二百八話 はじめてのパーティー結成!
一時間後に集合、ということで、いつもより素早く昼食をすませて、約束の時間の十五分前に――ログイン!
『おかえりしーどりあ~~!!!!』
「はい、ただいま戻りました、みなさん」
アトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋である家の、ログアウトをした小部屋の中で、水と風と土と光の小さな四色の精霊さんたちと、あいさつを交わす。
腰かけていた椅子から立ち上がり、さっと周囲を見回してみる限り、どうやらちょうど今は、この小部屋の中に誰もいないようだ。
では今のうちにと、素早く各種魔法を発動させ、小さな多色と水の精霊さんたちにはかくれんぼをしていただく。
一瞬で完了したいつもの準備に、我ながら手慣れたものだと口角が上がった。
「さて。お隣の部屋にまいりましょう」
『はぁ~い!!!!』
小さな四色の精霊さんたちの元気な返事を聴きながら、木製の扉を開いて広い部屋のほうへと移動する。
自然と視線を移した先――並ぶ窓から射し込むのは、夕方の時間を示す橙色の光。
眩さに緑の瞳を細めつつ、どなたかが空から戻ってきていらっしゃるのであればご挨拶をと思い、ひと通り部屋の中を見回してみたものの……広い室内にも小部屋の隣の鍛冶部屋にも、まだ誰の姿も見えなかった。
それならばと、大きな机へと歩みより、ログアウトする前に座っていた、手前側の右から三つ目の椅子へと、優雅に腰を下ろす。
約束の時間まではまだ少し時間があるので、ここでのんびりと精霊のみなさんとたわむれながら待つことにしよう!
「ノイナさんとアルさんが空からお戻りになるまでは、お話でもしていましょうか」
『わぁ~! おはなしする~!』
『しーどりあと、おはなし~!』
『いっぱいおはなしする~!』
『おはなし、すき!』
微笑みながらお伝えしたささやかな方針は、どうやら精霊のみなさんのお気に召したらしい。
ただ、お話をしたり精霊のみなさんの舞を眺めたりしながら、ノイナさんとアルさんが空から戻って来てくださるのを待つ時間は、決して長いものではなかった。
ぱっと、右隣の空間に小さな三色の精霊さんたちが唐突に現れ、それに驚いている間に、隣の椅子へと腰かけたアルさんの姿も、刹那輝いた金光と共に出現する。
【シードリアテイル】のサービス開始九日目にして、はじめてシードリアが空から帰ってくる際のエフェクトを見ることができた!!
思わず、感動が胸に湧き、口元の笑みが深くなる。
つい右隣へと視線を注いでいると、大地へと戻ってきたアルさんは深緑の瞳を開き、アルさんのところの小さな三色の精霊さんたちを見た後、特に驚く様子もなく今度はこちらへとその視線を移した。
「おぉ、はやいな、ロストシードさん」
人好きのする笑みをうかべて、そう紡ぐアルさんに、ゆるく首を横に振る。
「いえ。私も空から戻ってきたのは、ほんの少し前です」
「そうだったのか。リーダーは……」
アルさんの呟きに、自然と二人そろって巡らせた視線の先――対面の椅子で金光が輝く。
「お、きたきた」
なごやかに声を上げたアルさんの声に、銀の丸メガネを片手で押し上げながら、ノイナさんがぱちりと薄い青緑の瞳を開いて、流れるように見張った。
「わ! ごめん! 遅れた!?」
瞬間、驚きと共に響いた謝罪に、アルさんと一緒に再度首を横に振ってから、口を開く。
「いえ、早いくらいです。約束のお時間まで、まだ時間がありますから」
「だな」
「よ、良かったぁ~!」
アルさんと二人そろっての言葉に、ノイナさんはぺたりと机に突っ伏して安堵を言葉に変える。
無事に今回冒険を共にするメンバーがそろったところで、この【シードリアテイル】では私にとって未知であるパーティーについて、お二方に尋ねてみよう。
「ところで、この大地でのパーティーの組みかたとは、どのようにおこなうのでしょうか?」
『わくわく!!!!』
私の問いかけに、小さな四色の精霊さんたちも興味を示す言葉を上げる。
私たちの様子に、ノインさんとアルさんは一瞬視線を交わし、次いでアルさんが口を開いた。
「今分かってるパーティーの組みかたは、実は二つあるんだよな」
「二つ、ですか?」
思わず小首をかしげると、ノインさんがうんうんとうなずく。
アルさんも一つうなずき、説明のつづきをしてくださった。
「石盤を開いて、互いに承認し合って登録するっていう方法と、互いと向かい合ってパーティー! って唱えるだけで組める方法の、二つだ」
「なるほど……! それはなんとも、どちらも魅力的な組みかたですね!」
反射的に湧いた好奇心に、つい声音が跳ねる。
すると、右隣と前方の椅子に座るお二方が、小さく噴き出した。
「ははっ! パーティーの組みかた一つで喜ぶ人は、ロストシードさんがはじめてだ」
「うんうん! あ、でも……よく考えたらたしかに、結構楽しそうっておもえる、かも?」
「まぁ、パーティー! って唱えるやつは、ちょっと新鮮ではある」
「それそれ! 新鮮!!」
楽しげに連なったお二方の会話に、一瞬生まれた気恥ずかしさはすっかり引っ込み、微笑みがうかぶ。
お二方の会話の通り、登録する方法も古典的でなかなかに楽しげだが、一言唱えるだけの簡易的な方法は、実に新鮮だと私も思う。
アルさんいわく、実際に現在すでに普及しているのは簡易的なほうらしいので、今回はこちらの方法で組むこととなった。
机を挟んだ状態から移動して、部屋の中央で三人共が向かい合って立つと、それぞれの瞳を見やり、せーの! と声を合わせて合図の一言を唱える。
「パーティー!!!」
凛、と広い部屋に響いた合図の言葉に、変化したのは視界の左上。
「おぉ……ノイナさんとアルさんのお名前と、生命力ゲージと魔力ゲージが見えます!」
「よっし、成功っと」
「これで、パーティー結成、完了!」
新鮮さを言葉にすると、アルさんは落ち着いた様子で、ノイナさんは私と同じく楽しげに、これで無事パーティーが組めたのだと教えてくださる。
『わぁ~~い!!!! ぱーてぃー!!!!』
『ぱーてぃー!!!』
こちらの四色の精霊さんたちと、アルさんの三色の精霊さんたちも私たちのマネをして、楽しげに声を響かせる様子がとても可愛らしく、思わず頬がゆるみかけた。
なんとか笑みの範囲にとどめることに成功しつつ、しかし心はまだはじめてのパーティー結成の感動に弾んでいる。
――必然的に、これからおこなうパーティーでの冒険にも、期待と好奇心が湧いた。




