。
控えめな雰囲気ながら、しっかりとご自身の気持ちを伝えることのできる、芯のあるかただと、今回のサロン参加で知ることができた。
アルテさんとはまた、ぜひとも本のお話に花を咲かせたいと思う。
……改めて、パルの街へとたどり着いたことで、世界が格段に広がったことをしみじみと感じながら、意図的に両手を一つ、打ち鳴らした。
「――さて」
そう、わざと声を出して、意識を切り替える。
新しくフレンドとなったみなさんの印象を、それぞれ思いうかべるのはここまでにしよう。
この後もまた、素敵なみなさんとの楽しい時間が待っているのだ。
遅刻をするわけには、いかないというもの!!
手早く終わらせた準備ののち、いつもより幾分早い時間であることを確認しながら、再び【シードリアテイル】へとログインをした。
※明日は、
・十日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




