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二百十六話 調べものは書館にて

 



「なにはともあれ。無事に地上に戻ってくることができて、良かったです」

『よかった~~!!!!!』


 夜明けの光射す裏路地で、改めて安堵の吐息をつく。

 くるくると嬉しそうに舞う小さな五色の精霊さんたちに微笑み、その中でも魔法陣の場所へと案内してくださった、闇の精霊さんに感謝を伝える。


「小さな闇の精霊さん。ご案内、本当にありがとうございました」

『うんっ! しーどりあのちからになれて、うれしい~!』

「ふふっ、本当に助かりましたよ」

『えへへ~!』


 ふよふよと、左右にゆれて照れる姿に、ついほっこりと胸をあたためていると、空から降り注ぐ光の色がパァッと移り変わった。

 どうやら、夜明けから朝の時間へと、切り替わったらしい。

 小さな闇の精霊さんが姿を隠すのを見届け、それではと裏路地から書館が建つ表の通路へと戻ってくる。

 朝の時間になったのであれば、この時間にしかできないことをしたい。

 手はじめに――書館にて、水晶卿のことが書かれた本がないか、調べてみるとしよう!


 ――と、意気込み書館で水晶卿について書かれた本を、探してみたものの。


「うぅん……ありませんね」

『みつからない~~』


 小声で、小さな四色の精霊さんたちと言葉を交わし合う。

 残念なことに、ひと通り本棚を見て回り、幾つかの本の内容を確認してみた結果、水晶卿クリスタルスさんについて書かれた本を見つけることはかなわなかった。

 しかしそれも、さもありなん。

 水晶卿ご自身が遺したのだろう言葉でさえ、石盤と言う手段で遺されていたことから、そもそもかなり古い時代に生きていた人なのだろうと、元より察しはついていた。

 ……つまるところ、本という記録媒体が発展する前の時代の人物であるため、本という形では記録が残っていない、ということなのだろう。

 とは言え、諦めるのはまだ早い。

 現段階では、あくまでもこのパルの街の書館では水晶卿についての記録が見つからなかった、というだけのことで、もしかすると他の街の書館にはあるかもしれないのだ。

 いつか行くことができるようになれば、以前クインさんがお話してくださった、より多い蔵書を誇るらしい王都の書館でも、記録を探してみよう。

 ――せめて、大切なものを託してくださったかたが歩んだ、人生と言う名の道のりくらいは、やはりもっと知っておきたいと思うから。


 一つ頭を軽く振り、それではと改めて気合いを入れ直す。

 書館に来たからには、他にも確認したい種類の本があったのだ。

 巡らせた視線の先、司書のみなさんがいらっしゃるカウンターの、その横にある扉には、[魔法に関する本を読むことを希望するかたは、司書へお声がけください]と書かれた木の板がかけられている。

 おそらくは、その扉の先が、魔法に関する本の置き場所なのだろう。

 どうりで以前ざっと本棚を確認した際、魔法に関する本が一冊もなかったわけだと、思わず納得しながらカウンターへと向かい、視線が合った老年の司書さんにエルフ式の一礼をする。

 魔法に関する本が読みたい旨を伝えると、すぐに笑顔で扉の前へと案内をしてくださり、扉をノックして奥の部屋へと声をかけていただけた。

 開いた扉の奥の部屋にも、どうやら司書さんがいたようで、どうぞと内へ導かれるまま部屋に入ると、こちらでもふわりと紙の本の香りが嗅覚をくすぐる。

 シードリアのかたなのでご自由に、と告げられた言葉には感謝しつつ、しかしさすがに現状読むことができる魔法関連の本が、多いとも限らないだろうとも思い、覚悟と共に見やった最初の本棚の中。


 [中級魔法各種概要]


 そう、書かれた背表紙を視線でなぞり、思わず緑の瞳を見張った。

 ……まさか、ついに堂々と中級魔法を習得してください、と告げているようなタイトルの本と出逢うことになろうとは……!

 キラリと、緑の瞳が煌くような心地に、口角を上げる。

 そっと本棚から抜き取り、この部屋にも置かれていた机へと向かい、椅子へ優雅に腰かけ――丁寧に、表紙を開いた。

 さらさらと連なる文字をじっくりと視線でなぞり、タイトル通りに中級魔法と呼ばれる各種魔法について記された、概要を理解する。

 いわく、基礎的な中級魔法習得の条件である、レベルは三十以上から可能ならば五十であること、そして習得を希望する各種属性の魔法に親しんでいることは、やはり大前提であるようで。

 さらには中級魔法と呼ばれるものにも、既存の魔法からオリジナル魔法、その他特殊な魔法まで幅広い魔法が、中級の区分として呼ばれているため、必ずしも基礎的な条件を満たしているだけでは、習得が困難な場合は多々あるらしく。


 [特殊な魔法はそもそも様々な部分が特殊ゆえにはぶくが、特にオリジナル魔法の習得に関しては、各種魔力操作や想像力にも影響されることを忘れてはならない]


 そう書かれた文を二度読み、ようやく、私がなぜ現時点で中級のオリジナル魔法を三つも習得することができたのか、クインさんの解説だけではなく、私自身の認識でも理解するに至った。

 なにせ、魔力操作に関しては少々どころではなく、思い当たる節がある。

 スキル《微細魔力操作》からはじまり、《精密魔力操作》に《高速魔力操作》、そして《同調魔力操作》。

 これらは明らかに、この本に書かれている各種魔力操作、そのものに間違いない。

 その上で、今回の学びによって、一つの可能性が提示されたことにも、気づくことができた。

 すなわち、これら魔力操作と鮮明なるイメージをもってすれば――より確実に、魅力的な中級のオリジナル魔法を習得することが、可能になるのではないかと!

 すでに習得している三つの魔法の内、一つは魔法書の恩恵だが、残りの二つの魔法はそもそもパルの街へおとずれる前、エルフの里で習得したもの。

 三つの魔法の習得時に共通しているのは、イメージこそ鮮明であっても、魔力操作を意識して習得したわけではなかった、という点だ。

 では、実際に魔力操作まで意識して、イメージを想い描いた魔法は……果たして、どこまでとんでもない魔法として、完成するものなのだろうか?

 思い立ったが吉日――さっそく、新しい中級魔法の習得に、挑戦してみよう!!




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― 新着の感想 ―
[良い点] ロストシードさんの魔法への探究心に火が点きましたね(≧▽≦)これはまた何かとんでもない事をやってくれそうで楽しみです✨ ロマンよ、今ここに具現化せよ〜っ!!(*ฅ´ω`ฅ*)
[一言]  これはオリジナル魔法(例えば水+土で水滴る地の底無き泥土とかでしょうか)を増やして後の幕間で「やっぱりロストシードさんは凄いや」と言われる流れでしょうね
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