表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/441

二百三十一話 好ましいにぎやかさ

 



 それぞれの自己紹介が終わったのち、ちょうど夕方から宵の口へと時間が移り変わった。

 とたんに、頭の上から眼前へと降りてきた、小さな光の精霊さんがくるりと一回転をおこない、同時にすぐそばに小さな闇の精霊さんが現れる。


『またね! しーどりあ!』

『きたよ、しーどりあ~!』

「はい。また一緒に遊びましょうね、小さな光の精霊さん。そしていらっしゃいませ、小さな闇の精霊さん」

『またね~!!! いらっしゃ~い!!!』


 もはや恒例となったあいさつを精霊のみなさんと交し合い、闇の精霊さんが頭の上へと乗るのを見届けてから、じっと注がれていた視線たちへと振り向く。


「素晴らしいですわね!!!」

「なるほど。さすがは精霊の先駆者」

「ロスト兄、なんかすげぇ!!」

「素敵です……!」


 フローラお嬢様の感激の声をきっかけにして、感心したようにロゼさんがつづき、碧と水色の瞳を煌かせて、ルン君とアルテさんがそう紡いでくださるのに、微笑みを返す。


「みなさんも、みなさんのおそばにいらっしゃる小さな精霊のみなさんと、仲良しなのではありませんか?」


 軽く小首をかしげて問いかけると、思い思いにそばにいる精霊さんたちへと視線が移る。

 次いでみなさんの口元にうかんだ笑みが、その友好を示していた。

 思わず微笑みを深めてみなさんを見つめていると、フローラお嬢様の綺麗な咳払いが響き、のほほんとした空気を切り替える。


「今の主役はロストシードと、ロストシードのご友人の精霊さんたちでしてよ!」

「たしかにね」


 ぱっと開いた扇子で口元を隠し、そう紡ぐフローラお嬢様に、ロゼさんが納得を返す。


「この場は、歓迎の意を示す場!! はじめは、お姿を存じ上げなかったばかりに、わたくしも失礼をいたしましたけれど、これからはロストシードも、この【ユグドラシルのお茶会】の一員なのですから! ……あら? そう言えば」


 勢いよく話題修正をおこなったフローラお嬢様は、しかしふと疑問を美貌にうかべた。

 次いで金の瞳が、不思議そうにアルテさんへと注がれる。


「アルテ。わたくしがロストシードに声をかけたあの時、アルテはロゼに何を伝えようとしておりましたの? わたくし、実は気になっていましたのよ!」

「えっ……あ! え、ええっと!」


 フローラお嬢様の問いかけに、なにやらわたわたと焦りを見せるアルテさん。

 そのつぶらな水色の瞳は、ちらちらと隣に座っているロゼさんへと向けられている。

 アルテさんの視線に、腕を組み片手を口元にそえて、束の間思考を巡らせたらしいロゼさんは、何かを思い出したように軽くうなずいた。


「あぁ、あれか。なに、単純なことだよ。以前の世迷言板の内容から、僕は元々彼の容姿を知っていたんだ」

「な――んですって!?!?」


 ロゼさんがこともなげに告げた言葉に、私は緑の瞳をまたたき、フローラお嬢様は心底からの驚愕を言葉にする。

 見開かれた金の瞳が、次の瞬間には細められ、フローラお嬢様はむっと不服そうな……あるいは困ったような表情を、ロゼさんに向けた。


「もう、ロゼったら!! 彼の姿を知っていたなら、どうしてわたくしに教えてくださらなかったの?」

「結果的に、実に愉快な出会いになっただろう?」

「んも~~あなたって人は!!」


 ……どうやら、ロゼさんは意図的に私の容姿の情報を、フローラお嬢様に伏せていたらしい。

 イタズラが見事に成功したとばかりに、意味深長な笑みをうかべるロゼさんと、その肩へダメージとしての判定はないものの、ぽかぽかと軽やかに拳を打ち付けるフローラお嬢様のやり取りは、なんとも仲睦まじく見える。

 一瞬ロゼさんが告げた世迷言板の内容とやらが気にかかったものの……まぁ、眼前の微笑ましいやり取りに比べれば、たいしたことではないだろう。

 微笑みながら、フローラお嬢様のお目醒めの瞬間から思っていたことを、言葉で紡ぐ。


「フローラお嬢様とロゼさんは、とても仲の良いご友人なのですね」

「あぁ。僕たちはリアルでも幼馴染の友人同士だからね」

「とっても仲良しでしてよ!!!」

「なるほど、そうでしたか」


 さらりと答えを返すロゼさんと、ぱぁっと表情を輝かせ、自慢げに紡ぐフローラお嬢様に納得を込めてうなずきを返す。


「仲良しと言いますと! ルンではなくて、アルテのほうが、ロストシードとお知り合いでしたのね!!」

「あっ、はい! エルフの里の書庫で……」


 流れるようにお次はこちらへと投げかけられた話題に対し、アルテさんからちらりと向けられた水色の瞳にうなずきを返して、つづく言葉を引き取る。


「偶然お逢いいたしまして。読書をする時間を、共に楽しみました」

「あら! 素敵な出会いでしたのね!!」


 私の説明に、金の瞳を煌かせたフローラお嬢様が声音を弾ませて紡いだ言葉に、控えめな笑顔でコクコクと首を縦に振るアルテさんの仕草が、素敵な読書好き仲間と出逢えた嬉しさを共有できたように感じて、とても嬉しい。

 ついにこにこと笑顔になっていると、


「いいな~!」


 と少しだけ残念そうな表情で、ルン君が声を上げる。

 そこへすかさず、ロゼさんの視線が注がれた。


「ルンはルンで、良かったことがあるだろう?」

「よかったこと?」


 ――はて? 何かルン君にとっても良かったことがあったのだろうか?

 内心の私と同じく首をかしげるルン君に、再びロゼさんの口元が意味深長な笑みをうかべた。


「ほら――これで、ようやく兄弟ができた」


 なるほど、とうなずいた私に反して、ルン君はさらに首をかたむける。


「へっ? いや、でも今までも姐さんが兄さんみたいなもんだったしあいてててっ!?」

「僕は、たしかに、この様なかっこよさを、好んではいるけれど。……これでも、れっきとした女性なんだけどなぁ??」

「ごめんなさいごめんなさいっ!!!」


 にゅっと伸ばされたロゼさんの片手が、対面に座るルン君の片方の長耳を掴んで引っ張る姿に、思わず緑の瞳を見開く。

 薄らとうかべなおされたロゼさんの笑みにただならぬ迫力を感じて、反射的に少しだけ椅子の背もたれに背を押しつける形で身を引いてしまう。

 肩と頭の上では、小さな四色の精霊さんたちが、少しだけぷるぷるしているような振動を感じた。

 ……なにやら、藪をつついた先で、蛇どころか龍がでてくる様を目撃してしまったような気がする。


「許してあげなさいよロゼ。ルンに悪気はないのよ」

「それはもちろん、分かっているけれどね」


 すぐさまフローラお嬢様が響かせた声に、ロゼさんがぱっとルン君の耳から手を離す。

 当然として、この【シードリアテイル】に痛覚は存在しないため、本当はルン君も痛かったわけではないはずだが……それはそれとして、なかなかに迫力のある出来事だった。

 とは言え、ある意味ルン君のおかげでロゼさんのことが一つ分かったので、そろりとお耳を下げているルン君の肩を、元気がでるようにぽんぽんと軽くたたいて励ましの微笑みを送る。

 とたんにぱっと持ち上がった長耳と、嬉しげに輝いた表情に、つい笑みが深まった。

 若干冷ややかだった空気が穏やかさを取り戻し、それを確認したのだろうフローラお嬢様が、音を立てて扇子を閉じる。

 次いで、その金の瞳が私を映した。


「さぁ! お次は歓迎会ですわよ!! ロストシード、この後お時間はありまして?」

「えぇ。空の時間で十二時には、昼食をとるために戻りますが、それまででしたら」

「心得ましてよ!!! でしたらそれまでは、共にはじめての食事を楽しみましょう!!!」

「歓迎の食事会も、久しぶりだね」

「おぉ! みんなで店で食べるの、好きなんだよな~!!」

「楽しみです……!」

「ありがとうございます。私もとても楽しみです!」


 なんともありがたいことだ。

 まさか、歓迎会までおこなっていただけるとは……!

 穏やかな雰囲気から一転、再び楽しげな空気を取り戻したみなさんは、さっそくと私を外へと導いてくださる。

 にぎやかなサロン【ユグドラシルのお茶会】の一行となって、中央の噴水広場へと踏み出した私の心は――ずいぶんと弾んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に賑やかで楽しいサロンですね〜♪ ぷるぷるしてしまう精霊さんたちがちょっと不憫ながらもとても可愛いかったですっ(((*/ω\*))) そして…もしやロストシードさん、シードリアテイル内…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ