二百十一話 強者認定とアクアキノコ
第一回戦の護衛戦を無事に乗り切り、宵の口の薄暗いダンジェの森を、更に奥へと進むことしばし。
必然的にはじまったフォレストハイエナとの二回目の戦闘を、しっかりとお二方をお護りしながら華麗な魔法で終息させた後――また歩みを再開させながら、アルさんが隣でため息を零した。
「や、しょ~じき、ここまでとは思ってませんでしたマジで凄すぎる!」
「び、びっくりしすぎて、もう、なんて言えばいいのか……」
「それなぁ!!」
つづいたノイナさんの言葉に、勢いよくアルさんが同意する。
驚きや戸惑いの雰囲気を放つお二方が、私の戦闘に関して話していらっしゃるのだ、とはさいわいにもすぐに気づくことができたので、軽く首をかしげて問いを呟く。
「……ええっと、そう、でしょうか?」
「――あのな、ロストシードさん? 一応……と言うか、もう今後のためにもハッキリと言っておくが」
「え、えぇ」
「……あんた、とんっでもない! 強さだからな!?」
「あたしも! 超強いって思うよ!!」
「おや……」
とても真剣な表情で、お二方にそろって強いと叫ばれてしまった。
思わず、少しだけ眉を下げてしまう。
「俺は勝手に確信したんだが、あんたほぼほぼ確実に、最先端の街にいる攻略系と同じくらい強いって、自覚したほうが良いぞ」
「わぁ……そこまでなんだ?」
「あ~……まぁ、な」
半眼でこちらを見るアルさんに、ノイナさんが驚き、次いでそれに端的に答えたアルさんの視線が、またもや突き刺さる。
これは……もしかしなくても、アルさんは私がすでに最先端のトリアの街へ行ったことがあるという事実を、ご存知なのかもしれない。
「いやぁ、あはは……自覚って、大切ですねぇ」
「本当にな」
「うんうん!」
思わず、乾いた笑みを零しつつ呟くと、お二方の綺麗な肯定が返ってきた。
私としては、正直なところ弱くはないものの、まだまだだと思っていたのだけれども。
――そろそろお二方の助言通り、本格的に自身がそれなりな強者であることを自覚して、今後の言動を調整したほうがいいかもしれない。
嬉しいことに、強い魔法使いとはその姿自体が私にとってのロマンだ。
その理想に近づくことに関しては、不満などあるはずもないのだから、むしろしっかりと今度こそ自覚しよう!
そっと静かに脳内で決意をして、一人小さくうなずいていると、『それはそうと』とアルさんが再び静けさを破る。
「ロストシードさんの動きはなんって言うか……かなりなめらか? だな?」
「あ! それあたしも思ってた! アルさんとも、なんか違う気がして」
「そうなんだよなぁ」
「あ、あぁ……ええっと。エルフの里の森の中で、ずいぶんと動きの練習をいたしまして。その成果、かと!」
「へぇ、動きの練習か。なるほどなぁ」
「すご~い!!」
疑問に返した答えに、感心してくださるお二方の笑顔がやけに眩い。
返した言葉が、真実であることは間違いないのだが……。
それでも少々心苦しいものを感じるのは、身体動作がなめらかな本当の理由である、獣神様から旅立つ餞別にと授かったスキル《身体機能向上》について、伝えていいか分からなかったがゆえに、にごしたから。
もっとも、これに関してはネタバレへの配慮としても必要な対応なので、いたしかたがない。
「ロストシードさんの場合は、もうそう言う基礎的なところから、強さが違うんだろうなぁ」
「うんうん!」
「そう……だったのですね」
まさか、負担なくなめらかに動ける自身とお二方との動きの違いまで、強さと解釈されるとは思ってもみなかった。
とは言え、これもまた認識を改めたほうがいい部分なのだろう。
そうして――もはや一周回って、いろいろな認識の違いが楽しく感じてきた頃。
水が流れる音に、ふと前方へと視線を投げると、ふわっと私とアルさんのところの小さな水の精霊さんたちが眼前へ移動して、くるりとそろって一回転を見せてくれる。
『ちいさなかわ、むこうにあるよ~!』
『かわ~! あっち~!』
「えぇ、ありがとうございます。これでようやく、アルさんお目当ての素材を採取できますね」
「だな。教えてくれてありがとな~」
『えへへ~!!』
前方に小川があることを教えてくださった、水の精霊さんたちの嬉しげな反応がそっくりで、ついついアルさんと一緒に微笑ましげに見つめてしまった。
「アルさんがほしい素材って、たしかアクアキノコ……だったよね?」
「正解。水ポーションの素材の一つなんだよ」
「あ! あれか~!」
「そ。あれな」
楽しげに言葉を交わすノイナさんとアルさんを眺めつつ、以前書館で読んだ[錬金術素材 下級錬金薬編]というタイトルの本の内容を思い出す。
今回のアルさんのお目当てであるアクアキノコは、水属性の魔法の効能を一時的に上げるバフ効果を宿す、水属性魔法威力向上下級ポーション……通称、下級水ポーションの素材。
ダンジェの森のなかほどを流れる小川の中に生えている、水色のマッシュルームのような小さなキノコらしく、採取自体は簡単だと書かれていた。
バフ系のポーションは、戦闘時にとても役立つだろうから、私も今後を見据えて幾つか採取しておくのもいいかもしれない。
そのように考えながら、たどり着いたさらさらと流れる小川の中、本に書かれていた通り、水の色と同化してしまいそうな小さなキノコがぽつぽつと生えているのが見えて、自然と口角が上がる。
「わ~! いっぱい生えてるよアルさん!!」
「だな! ロストシードさんも、今後水ポーションをつくる予定があるなら、今日採っておいて損はないと思うぞ~」
「分かりました。では、お言葉に甘えて少しだけ、採取させていただきますね」
「おう!」
かくして、三者三様の瞳を煌かせながら、小川の中の小さなキノコを採取するひと時は――はじめてシードリアの友人とおこなった冒険の中の、実に楽しい一幕となったのだった。




