百九十九話 幕間二十一 技術も魔法もすごい人!
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
最新の没入ゲーム【シードリアテイル】がはじまってから、一週間と一日目……つまり、二週間目に突入した今日!
三日前からすごしているパルの街で――ついに、あの人を見つけた!!
ずり落ちそうになった銀の丸メガネを押し上げて、お気に入りのシアンブルーの瞳を見開きながら、思わず三度見する。
でも、語り板とか世迷言板の情報、それにフレさん……この【シードリアテイル】での友達の、言葉通りの姿だから、きっと間違いない!
あの綺麗なエルフの青年さんが、精霊の先駆者で、フレさんと同じく錬金技術を習得して、すごく早い時期にオリジナルポーションをつくった、生産職としてもすごい人!
「うん! ぜっったい、間違いない! やっとパルの街に来てくれたんだ!!」
あまりの嬉しさに、街中なのに両手で拳をつくって、ガッツポーズをしそうになった!
なんとか、腰元でぐっと握り込むだけにとどめて、ギルド通りから中央の大噴水がある広場のほうに歩いていく姿を、慌ててこっそり追いかける。
あたし自身は、生産職の中でも裁縫技術と細工技術のエキスパートになることを目指して、この【シードリアテイル】をはじめた、ただの生産系のんびりプレイヤー。
エルフの里ではフィオーララさんやリリーちゃんから技術を学んだり、神殿の技神様の祈りの間で服や装飾品をつくったり、生産職の楽しさを謳歌しすぎてて、他のプレイヤーのこととかはあまり見てなかったくらいののんびり具合だった。
だから、苦手な戦闘をしてレベルを上げて、パルの街に来てからは、職人ギルドにお世話になったりして……そこでフレさんと会って、やっとあの青年さんがとんでもない技術をもった人なんだって、知ったのよね。
それまでは、かろうじてあの青年さんが精霊の先駆者だってことくらいしか、あたしは知らなかったし、今でもあの青年さんの生産職としての技術がどれくらいすごいのか、詳しいことはまだ分かってない。
ただ、フレさんはエルフの錬金術の先駆者だから――そのフレさんがすごいって言うってことは、やっぱり少なくとも錬金術に関しては、すごい技術をもった人なんだと思う!
でもそんなフレさんが、ずっと謎すぎるってあの青年さんのことを評価してることが、実は一番気になっている部分……!
だからこそ、もしパルの街であの青年さんを見かけたら、タイミングを見計らって、声をかけようと思ってたんだよね~!!
友達とまではいかなくても、もしお知り合いにでもなれたら――フレさんが言う謎が、解き明かせるかもしれないから!
緑色のマントと金色から白っぽい色に移り変わる長い髪をなびかせる背中を、見失わないようについて行く。
大噴水の広場を通りすぎて、石門のほうの大通りを進んで、お店通りも宿屋通りもすぎたあたりで、嫌な予感はしてたけど。
青年さんはさっそうと、外のフィールドに出て行ってしまった……!
う~~ん! あたし、戦闘は苦手なんだけど……でも魔法もすごいって言われてたから、それは見てみたい!
胸元でゆれる、焦げ茶色の編んだ二本のお下げを背中側にポーンって払って、気合いを入れる。
グラスホースとかグラスパンサーからは距離をとりつつ、ちょっと距離が離れてしまった青年さんの背中を遠くから見て、動きが止まっていることに気づいた。
「んん? どうしたんだろう?」
丸メガネを押し上げ、シアンブルーの目をこらしてみるけど、特に異変があるようには見えない。
とりあえず、お邪魔にならないていどに近づいてみようかなって、一歩足を踏み出したのを――次の瞬間、後悔した。
「げっ」
思わず、素で声が出る。
ノンパル森林に近い、ノンパル草原の草の中から、大きな見慣れない……明らかに強そうな豹の魔物が出てきた!!
瞬間、パッと姿が消えそうな速さで、青年さんが移動して魔物から距離をとる。
慌ててこっちのほうへ走ってくる他のプレイヤーと違って、青年さんはあの魔物と戦うつもりみたい!
――これは、魔法のすごさを見る、絶好のチャンスね!
たしか世迷言板では、まだよく分かってないオリジナル魔法を使いこなしているとか、攻略系のプレイヤーも知らない魔法を使ってたとか、そういう会話があった。
実際に戦う姿を見るのははじめてだから、お手並み拝見!
……なんて思って、強そうな魔物との戦闘を見て、理解した。
間違いなく、すごいものを目撃したってことをね!!
「あれが、オリジナル魔法……!」
シアンブルーの瞳を輝かせて、半ば無意識でそう呟く。
まったく無駄な動きなんてなかったと思えるくらい鮮やかな、青年さんの戦い方に――動くものなら、二本のお下げだって踊り出しそうなくらい、テンションが上がった!!
オリジナル魔法が、まさかあんなに繊細で鮮やかで、めちゃくちゃ威力が高そうな魔法にもなるなんて!!
どう考えても、普通の生産職メインのプレイヤーに、あんな魔法はくり出せないよ?
フレさんが謎って言ってた意味が、ちょっと分かった気がする。
「――よし! 次は絶対に、お声がけしよう!」
ノンパル森林に入って行ってしまった背中を見届けて、拳を握りながら決意を呟く。
今度街中で会えたら、絶対にお声がけするんだから!!
ここまでで、プロローグを含めて、ついに二百話となりました。
これほど長く一つの物語を書き進めることができた体験は、この『遊楽記』がはじめてで、読者の皆さまが長くこの物語を楽しみ、読んでくださっていることを、とても嬉しく思います!
改めまして、素敵な読者のみなさまに感謝を!!
引きつづき毎日投稿をしてまいりますので、どうぞお楽しみください♪
※明日は、
・九日目のはじまりのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




