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百八十八話 夜ならではの依頼は根気と共に

 



 一瞬で転送して帰ってきたパルの街で、眼前にあるワープポルタの素晴らしさを改めて感じ入っていると、サァ――と周囲の明るさが変わり、夕陽が落ちて宵の口の時間がおとずれた。


『またね! しーどりあ!』

『こうた~い! きたよしーどりあ~!』

「はい、小さな光の精霊さん、また朝のお時間に。小さな闇の精霊さん、いらっしゃいませ」

『またね~!!! いらっしゃ~い!!!』


 その身の白光を明滅させてまたねと姿を消す光の精霊さんと、ぱっと黒光をまとって現れた闇の精霊さんにあいさつを交わし、つづいた三色の精霊さんたちの言葉に微笑む。

 移り変わった夜の時間の幕開けに、ふと夜の時間ならではの依頼があるかもしれないと閃いた。

 この夜は――また新しい依頼を探してみよう!

 閃きに煌いた緑の瞳を、右肩、頭上、左肩へと順に向け、小さな四色の精霊さんたちへ方針を紡ぐ。


「みなさん! この夜の時間は、新しい依頼を楽しみましょう!」

『わ~~い!!!! たのしむ~~!!!!』


 ぽよぽよと元気に跳ね、楽しげに返された歓声に、さっと右足を一歩進める。

 つづいた左足が軽快に石畳を踏む音を立て、歩みは広場から前方の大通りへ。

 さらにと弾む心のままに歩を進めれば、冒険者ギルドまではあっという間だった。

 押し開いた扉の先、左側の壁にところ狭しと貼り付けられた依頼紙へ、吸い込まれるように近づいて目当ての依頼がないか、探していく。

 採取や討伐、それに街の中での手伝いや作業、おつかいクエストなどなど……種類豊富な依頼紙の文字列を一枚一枚視線でなぞり――ようやく、気になる依頼を見つけた。


 [ノクスティッラの採取 冒険者ギルドに提供した小瓶三つ分(量は小瓶の口近くに刻んだ線より上。できる限り多く) 一瓶につき鉄貨五枚、計鉄貨十五枚]


 そう、少々荒々しく書かれた依頼紙を、そっとはがす。

 慌ててか、あるいは激情があったのか、勢いまかせに書かれたことが見て取れる文字に反して、[ノクスティッラの樹]と名前が書かれた樹の絵は、とても繊細に描かれている。

 記憶の中、以前書館で読んだ植物図鑑に書かれていた内容を引き出し、この樹が夜の時間にのみ生成する雫こそがノクスティッラであり、このノクスティッラは食材であり錬金素材の一つでもあることを思い出す。

 ノクスティッラの樹の場所は……ノンパル草原を囲むように広がるノンパル森林の内、右側に広がる森の中。

 興味をひかれる内容に、一つうなずく。


「こちらの依頼にしましょう」

『はぁ~い!!!!』


 微笑み、小さく紡ぐと、精霊さんたちのご機嫌な声が返る。

 それにうなずきを返し、さいわいまだお仕事をしていたシルアさんに依頼の受付をお願いする。


『時間がかかると思いますので、がんばってくださいね!!』


 そう、とても元気をもらえる笑顔と共に、ポーションをつくる際に使用する小瓶と同じ小瓶を三つ手渡され、思わず緑の瞳をまたたいた。


「あの、シルアさん。時間がかかるとは、どういう……?」


 思ったよりも心底不思議そうな自身の声音が問いかけの言葉を紡ぎ、今度はシルアさんの紺の瞳がぱちぱちとまたたく。

 お互いに軽く小首をかしげ合い、一拍。


『あ! えっと、ロストシードさんはノクスティッラの樹を見たことは……』

「ええっと、まだ実際に拝見したことはありませんね」

『あ~~! そうでしたか!』


 あらら、と片手を額に当てて、なにやら渋い表情をしたシルアさんは、一転してその表情を心配の色に染めた。


『えっと、実はノクスティッラの樹から一度に短時間で採取できるノクスティッラの量は、けっこう少なくて。それなりに時間がかかるため、あまり人気のない依頼……だったり、するのですよね……』


 あはは、と乾いた笑みがシルアさんの口から零れ落ちる。

 なんとも素直な実情の暴露に、なるほどとうなずきを返して、しかしそのていどならば特に依頼の実行をとりやめるほどでもないと、素早く脳内で結論を出した。

 すぐさま、シルアさんが安心できるように、なるべく穏やかに見えるよう心がけながら、ふわりと微笑みをうかべる。


「根気が必要な依頼でしたら、以前にもおこなったことがありますので、時間がかかるというだけでしたら特に問題なく採取を進めることができるかと」

『本当ですか!?』

「えぇ、ご心配なく。教えてくださり、ありがとうございます」

『いえいえ! お役にたてて良かったです!』


 驚きと感激の混ざる表情と声音のシルアさんに見送られ、冒険者ギルドから出ると、そのまま石門のほうへと向かう。

 歩きながら頭にうかぶのは、以前シエランシアさんから指示された、秘密の訓練兼依頼のこと。

 それなりに時間がかかるらしい今回の依頼だが、果たしてあの秘密の指示を完了するために必要だった根気と比べて、どれほどのものか……。

 いずれにせよ、あの訓練から学んだものが、このような場面で役立つとは、さすがにシエランシアさんも予想外かもしれない。

 エルフの里に帰った際、語ることのできるお土産話ができたことに、微笑みが深まった。

 見えてきた石門の奥、広がる草原と森林を見やり――今度はフッと、不敵な笑みが口元にうかぶ。

 自然と湧き立った高揚感に、迷いなく石畳から草の大地へと足を進めた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 小さな光の精霊さんと闇の精霊さんの交代シーンは、何度見ても和みます(*´꒳`*)出逢った時もそうでしたけど、一瞬共に居られる時間があるのが尊いです✨ そして次の依頼は何やら根気が要りそうで…
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