二百十七話 中級魔法をこの手に!
好奇心と共に少々足早に書館を後にし、神殿へと向かう。
朝の眩い陽射しの下、石畳を軽快に進み、白亜の建物へと入り込むと、先に今回のログイン後にはまだおこなえていなかった《祈り》を、天神様と魔神様、獣神様と技神様へと捧げたのち。
精霊神様へも、お祈り部屋の中でしっかりとお祈りを捧げ――次いで流れるように、新しい中級魔法の習得に向けて、集中をする。
「まずは、二つのオリジナル魔法を併せて、新しい中級のオリジナル魔法へ昇華してみましょう!」
『お~~!!!!』
方針を告げた私の言葉に、小さな四色の精霊さんたちが元気よく声を上げ、白亜の小部屋の雰囲気が一瞬で凛と引きしまった。
お祈りのためにと組んだ両の手はそのままにして、深呼吸を一つ。
試すのは、魔力操作を意識した、オリジナル魔法の習得!
――微細で、精密で、高速で、同調する……舞う細氷と花弁と葉の、すべてをあやつる魔力操作。
それをおこない、魔法を発動するイメージを、鮮明に……!
刹那、しゃらんと鳴った美しい効果音に眼前を見やると、空中には光る文字が輝いていた。
[〈オリジナル:吹雪き舞う毒凍結の花細氷〉]
文字をなぞった緑の瞳が、キラリと煌くのを自覚する。
魔力操作の意識を加え、ダイヤモンドダストのような細氷を吹雪かせる、お気に入りのオリジナル魔法〈オリジナル:吹雪き舞う凍結の細氷〉と、魔法書から習得した〈オリジナル:舞い踊る毒の花風〉を昇華した――新しいオリジナル魔法の完成だ!!
素早く灰色の石盤を開き、説明文を読み上げる。
「[無詠唱で発動させた、中範囲型のオリジナル攻撃系複合中級風・氷・緑魔法。発動者の意思の通りに、細氷と共に毒のある花弁や葉を吹雪かせ、中範囲一帯を凍結と毒状態にする。他の水魔法を加えることで、より凍結が強固になり、他の毒効果をもつ緑魔法を加えることで、より強い毒状態になる。無詠唱でのみ発動する]! 中級のオリジナル魔法の習得、大成功です!!」
『だいせいこう~~!!!!』
思わず組んでいた両の手をほどき、ぐっと拳を握り込む。
くるくると周囲で舞い踊り、喜びを表現する精霊のみなさんの可愛らしさに、つい満面の笑みがうかんだ。
しかし、このオリジナル魔法の昇華は、いわゆるお試し。
本番は、次に習得に挑戦する魔法のほうだ。
すっと表情を引きしめると、精霊のみなさんも舞うのを止めて、ひゅいっとそばへとよって来てくれる。
それに微笑んでから、再度集中のために瞳を伏せた。
もう一つ、閃いた中級魔法は、二つの学びから思いついた魔法。
暗闇での閃光が充分視覚的には脅威となり得るという、水晶卿の魔法陣トラップからの学びが一つ目。
二つ目の学びは、以前エルフの里の地底湖ダンジョンで学んだ、水場での雷魔法の怖ろしさだ。
今回は、この二つの学びを併せた、目くらまし兼麻痺効果兼攻撃……のような、デバフ兼攻撃魔法を、習得したい!
しかし、これは単純に考えてしまうと、闇と光、そして水と雷の四つの属性を使った魔法となってしまう。
複数の属性を合わせ、一つの複合属性魔法にする複合魔法として組み合わせることができるのは、現状はまだ三つの属性だけであり、この問題点が引っかかってしまい、習得できない可能性があるのは事実だ。
けれども、ここで新しく閃きが降る。
四つの属性ではなく、二つの属性ずつに分けてイメージすることで、四つの属性の複合魔法ではなく、二つの属性の複合魔法が二つある、と認識してみるとどうだろう?
そうすれば、複数の種類の魔法を同時に発動する並行魔法として、二つの属性の複合魔法を二つ並行発動するという、分類をすることができるのではないだろうか!
そして、デバフ兼攻撃、つまり補助系兼攻撃という二つの系統かつ、合計四つの属性をもち、さらには複合と並行という属性魔法操作をすべて併せて使う魔法こそ――《複雑属性魔法操作》を用いる、複雑魔法と呼ばれる魔法だ!
私はすでに、この複雑の名がつくオリジナル魔法を、二つ習得している。
今もふわりと金から白金へと至る長髪を、涼しげなそよ風でゆらす、〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉。
そして、戦闘時に見事な足止めと圧倒的な殲滅力を見せてくれた、〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉だ。
すなわち――この二つのオリジナル魔法のように、しっかりと《複雑属性魔法操作》を活用することで、きっと今回の魔法も習得ができることだろう!
後は、さきほどの昇華と同じように、魔力操作を意識しつつ、魔法を鮮明にイメージすることで、習得ができる、はず。
想像するのは、四つの属性を併せた目くらましと攻撃をおこなう魔法……。
闇色の霧と、その中で煌き奔る閃光と雷光――これだ!!
『しーどりあ、がんばれ~!!!!』
閃きと共に、四色の精霊さんたちの声援が耳に届く。
精霊のみなさんの素敵な応援を受けた私に、できないことなどあるはずがない!!
フッと上がる口角をそのままに、深く集中。
そのまま、今まさに魔法を使うように魔力を動かし、魔法の形をイメージして――しゃらん、と鳴った効果音に、反射的に笑みが零れた。
閉じていた緑の瞳を開き見た空中の文字は、[〈オリジナル:暗中へいざなう白光紫電を宿す闇霧〉]。
灰色の石盤の中、追加で刻まれた説明文には、
[無詠唱で発動させた、中範囲型のオリジナル補助系兼攻撃系、複雑中級闇兼水、光兼雷魔法。発動者の意思の通りに、濃い闇色の中で眩い小さな白い閃光と紫の雷光が煌き奔る霧をまとわせ、中範囲一帯に目くらましと麻痺効果を与え、同時に攻撃する。無詠唱でのみ発動する]
そう、まさしく想像した通りの魔法の説明が、書かれていた。
「こちらの魔法の習得も、大成功です!!」
『やったぁ~~!!!!』
思わず上げた歓喜の声に、同じく歓声を上げた精霊さんたちとハイタッチを交わす。
嬉しさと満足さをかみしめながら、改めて精霊神様へと感謝の《祈り》を捧げ、神殿から出ると、すでに昼のあたたかな陽射しが大通りに降り注いでいた。
さぁ、お次は――確認の戦闘へ!




