二百二十四話 幕間二十四 生暖かい視線を注ぐエルフたちの世迷言板
※誰かの視点ではなく、世迷言板内のやり取りの記録です。
【シードリアテイル】サービス開始から九日目。
現実世界では明日へと日付が変わる手前の、とあるエルフたちの世迷言板にて。
[はい、注目~! 例の人の新情報、聴きたい人~?]
[はーい]
[はい]
[――まさかの、マジで無自覚系先駆者だった]
[マジだったのね]
[真実でしたか……]
[おう。マジで当本人には自覚がなかった]
[え、まって。もしかして直接話したの?]
[あ~っと、まぁ、直接だな。……詳しいいきさつは、ノーコメントで]
[なんでよ。気になるんだけど]
[……お伝えしづらい事情が?]
[いや。単純に、いきさつのほうは暴露すると、嵐が巻き起こりかねない内容だと俺が思ってるから、言わないだけなんだがな]
[あの人が本物の無自覚系先駆者だったっていうことより、まずいの?]
[あぁ、まずいな]
[えぇ……]
[それは……]
[ただまぁ、これに関しては、そのうち自然と話題になるだろうなぁとも、思ってるけどな~]
[いや、それけっこうこわいんだけど? 嵐は起こるって、もう決まってるようなものなの?]
[たぶんな]
[こわ……]
[一体どのような内容の嵐が、吹き荒れることになるのでしょう……?]
[気になるのは、そこよね]
[はい]
[あ~……。まぁ、なんだ。攻略系の人たちが、あまり躍起にならないことを祈るばかりってやつだな]
[え、あたしたち?]
[ほう。攻略系の方々、ですか]
[初心者とか、生産職で遊んでるプレイヤーとかは、そもそも手も足も出ないと思うんだよな。や、正確には手を伸ばす勇気さえあれば、嵐のただなかに飛び込めないこともないだろうけど]
[なに……? つまり、攻略系のプレイヤー同士での争いが起こるかもってこと?]
[まぁな]
[穏やかではありませんね]
[そこなんだよな~。だから、嵐って表現したってわけだ]
[なるほど……]
[……分かった。とりあえず気をつけておく。それより、直接どんな風に会話したの?]
[私も、少々気になります]
[あぁ。手前で、先駆者の話しを少ししていてな。その話の流れで、俺が気づいたって感じだ]
[あ、そういうことね]
[先駆者についての会話の流れから、ですか]
[あぁ。あんたは精霊の先駆者だろ? って確認したら、心底不思議そうな顔で、逆に訊き返された]
[あらら]
[なんと]
[で、俺のほうが説明する流れになった]
[お疲れさま]
[お疲れ様です]
[ほんと……まさか、こっちからあんたは間違いなく精霊の先駆者だ! なんて、説明することになるとはなぁ……。さすがに予想外もいいところだ]
[無自覚系、おそるべし、ね]
[これが……無自覚系、ですか]
[マジで、すぐに先駆者なんだって自覚してくれなかったら、どうしようかと思った]
[あ、自覚はしたの?]
[あぁ。一応]
[一応……]
[一応、ですか]
[ひとまずはって、言ってたんだよな~]
[ひとまず……]
[ひとまず、でしたか……]
[俺としては、他にも魔法とか錬金術とか、そこそこ幅広くとんでもないことしてる気がするぞって、伝えたかったところだったんだが……]
[伝えなかったの?]
[お伝えできなかったのですか?]
[……正直、そのあたりも無自覚っぽいなと思って、な]
[え、そこも無自覚なの?]
[そんな気がしたんだよな~!!]
[それは……その、すべてを説明するということも、難しいですよね]
[それだ! さっすがに、そこまで説明できないし、そもそも普通に楽しんで遊んでるだけなら、失礼だろ?]
[たしかに]
[それはそうね]
[のんびり遊んでるところに、水を差すのは……さすがにな]
[そうですね。失礼になってしまっては、説明のかいもありません]
[そうそう。そうなんだよ]
[そこの接しかたの違いが、意識して先駆者になった人と無自覚系との、気をつけたほうがいい接しかたの違いなのよね]
[それな~]
[なるほど。学びになります]
[何はともあれ。平穏に遊びたいみたいだから、実際にその場ではやし立てるのとかは、ナシで]
[りょーかい]
[はい。気をつけます]
[おう。まぁ、お二人は大丈夫だと思うけどな]
[交流があるかは分かりませんが……幸運にもその機会に恵まれた際には、今回の学びを活かします]
[頼もしい限りだ! ぜひそうしてくれ!]
[はい]
[う~ん。攻略系だと、どうしても先駆者とか、そういうの気にする子たちが多いのよね。ちょっと気にかけておくわ]
[頼む。当の本人は、マイペースに遊んでいるだけだって、主張してるからな]
[……それ、邪魔したら一番こわいパターンでしょ]
[……どう、だろう、なぁ……?]
[……なにやら、不穏さが増しましたね]
[あ~、とりあえず。――超! 精霊好き!! って情報は、一応渡しておくな?]
[ありがと!!]
[精霊好き、ですか。かの人らしいですね]
[いや本当に、精霊たちとプレイヤーとの間に、越えられない壁があるくらいには、精霊好きだと俺は感じた]
[なんと]
[――さすが、精霊の先駆者。って、言えばいい?]
[おぉ、見事に決まったな!]
[素晴らしいタイミングでした]
[ありがと~!]
そうして、常連の面々がそれぞれ生暖かい視線を注ぎながらの雑談は、今日も長くつづいていった――。
※明日は、
・十日目のはじまりのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




