二百二十話 水晶煌く自作装飾品
夜の食事と寝る準備をすませて、再び【シードリアテイル】へとログイン!
『おかえりしーどりあ~!!!!』
「みなさん、ただいま戻りました」
蔓のハンモックの上で、小さな水と風と土と闇の精霊さんたちへあいさつを返す。
胸元でコロコロと転がる姿が、たいへん愛らしい!
ついにっこりと満面の笑顔をうかべて、指先で小さな姿を順になでてから、ゆっくりと身を起こした。
さらりとゆれた、金から白金へと至るグラデーションのかかった長髪を払い、ハンモックから床へと降りる。
パサリと小さな音を立ててひるがえった緑のフード付きマントを見て、ふと閃いた。
――気分転換に、衣装替えをしよう!
ふっと微笑み、リリー師匠作の羽の形に似た流麗な風模様のブローチを片手に取ってから、マントを外してカバンへと収納し、かわりに白いローブを取り出す。
さっとはおりブローチを留め直すと、自然と微笑みが深まった。
青いチュニックと薄茶色のズボン、黒の編み上げブーツはそのままに、白いローブが雰囲気を一新する。
『しーどりあ、おめかし~!!!!』
「えぇ、少し装いをかえてみました。白のローブが思いのほか、お気に入りになりまして」
『しろいろーぶ、にあうよ~!!!!』
「ふふっ、ありがとうございます」
ふわふわと周囲でうかぶ精霊のみなさんの言葉に笑顔で返し、姿見の大きな鏡を見やると、森の中にまぎれる装いから一変、どこか神聖さを放つ姿が映っていた。
満足さに微笑み、次いで窓を見やると、夜のはじまりである宵の口の青が、パルの街を彩っている。
さて、それではこの後はどうしようか?
そっと口元へ片手をそえて、しばし思考を巡らせる。
思いつくのは、やはり水晶卿よりたまわった、遺産の水晶で、装飾品をつくることだ。
せっかく採取させていただいたのだから、ぜひとも作品に仕上げてみたいとは思う。
ただ、ここで一つ、疑問がうかんだ。
……水晶卿の水晶は、他のシードリアのかたに見せても、大丈夫なものなのだろうか?
うぅん、と小さくうなる。
どうにも、水晶卿の存在自体が星の石と似た、稀な存在のように思えてならない。
そのような存在の遺産である水晶を、例えば同じ細工技術を習得しているノイナさんに、見せてもいいものだろうか?
いや、やはり今はまだ、やめておいたほうが……いい気がする。
「ネタバレはダメ絶対、ですからねぇ」
『だめだめ~????』
思わずしみじみと零した呟きに、疑問符をうかべる四色の精霊さんたちへと、穏やかにうなずく。
「はい。水晶卿の水晶も、星魔法と同じく、今はまだ他のシードリアのかたにはお見せしないほうがよろしいかと。とは言え、装飾品として仕上げる際に水晶自体の見目を隠すことはできますから……制作場所にだけ、気をつけるといたしましょう」
『はぁ~い!!!!』
説明と方針の言葉に元気な返事をして、くるりと見事な一回転を見せてくれたみなさんが、その流れで肩と頭の定位置へと乗る。
それでは、制作場所を気にかけて、今回の装飾品づくりはアトリエのクラン部屋ではなく、職人ギルドの作業部屋に行ってみよう!
宿部屋から出て、食事処としてにぎわう階下の部屋を横切り、女将さんに軽く会釈をしてから宿屋を後にする。
中央の噴水広場を通り抜け、大通りを歩いていくと、アトリエのクラン部屋にできる家々の先に、職人ギルドが見えた。
入り口から広い室内へと入りながら、もし職人ギルドに個室の作業部屋がない場合は、神殿の技神様のお祈り部屋をお借りしようと思考を巡らせる。
とは言えひとまずは、以前登録の際にお世話になった鑑定士のベルさんが教えてくださった、作業部屋である正面の奥の壁に並ぶ扉を見やり、そちらへと近づいてみた。
扉にはそれぞれ、[鍛冶]や[錬金]などの技術を示す名が刻まれており、その内の[細工]と刻まれた扉を開き中へ踏み入る。
扉の奥は大部屋となっていて、数人のシードリアと……ノンプレイヤーキャラクターとおぼしきかたがたが、椅子に腰かけ長机で作業を進めていた。
左右の端にはずらりと素材が箱につめられた状態で並んでいるが、正面の奥の壁にはまた扉が並んでいる。
もしかすると、と思い静かな足運びで奥の壁へと歩みより、一つの扉を開くと――予感的中。
どこかお祈り部屋を思わす小部屋に、微笑みながら入り込む。
小さめながらも並ぶ机と椅子に、さっそくと椅子へ腰かけ作業の準備をはじめる。
「ええっと……ひとまず、水晶卿の水晶と、リリー師匠が旅立ちの餞別にくださった各種素材を並べまして」
『わくわく!!!!』
小さな四色の精霊さんたちのわくわくにつられて、微笑みを深めながら机の上に素材を並べていく。
煌く水晶卿の水晶に、リリー師匠がくださった魔導晶石や各種金属に美しい宝石。
並べ終わった煌くそれらを眺め、一つうなずく。
今回は、現在身につけている装飾品――すなわち、左手と腕、それに両脚に飾って使っている銀の腕輪と青の指輪、靴飾りの銀の足輪を、水晶卿の水晶を使用して、新調することに決めた。
弾む心にふっと口角を上げ、いざ作業開始!
《同調魔力操作》を用いて、空中にうかせた魔導晶石と銀色の水晶と水色の水晶、それに各種金属などに魔力をとおして融合させ、腕輪や指輪、足輪へと編んで形を整える。
《魔力凝固》を使って生み出した純性魔石と魔石の形も削り整え、魔力で磨いて三つの輪にはめ込めば――あっという間に、水晶を加えた装飾品の完成だ!
出来上がった三つの装飾品を手に取り、満足さと共にじっくりと見つめる。
不思議と混ぜ込んだはずの水晶の澄んだ美しさが、ほんのりと表面の艶やかな色合いに、現れているように見えた。
とても綺麗だけれど、目立つほどの違いはないことを、まだ身につけている初期の作品と見比べて確認する。
今までたくさん力を貸してくれたそれらを、感謝を込めてそっと撫で、外してカバンへとしまい込み、新しい装飾品を飾った。
左手と両脚で煌く新作に微笑み、改めて水晶卿へ感謝を捧げる。
……あなたの水晶は素晴らしいと、直接お伝えすることができない事実だけを、小さな心残りとして感じながら。
それでも今また再び、この美しい水晶が地上で煌く様を思い――輝ける遺産を大切に活用することを、静かに胸中で誓った。




