二十一話 蒼の手飾りが示す未来
仲良し夫婦の気配を感じながら、改めて机の上の手飾りへと視線を戻す。
リリー師匠の装飾品と同じく、マナさんの手飾りもどれもとても美しかった。
とは言え、指輪は耳飾りなどの比較的小さな物とは異なり、手飾りは指から手の甲と手首にかけてを飾る物であるため、個人的にはあまり派手でないものが好ましい。
心惹かれるのは、純性魔石そのものをシンプルに飾りとして連ねたタイプの手飾りだ。
小さなひし形の蒼い純性魔石が、銀色の指輪と腕輪に一つずつと、その間の甲にも玉鎖で飾られて煌いている。
――気に入った。これにしよう。
この蒼の手飾りを買うことに決め、横にいたマナさんのほうを向くと、にっこりとした満足気な笑顔があった。
『それに決めた?』
「はい。こちらの手飾りを」
『ありがとう!』
満面の笑みに、つられてこちらまで笑顔を零しながら手飾りを示すと、心底嬉しそうな響きで感謝の言葉をもらう。
それにこちらこそ、と思いを返しながらふとテルさんを見ると、黄緑の瞳が静かにこちらを見返し、口が開かれた。
『マナの手飾りにかかっている付与魔法は、非常に強力なものだ。手飾りを選んだのであれば、長くつけておくといいだろう』
『そう! そうなのよ! 付与魔法って、ずっとかけてたり、効果を受けたりすることで、少しずつだけどそれに身体が慣れていくから、手飾りはなが~~く! つけることをオススメするわ!』
静かなテルさんの助言めいた言葉に、私が選んだ手飾りの最終確認をしていたマナさんもぱっと青の瞳を向けてそう紡ぐ。
それは、まさか。
「手飾りにかかっている付与魔法の効果を受けつづけることで……魔力の安定性が高い状態に身体が慣れ、ゆくゆくは手飾りを外した時にも魔力が安定するような状態になる、ということでしょうか……?」
若干緊張して発した私の言葉に、眼前のご夫婦が同じ様に小さくフッと口角を上げる。
マナさんの青い瞳が、器用にウインクを煌かせた。
『そういうこと! だからロストシードは、またここへ来たときも手飾りをえらんでちょうだい!』
そう紡ぎながら、マナさんは私の目の前にかざすように、美しく輝く蒼の手飾りをちゃらりと持ち上げる。
『どっちの手に飾りたい?』
「あ、ええっと、飾るのは右手にしようかと」
「わかったわ! ――はい、よく似合ってるわ!」
急な問いかけに少し慌てて答えると、ささっとマナさんが右手へと飾ってくれた。
かすかな重みが加わった右手を眼前にかかげると、店内を天井から照らす魔法のランプの白光を受け、純性魔石がキラリと淡く煌く。
やはり、この手飾りを選んで正解だった。
頬がゆるむのをそのままに、飾ってくれたマナさんにお礼を伝えつつ、性能から考えると破格の銅貨五枚をお支払いしていると、テルさんがポツリと一言。
『強敵に悩まされた時は、遠慮なく杖を買いに来るといい』
『ちょっと!?』
――あやうく噴き出すところだった。
かろうじて左手で口元を塞ぎ笑うのを止めることに成功したものの、マナさんは振り向いた勢いのままテルさんに言葉を飛ばす。
『魔力の安定が身体になじむまでは、手飾りをつけたほうがいいってさっき話したでしょう!』
『それと戦闘での苦労は別問題だ。そもそもこの里周辺の森の中ならまだしも、別の街などに行けば魔物の強さは跳ね上がる。……それ以前に、魔力の安定性が定着するほどに長く手飾りを身につけつづける者など、君たち手飾りを作る職人くらいだろう?』
『それは! そうだけど!』
『そもそも私とて、客には杖を買ってもらいたい』
『わたしの手飾りよりあなたの杖のほうがずっと多く売れているでしょ~~!?』
「ふ、ふふっ、あははっ」
あまりにも綺麗に愉快なやり取りに、案の定たまらず笑ってしまった。
店内に響いた私の笑い声に、ピタリとお二人の言い合いが止まる。
若干気まずそうなお二人の様子に、私もすぐに笑いを引っ込めた。
――ただし、口元の笑みはお許しいただきたい。
コホン、と咳払いを一つ。
「失礼しました。たしかにテルさんの杖も、とても魅力的です。ただ、私は困難な物事にはむしろ楽しみを見出すほうでして。これからも、マナさんの手飾りをしっかりと着けつづけようと思います。どうかご容赦と、今後とも長いお付き合いをよろしくお願いいたします」
にこり、と笑顔でそう告げると、お二人は顔を見合わせ……。
『……いっそのこと、杖に魔法の効果を向上させる付与魔法をかけなければ、手飾りと一緒に使えるんじゃない?』
『威力向上の付与魔法をかけない杖など、ただ見目の良いだけの棒だ。それならば、装飾品を重ねたほうがよほど実用的だろう……』
『それは……そうね!』
それならば、と再びはじまる仲良し夫婦の言い合いに、ついまた小さく笑みを零しつつ一礼をする。
それにはお二人とも上品な返礼を下さり、その優雅さにまたすこし見惚れてしまった。
もっとも、その直後には再びにぎやかな痴話喧嘩がはじまってしまったけれど。
おそらくこの状態がデフォルトなのだろうと察し、静かに出入り口の扉へと向かう。
ふと右手に感じるかすかな重みを思い出し、改めて手を上げ眺めてみる。
蒼の純性魔石はやはり小さくとも美しく、満足感に頬がゆるんだ。
それに、この手飾りを装備しつづけることで――ゆくゆくは魔法を安定して発動し続ける、不発知らずの魔法使いになることができる、かもしれない。
高揚感と共に上がった口角をそのままに、三色の精霊のみなさんを連れてご夫婦の武器屋から外へ。
次に目指すのは、魔法の訓練に使用されていた、あの広場。
指南役と思われるみなさんに、ぜひともご教授いただこう!




