二百十八話 毒凍結と暗中模索
※戦闘描写あり!
あたたかな昼下がりに、石門を出てダンジェの森へ。
「みなさん、フォレストハイエナの動きにご注意を」
『はぁ~い!!!!』
注意の言葉を伝えると、小さな四色の精霊さんたちはしっかりとした返事と共に、ぴたっと肩と頭にくっついてくれる。
これで、私が素早い動きをおこなった際にも、みなさんを振り落としてしまうことはないだろう。
枝の上を軽やかに駆け、ダンジェの森の中でも星の石がある、トリアの街方面よりのやや奥まったところまで進むと、さすがに周囲に他のシードリアの姿が見えなくなった。
昼の眩い陽光さえ陰る、薄暗い森の中――新しく習得した中級のオリジナル魔法の出来栄えを、さっそく戦闘で確認しよう!
くるりと枝の上で背後を振り返ると、スキル《存在感知》の反応通り、縄張りに入ってきた私たち侵入者を狙う、フォレストハイエナの姿が見えた。
目視できるのは、十匹がセットとなっている一つの群れの、その半数。
五匹のフォレストハイエナが、濃い緑のたてがみをゆらしてじりじりと間合いを詰めてくる様子を、枝の上から冷静に眺める。
今か今かと、飛びかかる機会を眼下の五匹がうかがう一方、残りの五匹もまた左右から近づいて来ていることが、《存在感知》の反応で読み取ることができた。
しかし結局、一定の範囲内に入ってしまうのであれば、私にとってはひと塊と大差ない。
そう……今から使う魔法が届く、中範囲内ならば。
――個体も集団も同じように、一網打尽が可能なのだから!
刹那、フッと不敵な笑みを口元にうかべ新しく昇華した中級魔法〈オリジナル:吹雪き舞う毒凍結の花細氷〉を発動!!
《同調魔力操作》で物をうかべて動かす時の感覚をそのまま活かし、ビュオウッ――と凍える音を立てて、左右から細氷と花弁と葉を吹雪かせ、眼下をも包み込む。
美しく煌めく細氷が、あっという間に十匹のフォレストハイエナを氷漬けにして、冴え冴えとした冷気が周囲をも凍てつかせた。
重ねて、色とりどりの花弁や葉が舞い落ちたその後には、薄い紫色のもやと化した毒が、まとわりついたフォレストハイエナの生命力を削っていき……。
ついには、緑のつむじ風が次々と巻き上がってかき消え、フォレストハイエナとの決着がついた。
リンゴーンと響くレベルアップの音を聞き流しながら、一度ぱちりと緑の瞳をまたたき、感情を整理して――実感した新しい魔法の強さを、言葉にする。
「……予想以上に、自由度と便利さを併せ持つ魔法ですね!」
『すごかった~~!!!!』
「えぇ!」
範囲型の魔法自体を、思うままに操作できるという自由度は、実に素晴らしいものだ。
凍結と毒効果の、二つの効果を同時に敵へと与えることができる便利さも、とても使い勝手が良いと感じる。
まさに、元となった二つの魔法の良さを存分に昇華した、今後も活躍間違いなしの魔法だと言えるだろう!
思わず、腰元で片手をぐっと握り込んで喜びを表現しつつ、けれど確認はこれで終わりではないと思い直す。
「もう一つの新しい中級のオリジナル魔法も、このまま確認をいたしましょう」
『うんっ!!!! かくにんする~!!!!』
遠い前方で反応した《存在感知》に気を引きしめながら、精霊のみなさんへと紡ぐ。
ぴたりとくっついたままで、元気に返事をしてくださる姿に頬をゆるませ、次いで不敵な笑みに切り替える。
軽く足場にしていた枝を蹴り、地面へとふわりと降り立って、新しくこちらへ向かってくるフォレストハイエナの群れのおとずれを静かに待つ。
高みの見物……もとい、枝の上から一方的に戦うのでは、次に確認する魔法の真価を見ることはできないだろう。
もちろん、魔法使いとしての本来の戦いかたとしては、なるべく距離を取るほうが正規の戦いかたなのだけれども。
やはり戦闘には、多少の緊張感も必要だと思うのだ。
それこそが――戦闘の醍醐味というものなのだから!
ガサリとゆれた前方の茂みの動きに、右手を軽くかかげる。
キラリと蒼の手飾りがゆれて煌き――瞬間、サッと手を払う動作と共に〈オリジナル:暗中へいざなう白光紫電を宿す闇霧〉を、一気に前方へと展開!
ぶわりと広がった闇色の霧が、茂みの中から飛び出してきた五匹のフォレストハイエナを空中でとらえ、闇の中で白き閃光と紫の雷光がパッと輝いた。
複数重なった鳴き声と、バリィ! と雷魔法特有の音が響いたのは、ほとんど同時。
ドサッと勢いよく地面に倒れ込んだ五匹のフォレストハイエナには、闇色の霧といまだ閃く白光の他にも、麻痺状態を示す小さな紫色の雷光が明滅している。
目くらまし兼麻痺効果、はこれで確認完了。
……とは言え、これだけではまだ確認は不十分だ。
一拍遅れて、後続の五匹が茂みから飛び出してくる。
――この間、ほんの数秒。
このていどの短い空白時間ならばと、反射的に最初の五匹にまとわりつく闇霧を動かそうと試し、ぶわりと再びおおい隠すように伸び広がった闇霧が、後続の五匹をもとらえて包み込んだ!
『キャンッ!!』
短く響く鳴き声と共に、再度闇の中で白と紫の輝きの攻撃を受けたフォレストハイエナたちが地面へと倒れ込む。
……これで、持続型ではないこの中範囲型の魔法が、それでも多少は私の意思の通りに持続して追撃のごとく展開するのだと分かった。
おそらく、これは先に試した花細氷の魔法でも、同様のことが可能だろう。
それに、闇霧の魔法については、もう一つ。
バリッと鳴る雷魔法の音にフォレストハイエナを見やり、最初に襲ってきた五匹が旋風となってかき消えたことで、しっかりとこの魔法が有する攻撃性も証明された。
すなわち――短時間とは言え、闇色の霧の内側にある水と雷が互いに影響し合い、麻痺だけでなく感電効果を引き起こしているのだと。
これにより、事実上の持続攻撃を受けた結果、フォレストハイエナを倒すに至ったのだろう。
残り五匹のフォレストハイエナも、闇の中で閃く白光による目くらましと、麻痺効果によって動けないまま、感電の攻撃によりあっという間につむじ風となってかき消える。
実に試しがいのあった魔法たちに、不敵な笑みから満足気な微笑みへと、自然に口元がやわらいだ。
これにて、魔法の確認は終了としよう!
肩と頭の上にぴたりとくっついてくださっている、小さな四色の精霊さんたちに優しく声をかける。
「みなさん、お付き合いありがとうございました。今回の魔法の確認はこれでお終いです。この後はお宿に戻って、私はまた一度空に帰りますね」
『は~い! ぼくたちいいこでまってる~!』
『うんっ! おやどにかえる~!』
『しーどりあ、まってる~!』
『まほうのかくにん、たのしかったよ!』
「ふふっ、はい! またすぐに戻ってまいります。魔法の確認も、また機会が出来次第、おこないましょうね」
『はぁ~い!!!!』
それぞれの返事が可愛らしくて、ついつい頬をゆるませながら、帰路につく。
宿屋である、まどろみのとまり木へと戻り、石盤にてレベルが三十五に上がっていることを確認して、各種魔法の解除と精霊のみなさんのお見送りとあいさつを交わしたのち、夜の食事のためにとログアウトを紡いだ。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




