百八十三話 報告とこっそりにならない裏技と
しっかりと昼食を美味しく食べ、再び【シードリアテイル】へログイン!
『しーどりあおかえり~!!!!』
「はい、みなさん。ただいま戻りました」
すっかり眩い朝の陽射しが窓から射し込む、パルの街の神殿の宿部屋で、闇の精霊さんと交代をした光の精霊さんと共に、水と風と土の精霊のみなさんとあいさつを交わす。
まだ見慣れない、白のローブをゆらしてベッドから起き上がり、その流れで魔法の準備を開始する。
小さな多色と水色の精霊さんたちに、〈ラ・フィ・フリュー〉と〈アルフィ・アルス〉の展開をお願いし、《隠蔽 三》でかくれんぼもしていただき。
併せて〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉を発動し、かすかに金から白金へといたる長髪と、白のローブがゆれるのを見届けて――準備完了!
「それでは、今回はお祈りの後、依頼の報告をしに冒険者ギルドへまいりましょう!」
『はぁ~~い!!!!』
元気いっぱいな精霊さんたちの返事に微笑み、宿部屋を出る。
階下の広間から各種お祈り部屋へと入り、今回も精霊神様、天神様、魔神様、獣神様の四柱の神々へとお祈りをささげてから、神殿の外へ。
朝の陽光の下、にぎやかに人々が行き交う石畳の大通りを楽しみながら、冒険者ギルドへとたどり着く。
広々とした室内へ入ると、せわしなくお仕事を進めている受付のみなさんが緑の瞳に映った。
どなたの前にも小さな列ができており、シルアさんの前にもしっかりと列はできている。
ぱたりと動く兎耳に視線をうばわれつつも、列の最後尾にそっとならび、順番を待つことしばし。
『おまたせしました~! おはようございます! ロストシードさん!』
「はい、おはようございます、シルアさん。――よき朝に感謝を」
お互いに笑顔であいさつの言葉を交し合い、シルアさんはお辞儀、私はエルフ式の朝の一礼をおこなってから、顔を上げる。
紺の瞳が、キラリと煌いた。
『本日は、依頼の完了報告ですね?』
「えぇ、そうです。よくお分かりに」
『はい! これくらいでしたら、すぐに分かりますよ!』
えっへんと得意げな笑顔をうかべるシルアさんの、すぐさま私の来訪理由を把握した姿に、思わず緑の瞳をまたたく。
なんとも見事な答え合わせに、さすがは冒険者ギルドの受付さんだと感心しながら、カバンから依頼紙と白香草を取り出した。
カウンターの上に置いたそれらを真剣な眼差しで確認したのち、シルアさんは迷いなく銅貨を一枚こちらへと手渡してくれる。
『とても採取状態の良い白香草ですので、報酬はこちらです! これにて、依頼完了となります! お疲れさまでした!』
「ありがとうございます」
さらりと問題なく完了したはじめての正式な依頼に、ほくほくと満足感が胸に広がり、つい口角が上がった。
手早く報酬の銅貨をカバンにしまった後、シルアさんの視線が後ろをチラリと確認する。
真後ろでは衣擦れの音などはしていないので、私の後ろには今、ちょうど誰も並んでいないはずだが……はて?
反射的に小首をかしげると、にこりと笑んだシルアさんが口を開いた。
『実は、シードリアのかたにはこっそりお伝えしている、裏技としての依頼の受けかたがあるのですが……』
こっそり、という言葉に反して堂々としたシルアさんの雰囲気と、裏技という言葉の響きが、そわりと好奇心を生む。
心なしか、肩と頭の上で静かにしている小さな四色の精霊さんたちまで、そわそわとした雰囲気を放つ様子に、ふっと微笑みを深めた。
「ぜひ、教えていただきたく」
『承知しました~!』
好奇心と高揚感のままに紡いだ言葉に、シルアさんの楽しげな了承が返される。
そこから紡がれた説明は、まさしく驚愕の一言に集約できるもので……。
いわく、なんとこの冒険者ギルドの依頼、素材さえ手元にあれば、依頼をその場で達成することができるのだ!
いや――さすがに、それは裏技がすぎるのでは!?
と思ったものの、よくよく周囲を見回してみると、たしかに壁からはがした依頼紙を受付に持って行くだけで、報酬をもらっている人々の姿があり、思わず二度見してしまった。
『ぜひ、ロストシードさんも、積極的にご活用くださいませ!』
「え、えぇ……では、お言葉に甘えさせていただきます」
『はい!!』
輝く笑顔と、ご機嫌でぱたりと跳ねたふわふわの兎耳を見てまで、このような裏技を使ってしまって、冒険者ギルドの運営は大丈夫なのでしょうか、とぶしつけに問うわけにはいかないだろう。
なんとか穏やかな微笑みをうかべて、うなずきを返した。
ついでとばかりに、ノンパル草原にいる魔物の討伐依頼は、ギリギリ鉄色のプレートの依頼ですよ、と教えてくださるシルアさんに、ここは素直に裏技を試してみようと決め、依頼紙が貼り付けられている壁まで移動する。
並ぶ依頼紙を視線でなぞり、銅色のプレートとの境目近くにグラスホースの討伐依頼を見つけて、丁寧にはがす。
隣の銅色のプレートの範囲には、グラスパンサーの討伐依頼があり、一応こちらもはがして取ってみる。
素材自体はあるので、銅色のプレートの依頼紙ではあるが、こちらも報酬をもらえるかもしれない。
好奇心を微笑みに秘めて、鉄色のプレートの範囲で他の依頼も確認し、一つ気になった街中の問題を解決するたぐいの依頼紙をそっとはがして、再度シルアさんのもとへと戻る。
グラスホースの依頼を無事に裏技で完了した後、グラスパンサーの依頼紙と証明部位の毛皮を出したところで、ふわふわの兎耳が跳ねた。
『わぁ! 倒せたのですか!?』
驚きと感動に見開かれた、キラキラと煌く紺の瞳にうなずきを返す。
「えぇ、倒せました」
『すごい! ロストシードさんは、とってもお強いのですね!』
「いえ、それほどではないと……思っているのですが」
あまりにも輝く紺の瞳と弾む声音に、つい言いよどんでしまう。
一瞬脳内に、強さを自覚したまえ、と紡がれたシエランシアさんの声がよみがえった。
思わず小さく苦笑を零すと、シルアさんはなぜかうんうんと笑顔でうなずき、話をグラスパンサーの依頼紙に戻す。
『こちらの毛皮は、証明部位の尻尾の部分だけ切り離しますね!』
「はい、よろしくお願いいたします」
『お任せくださいませ~!』
言うが早いか、シルアさんは艶やかな緑色の毛皮の尻尾部分を綺麗に短剣で切り取り、他の部分は素材になるのでと返してくれた。
無事に報酬も受け取り、グラスパンサーの依頼も完了。
ついでに一緒に持ってきた、街中の依頼を受けてから、冒険者ギルドを出て大通りへ。
さわやかな朝日を再び浴びながら、中央の噴水広場のほうへと視線を投げ、微笑みを深める。
それでは、と依頼に取りかかるその前に――前回の反省をいかし、先に宿屋を確保しておこう!