百九十八話 遠吠え封じのフォレストウルフ戦
※戦闘描写あり!
特殊個体の経験値量の多さにありがたさを感じつつ、石門からまっすぐ進んだ先にあるノンパル森林の入り口へと、ようやくたどり着く。
トンっと軽やかに地を蹴り樹の枝へと飛び乗り、改めて今回受けた依頼内容を思い出す。
討伐依頼の標的は、森にまぎれる緑の毛並みをもち、六匹一セットで行動するフォレストウルフ。
この魔物を一組討伐する、というシンプルな内容が、依頼紙には書かれていた。
とは言えこのフォレストウルフ、遠吠えにより、さらにもう一組を呼びよせる厄介さをもった、集団戦が得意な新しいウルフの魔物ということもあり、油断は禁物だ。
いや……正直なところ、おそらく先ほどのグラスパンサーの特殊個体よりも、確実に弱い魔物だとは思うけれども。
しかしそうは言っても、個の強さと集団の強さは異なるもの。
出来得る限りは、遠吠えをさせずに一組ずつ倒したい。
そしてそれ自体は、おそらく私にとって不可能な戦法ではないはずだ。
であれば――挑戦あるのみ!
「新しいオリジナル魔法も、緑属性のフォレストウルフと相性自体は、良いとは言えない可能性が高いと思いますけれど……まぁ、ものは試し、ですよね!」
『おためし~~!!!!』
好奇心を宿した呟きに、再びぴたりと肩と頭にくっついてくれている精霊のみなさんが、楽しげな声を上げる。
方針は、固まった。後は、狩りの対象を見つけるだけだ。
フッと不敵に笑み、枝から枝へと飛んで渡り移動する。
それほど奥へと進む必要もなく、広い縄張りをもつ緑の姿の狼の魔物は、タッと駆けより眼下へと姿を現した。
いざ――戦闘開始!!
初手は、〈オリジナル:吹雪き舞う凍結の細氷〉の凍結だ!
ビュオウと吹雪いた細氷が、あっという間に集まっていた六匹のフォレストウルフを氷漬けにする。
敵の動きを固めてしまえば――後はこちらの、思うがまま。
さっそくと、古本屋の魔法書から習得した中級魔法〈オリジナル:舞い踊る毒の花風〉を発動!
強風と共に舞う色とりどりの花弁と緑や黄色の葉が、橙色の木漏れ日に煌く美しさに、思わず目を奪われる。
もちろん、凍結したフォレストウルフたちへも、しっかりと魔法の影響を及ぼしており、薄い紫色のもやのようなものがその体躯にまとわりついていた。
おそらくはアレが、毒状態を示すエフェクトなのだろう。
新鮮な発見をしながらも、動くことも出来ず毒により生命力を削られていくフォレストウルフを、しっかりと確実に倒すべく……枝の上から、右手を向ける。
最後に発動したのは、中級魔法〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉。
見えざる風の刃、水の針、土の杭がいっせいに六匹の氷像をつらぬき、転じて三色の渦となり舞い上がり――見事華麗に、フォレストウルフを緑のつむじ風へと変えてみせた。
反射的に、ぐっと拳を握る。
「やりました! 遠吠えをさせずに勝てましたよ!」
『わぁ~!!!! しーどりあすご~い!!!!』
「ふふっ! ありがとうございます、みなさん!」
純粋に褒めてくださる、小さな四色の精霊さんたちの言葉が素直に嬉しい。
喜びの笑みを零しながら感謝を返し、今回の依頼分の討伐をそうそうに終えた証の素材を回収する。
緑の魔石と緑の尻尾をしっかりとカバンに入れ、これにて依頼は完了だ。
あっという間に終わった依頼に、ほっと一息を吐くと、周囲の木漏れ日の色が、夕陽の橙色から宵の口の明るい青色へと移り変わる。
それと同時に、小さな光の精霊さんと交代をして迎え入れた小さな闇の精霊さんが、ご機嫌で頭の上へと乗った。
肩と頭の上でぽよぽよと跳ねる精霊のみなさんは、やはりとびきり可愛らしい!
思わずにこにこと笑顔になっていると、この幸せのひと時を邪魔する反応があった。
《存在感知》に新しく引っかかったのは、隣に縄張りがあったのだろう、別のフォレストウルフの一組。
軽やかに枝の上へと飛び乗り、緑の毛並みを目視した瞬間に二つの魔法を発動する。
〈オリジナル:風まとう水渦の裂断〉と〈オリジナル:風まとう氷柱の刺突〉が、それぞれ七つずつ水の渦と回旋する氷柱を出現させるのを確認し、それをすぐさま第二段階へと移す。
果たして……こちらへと駆け迫るさなかに二つの魔法の襲撃を受けたフォレストウルフたちは、またたく間にその身を凍結させ、次いで緑の風へと変えて消え去った。
小さく、フ、と吐息を吐く。
――私から、精霊のみなさんの貴重な可愛らしい瞬間を見る時間を奪った報いは、しっかり受けていただきますとも!
脳内だけで豪語していると、小さな四色の精霊さんたちがぽよっと元気に跳ねる。
どうしたのだろうかと両肩と頭へ視線を向ける前に、
『しーどりあ、かっこいい~~!!!!』
と、歓声が上がった。
一転して満足気な笑みが口元にうかぶのは、仕方がないというもの。
ほくほくの笑顔をそのままに、手早く素材を拾い、帰路につく。
草原から石門へと戻り、大通りを冒険者ギルドまでまっすぐに進む。
無事に依頼を完了した旨をシルアさんに伝えると、ぱたりとふわふわの白い兎耳を跳ねさせて喜んでくださった。
報告を終えると、そのまま宿屋であるまどろみのとまり木へと帰る。
女将さんにあいさつをして宿部屋へと戻ると、蔓のハンモックへとのぼりそのゆらゆらとした感覚に身をゆだねた。
ゆったりとしたゆれの中で、今日一日を振り返る。
なんとも……新鮮な一日だった!
「パルの街に、草原、森林……最前線の、トリアの街。すべての場所に、今日だけでは見ることができなかった魅力が、まだたくさん隠されているのでしょうね」
『まちもそとも、たのしかった~!』
『いろんなものがあった~!』
『いっぱい、しらないものあった~!』
『いっぱい、たのしかった~!』
「えぇ! 本当に、とても楽しい出逢いと出来事にあふれていました!」
『うんっ!!!!』
記憶を巡らせながらの呟きに、精霊のみなさんそれぞれの言葉が加わり、歓喜と笑顔が咲く。
素晴らしい八日目、素晴らしい新フィールドだったと、心から思う。
必然的とも言える名残惜しさを感じながら、魔法を解除して小さな多色と水の精霊さんたちを見送り、ハンモックへと横になる。
胸元へとぴたりとくっつく、小さな四色の精霊さんたちを指先で撫で、微笑みながらまたねを交わし――そっと、ログアウトを紡いだ。
感覚が戻った現実世界で、ふっと吐息を零す。
エルフの里で過ごした時間と比べれば、パルの街での時間はまだほんの一日目。
二日目の明日は、何をしようか?
好奇心を秘めてうかぶ微笑みは、寝る直前まで、口元に残りつづけた。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。