二百五話 参加と登録と交友のはじまり
明るさが一段と増した、窓から射し込む陽光に、ここで朝から昼へと時間が移り変わったのをさとる。
ぽかぽかとあたたかな陽光が満ちた部屋の中、窓側に置かれた大きな机へと移動して、それぞれが椅子に腰かけた。
それとなくみなさん定位置があるようで、机を挟んで窓側にノイナさん、その隣にナノさんが座り、ノイナさんの対面にドバンスさん、その隣にアルさんが腰かける。
つられてアルさんの左隣の椅子へと腰を下ろすと、ノイナさんが両の掌を打つ音が響いた。
「では! 次は登録をしましょ~!」
「いや、まだだったのかよ」
「うん!!」
「ふふっ。先に、みなさんとご挨拶をおこなう流れになりまして」
「なるほどなぁ」
快活な声で方針を紡ぐノイナさんに、ズバッとツッコミを入れるアルさん。
なんとも見事なやりとりに、つい笑みを零しながら説明をすると、アルさんの納得と、ナノさんとドバンスさんの肯定のうなずきが重なった。
仲の良さが伝わる仕草にまた微笑みを深めながら、さっそくとアトリエへの登録をはじめる。
笑顔で説明をしてくださったノイナさんいわく、アトリエに限らずクランは、シードリアの特権としての石盤を使って、登録をおこなうらしく。
このいわゆるシステム上の登録は、クランのリーダーから参加の可否が書かれたページが石盤として届き、それに参加者が名前を書いて登録するという、とてもシンプルなものだった。
「では、これで」
「はい! これで今から、ロストシードさんも【紡ぎ人】の仲間入りです!」
眼前にうかぶ石盤を指でなぞり、[ロストシード]と名前を書き込むと、ノイナさんの目の前へと移動した石盤を彼女が承諾して、登録完了。
リンリン! と高い鈴の音が二回鳴り、前方の空中に[アトリエ【紡ぎ人】に参加]という文言が、光り現れたのち静かにとけ消えて行った。
ようやく、本当にアトリエに参加したのだという実感が湧いてくる。
しみじみと感じる嬉しさに、微笑みを深めていると、「おっと、そうだ!」と今度はアルさんがポンッと手を打った。
深緑の瞳がこちらを見やり、口が開く。
「せっかくの機会だ。ロストシードさんさえよければ、フレンド登録のほうもするってのは、どうです?」
のほほん、と緊張を見せずに紡がれた問いかけに、思わず一度ぱちりと緑の瞳をまたたき、すぐに笑みを深める。
「それはぜひとも!」
『おともだち~!』
『しーどりあの、おともだち?』
『なかよし、いいこと~!』
『わぁ! すてき!』
「えぇ。同じシードリアのかたでははじめての、おともだち、ですね!」
つい声音を弾ませた返答に、肩と頭の上でぽよぽよと跳ねながら、小さな四色の精霊さんたちが嬉しげに紡ぐ。
それに笑顔のまま言葉を返すと、【紡ぎ人】のみなさんが驚いたような表情になった。
「えっ!? はじめて!?」
「へぇ? ロストシードさん、フレ登録はじめてなんですか?」
驚愕の声を上げて、ずれそうになった銀の丸メガネを押し上げるノイナさんと、愉快気に深緑の瞳を細めたアルさんの言葉に、素直にうなずきを返す。
「はい。フレンド登録は、みなさんがはじめてとなります。……あ、いえ、クランの参加もはじめてなのですが」
「それは光栄だな」
『こうえい~!!!』
「やば、かなりうれしい!」
「わぁいです!!」
「うまい巡り合わせもあったものだの」
順にアルさん、アルさんのところの小さな三色の精霊さんたち、ノイナさんにナノさん、ドバンスさんとつづいた嬉しげな言葉に、ふわりと微笑む。
はじめてのフレンド登録に、私自身が感じている喜びを、みなさんも感じてくださっていることが、素直にとても嬉しく感じた。
ほのぼのとした穏やかな雰囲気が、この場に満ちる。
――と、なごやかな空間に、唐突にぱっと、小さな四色が躍り出た。
それは、肩と頭の上から目の前へと移動してきた、小さな四色の精霊さんたち。
精霊さんたちは束の間、相談し合うように身をよせた後、まるで代表のように水の精霊さんが少しだけ前に出て、ふよふよと左右にゆれる。
どことなく、不満げな……あるいは不安そうなその姿に、思わず緊張を感じて背を伸ばした、次の瞬間。
水の精霊さんがその身の青い光を、一度だけより輝かせて、
『あのね! でもでも! しーどりあのいちばんのともだちは、ぼくたちだよ!』
そう、幼げな声を真剣に響かせた。
『ぼくたちが、いちばん~!!!』
「おぉ?」
水の精霊さんの言葉につづいた風と土と光の精霊さんたちの言葉に、アルさんが不思議そうな声を上げる。
……しかし困ったことに私には、アルさんへその疑問の答えとなる説明を紡ぐ余裕が、なかった。
あぁ――精霊のみなさんは、本当に愛らしい!!
思わず四色のみなさんへと両手を伸ばし、掌でつつんで胸元へ引きよせ、この思いの丈を言葉に変える!
「もちろんです!! 私の一番の友人は、小さな精霊のみなさんです!! 何人たりとも、私とみなさんの友情を、否定することなどできないのです!!」
『わぁ~~い!!!! しーどりあだいすき~~!!!!』
「私もみなさんが大好きです!!」
うっかり全力で声音を跳ねさせてしまったけれど、これは仕方がないことだ。
精霊のみなさんへの愛しさは、いつだって胸からあふれてしまう寸前で、ようやく留めているくらいなのだから!
きゃっきゃと胸元で喜び、それぞれの光を明滅する小さな四色の精霊さんたちの可愛らしさに、すっかりトリコになっていると、右隣から笑い声が零れた。
「ふ、ははっ! 予想以上の溺愛だな」
「それはもう! なにせ精霊のみなさんは、最高に素晴らしい存在なので!!」
『えへへ~~!!!!』
楽しげなアルさんに、こちらも満面の笑みで返す。
溺愛上等! 精霊のみなさんとの友情に関して、私には恥じる要素など一欠けらもない!
胸元で、もじもじと照れながら喜ぶ小さなみなさんは、間違いなくこの世界一素晴らしい存在だと言えるだろう!!
「すっごく仲良しなのです!」
「さっすが! 精霊の先駆者!!」
「聞きしに勝る、だの」
ナノさんがぱたぱたと淡いピンク色の翅をゆらし、ノインさんが机の上に乗り上げる勢いで薄い青緑の瞳を輝かせ、ドバンスさんが感慨深げに呟く。
……一部なにやら気になる単語が混ざっていた気がするものの、それぞれの言葉に、胸元の精霊さんたちを掌で撫でながら、口元の笑みを深める。
一度掌にすりっと可愛らしくすりよった精霊のみなさんは、しかし私の考えを察して下さったらしく、すぐに胸元からいつもの定位置である肩と頭の上へと戻っていった。
その気遣いをありがたく思いつつ、改めてアトリエ【紡ぎ人】の仲間となったみなさんへと向き直り、ふわりと微笑む。
「みなさんとの交友も、とびきり素敵なものにしていきたいと、心から思っておりますよ」
――この言葉が本心であることは、きっと伝わるだろう。
このあたたかなメンバーにはそう思えるほどの、ある種の純粋さのようなものを、ずっと感じていたから。
事実、穏やかに紡いだ私の言葉に、みなさんが驚いたのは一瞬だけ。
次いで咲いたのは、やはり心から嬉しげな笑顔だった。
「ぜったい仲良くなってみせますから!!」
「や、リーダーとはもう普通に仲良さそうだけどな?」
「えっ!? アルさんにはそう見えるの!?」
「あ~……たぶん、そう見えてるのは俺だけではないと思うが」
「ロストシードさんとノイナさん、なかよしなのです!」
「わしらも後を追うとするかの」
「だなぁ」
「いっぱいなかよしになるのです!」
意気込むノイナさんに、ツッコミを入れるアルさん、小さな両手を上げて声音を弾ませるナノさんに、落ち着いて導くドバンスさん。
心地好いテンポで交わされる会話に、これからは私も加わることができるのだと思うと、自然と笑みが深まった。
「それでは! フレンド登録しましょう!!」
「お~!!!」
拳を振り上げて、元気に宣言をしたノイナさんに、お三方がそろって肯定と鼓舞をあわせた声を上げる。
それに、笑顔で軽く会釈をおこない、願いを返す。
「よろしくお願いいたします!」
嬉しさで跳ねた声音を区切りに、ついにフレンド登録を開始する。
フレンド登録自体は、クランの参加登録よりさらに簡易的な方法で、お相手とフレンド登録をしたいと言葉にして、お相手が友誼をむすぶか否かの返答をおこなうだけで、無事に登録することができた。
あっという間に計四回、リンリン! と高い鈴の音が二度鳴り、四人のフレンドさん――シードリアの友人の名前が、開いた石盤にも刻まれる。
[フレンド一覧]と大きく書かれた文字の下、刻まれた四つの名前が煌いて見えるのも、当然のことのように思えた。
それほどまでに素敵な交友が……すでにはじまっているのだから!




