百九十三話 幕間二十 ちょっと意味が分からない
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
(幕間二、幕間五、幕間十六のプレイヤーさんです)
【シードリアテイル】のサービス開始から、八日目。
攻略系としては当然、最速で到着していた今の最前線の街、トリアの街の噴水広場で、友達を待つために時間をつぶす。
今日は攻略系仲間のみんなと一緒に、外のフィールドの最前線を進める予定なんだよね。
ヒマつぶしに屋台を見て回りながら、なんとなくパルの街に似ている広場を見回して――自分の目を疑った。
眩しいくらいの夕陽に照らされた……グラデーションがかかった長い金髪が、ゆれて。
「え」
絶句、って表現されるような、すごい声が出た。
見慣れない白いローブ姿が、似合いすぎるくらい似合ってる……綺麗なエルフの若い男の人。
さすがに、服装が変わってるくらいで、見間違えたりしない。
いつかの世迷言板で盛り上がってた情報通り、光の下級精霊を加えた四体の下級精霊を肩と頭の上に乗せて、なんかもうキラキラしているようにさえ見える、あの姿は。
精霊の先駆者で、とんでもない魔法を使ったり、オリジナルポーションをつくったりもしているらしい――あのロストシードさんだ!
まず、なんでって思った。
あの人って、たしか今日はじめてエルフの里から出て、パルの街に来る予定だったはずなんだけど。
……何をどうすれば、最前線にいる状況になるの?
「いやほんと、なんで最前線の街に、今日パルの街に着いたばかりのはずの人がいるかなぁ……?」
『しーどりあ、だいじょうぶ?』
『あたま、いたい?』
『なでなで、する?』
うっかり頭を抱えたから、精霊のみんなが心配してくれる。
少し前に、風の子以外にも、水と土の子が仲間になってくれていて、これも元々はあの人の知識提供のおかげなんだけど……って、半分現実逃避をしながら顔を上げて口を開く。
「あ~~、ごめん。だいじょうぶ。ちょおっと信じられないものを見ただけだから」
『しんじられないもの???』
「アハハ~。ほんと、どういうことなのかは、あたしも分からないのよね」
どう見てもハテナを飛ばしてる精霊たちを見て、乾いた笑みが口から出た。
うん、これ――あたし一人だと、考えの整理ができないやつだね。
サッと世迷言板を開いて、この衝撃に巻き込むべく、文字を打つ。
[それでは、きいてください――精霊の先駆者なあの人を、最前線のほうの街で今見かけたんだけど、どう思う?]
せめてものお茶目を混ぜた文章に、案外はやく反応があった。
[なんでだよ!?]
この文字の感じは、いつものゲーム慣れした人だね。
半眼のまま、さらっと返事を打ち返す。
[こっちがききたい]
[どーなってんだ例の人ぉ!?]
[それは、また……かの人らしいと言いますか]
[それよ]
[それな]
弓使いらしいもう一人のエルフの世迷言板常連の人も加わって、常連もとい常在組三人でやっぱり頭を抱える。
そうしている間に、新しい会話への参加者が来た。
[え!? あの人、最前線の街に来てたんですか!? おれ、パルの街にいるんだとおもってました!]
[最前線の街、ですか……? パルの街に行くというお話だった気が……?]
うん、この子たちももう見慣れた顔だね。
いや、顔は知らないんだけど。
元気系の子と本の子の、明らかに驚いた気持ちがあふれてる文字に、フッと気の抜けた笑みを零して返事を送る。
[私もそうきいていたんだけどね。なぜかこっちの街にいたのです]
乱れていた文字の口調をなおしながらの返信に、二人からすぐに反応が返ってきた。
[やっぱすげぇなあの人!?]
[本当に、とってもすごいです!!]
純粋に目を輝かせているんだろうなって想像できる、元気系の子と本の子の反応がもはや癒しだよ。
[いやいやいや、凄いのはそうなんだけども! そもそもどうやって無事にたどり着いたんだ!?]
[確かに……草原はともかく、森林の奥はかなり手強い魔物が多いと感じているのですが……]
そう、それよそれ。
あのノンパル森林の強い魔物を相手に、どうやって無事に、この街にたどり着けたのか、よ!
混乱と疑問が伝わるゲーム慣れした人と弓使いの人の言葉に、思いっきりうなずく。
[そこ、なんですよね。ぱっと見は、生命力も減ってるようには見えなくて。まぁ、ポーションとか回復魔法で回復してたのかもしれませんけど]
石門のほうへ歩いて行った、綺麗なだけの姿を思い出して、そう打ち込む。
……ハッキリ言うなら、ボロボロの姿だったほうが、まだ納得ができたと思う。
今、あたしたち攻略系がようやく、この街にいるっていう事実は、それくらいには凄いことのはずなんだよね。
――で、それを、今日パルの街についたはずの人が道中の厳しさすっ飛ばして、到着しているっていう異常。
ダメだ。やっぱりどう考えても、ちょっと意味が分からない。
[あれ? たしかに、おれも森の敵は強いなっておもいました!]
[わたしも、まだあまり森には近づかないようにしています!]
「うん、だよね」
元気系の子と本の子の言葉に、もう真顔で呟く。
そう! こっちが普通の反応で、普通の感覚!!
サラッとこっちの街に来てるあの人のほうが、絶対おかしい!!
[あ~、もしかしなくても本当に、攻略系と同じくらいのレベルなのでは?]
[正直なところ、あの高速移動で敵を振り切ることもできなくはないとは、思いますが……]
[おっと。そう言えば、午前中にパルの街に着いて早々、左の森に行ってましたね~例の人]
[えぇ。あの素早さなら、森林も抜けることが可能かもしれません]
[高速移動! なんかかっけぇ!]
[穏やかな人だったので、はやく動いている姿は、あまり想像ができませんね……!]
いや――結局それ全部、おかしいからね!?
進む会話に、脳内だけでツッコミを入れる。
攻略系と同じレベルかもしれないとか、高速移動で敵を振り切ったからたどり着けたとか。
……そういうの全部、そうできるプレイヤーは普通なら、攻略系か先駆者なのに。
そこまで考えて、ハッとした。
「もしかして、高速移動の先駆者だったりする?」
あり得る。すっごくそれはあり得る!
もう一回頭を抱えて、サッと石のウィンドウで時計を確認。
友人との約束の時間までは、もう少しある。
本音を言うと、まだまだ今回の件は、語り足りないと思っていたところだから。
世迷言板のやりとりを再開しながら、時間になるまでは、この衝撃に付き合ってもらうことにした。
※明日は、
・八日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!