二百七話 幕間二十二 まさかの展開すぎないか?
※主人公とは別のプレイヤー、アル視点です。
(幕間八、幕間十二と同じプレイヤーさんです)
ロストシードさんがログアウトをするため、主に俺が作業部屋として使っている小部屋に入っていく姿を見届けて――ふぅ、とうっかり大きな息が出た。
まぁ、息まで正確に表現されているわけではないんだが。
【シードリアテイル】のゲーム開始から九日目の、リアルの世界では昼飯時も近づいてきた頃。
参加しているアトリエのリーダーが、エルフのプレイヤーの中で一番有名って言っても過言ではない、あの精霊の先駆者なロストシードさんを、勧誘して連れてきた。
……マジで、どうしてそうなった、とその場で聞かなかったのは、さすがに英断だったと我ながら思う。
だからって――まさかの展開だっていう事実に、違いはないけどな!?
リーダーのノイナさんの言葉に、作業部屋から顔を出すと……本当にこのクラン部屋の中に、ロストシードさん本人がいて、顔に出なかったのが奇跡ってくらい驚いた。
それはもう、本人を前にして失敬にも例の人、なんて呼び方をうっかり零すくらいには。
さいわい、なんとかもち直して普通にいつも通りな感じのあいさつをしたけど。
……それにしたって、びっくりな状況すぎるし、むしろひっくり返るかと思ったが?
という気持ちを込めて、リーダーの銀縁丸メガネの奥の目を一瞬だけじぃっと半眼で見たら、サッと視線をそらされた。
ついでとばかりにみんなに声をかけて、大きな机に腰かけるように誘導するあたりは、まぁさすが一つのクランのリーダーだ、って感心するところなんだけどな。
席に着いて、俺の左隣に座ったロストシードさんの、アトリエの参加登録を見守りながら、脳内で現状を整理する。
――精霊の先駆者で、攻略系くらい強い魔法が使えて、錬金術の先駆者な俺と同じくらい錬金技術を扱える、よく分からない運と力と技量をもつ、このロストシードさん。
まず一点、この人がアトリエに参加したっていう点から考えられるものとして、やっぱり俺が思っている以上にのんびりとした遊び方が好きなプレイヤーなのかもしれない、ということが考えられる。
あるいは、予想以上に生産系の技術を伸ばしていくことに、楽しみを見出すタイプなのかもしれない。
後者であれば、俺も同じだから、話が弾みそうで素直に楽しみではある。
次に二点目として、このロストシードさんが一つのクランに参加したっていう事実ができた点は、少しばかり問題になるかもしれない。
前例がこうしてできた以上……今後、この人を自身のクランに入れよう! なんて意気込むクランリーダーが、いないとは限らないと思うんだよな~。
下手をすると、ロストシードさんに参加してもらいたいっていうクラン同士で、争奪戦が繰り広げられる可能性さえ、なきにしもあらず、だ。
――とは言っても、実際にはそんなことは起こらないだろう、とも思う。
そもそも実のところ、ロストシードさんの凄さとか重要性を正確に把握しているのは、現時点ではエルフの世迷言板をしっかり確認しているプレイヤーに限られてるんだよな。
その中でも、よく俺とも会話してくれる常連な攻略系の人とか弓使いの人とか、良い子な気しかしない本についての情報をくれた子とか元気な子とかは、まず間違いなくロストシードさんの意思を尊重するだろうし。
そうなると根本的に、ロストシードさんを勧誘するクラン自体の総数が、それほどふくらまない可能性のほうが高くなるわけだ。
まぁ他はともかく、攻略系の人だけは、上手く他のクランをけん制しつつロストシードさんに自身が参加している攻略系クランへ興味をもたせる……くらいは、するかもしれないが。
そんな風に思考を巡らせている間にアトリエへの参加登録は終わり、次はと閃いたフレンド登録の問いかけに、心底嬉しそうな笑顔でぜひともと言われては、こちらとてまんざらではない、というものだ。
……もっとも、その後に左隣でくり広げられた、精霊たちとのやりとりを見た以上、ロストシードさんと俺たちプレイヤーがフレンドとして仲良くなったとして、とてもではないが精霊たちにはかなわないだろうな、とも察したが。
そんな一幕がありつつも、無事にフレンド登録をおこない、楽しく会話して最後に冒険の約束をとりつけ、四体の下級精霊と共に作業部屋に去る姿を見送って――今に至る。
や、本当にこれ、現実か??
マジであのロストシードさん本人が、先駆者がいるから凄いと言えば凄いが、それにしたってそれ以上の特別さはまだないこのアトリエに、参加を……したんだよな!?
――ならやっぱり、今回の最大の功労者は凄すぎるだろ!!
「う~む。うちのリーダーは凄すぎる」
「ええ? あたし、すごいの?」
「正直、めちゃくちゃ凄いと思うぞ~。あのロストシードさんをクランに入れたんだからな」
「そ、そうかな? えへへ~!」
思わず腕組みをしながらしみじみと呟いた言葉に、不思議そうな顔で反応したリーダーにしっかりと偉業だと伝えておく。
普通に嬉しそうな顔で照れているところを見る限り、これはまったく自身がしたことの凄さを理解してないな……。
少しばかり生暖かい眼差しで、ナノとたわむれるリーダーを眺める。
俺と似たような視線をリーダーに向けているドバンスあたりは、実際にロストシードさんのとんでもなさ自体は理解していなくても、たぶん俺がリーダーに伝えた言葉の意味くらいはわかってくれているはずだ。
ついでに、幼げな見た目と言動に反して中身はかなりしっかり者なナノも、おそらく気づいているだろう。
……表面上はさすがにとりつくろったとは言え、それでも二人は俺がロストシードさんを見て驚いていた様子を、察していたようだったからな。
まったく、とんだサプライズもあったものだ。
とは言え、今後あのロストシードさんと、錬金術の技術についての話ができることは本気で楽しみだし、その他にもいろいろと面白い話とか出来事とかが、ありそうな予感がするんだよな~!
それにまずは、昼食後に約束した素材収集の冒険の中で、魔法を見ることができるだろうから……。
いよいよ、間近で見ることができるその強さを――お手並み拝見、ってな!
※明日は、
・九日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




