百八十話 煌く魔法で知る強さ
※戦闘描写あり!
夜の時間に移り変わってなお、前方から届く戦闘の音に、そっと気を引きしめる。
さいわいにも、夜戦はもはやお手のもの。
実力に関してもありがたいことに、このパルの街周辺にいる魔物たちとも十分に戦えると、エルフの里の指南役であるシエランシアさんのお墨付きだ。
ちょうど依頼分の素材も集まり、この場での仕事は終わったと言える。
ならばここはあえて――今から、ノンパル草原での初戦闘を楽しもうではないか!
フッと、思わずうかんだ不敵な笑みに、小さな四色の精霊さんたちがそわっとそれぞれの光をゆらす。
決まったこの後の方針を、好奇心と共にみなさんへ紡いだ。
「みなさん! 新しい魔法の確認も兼ねて、この新しい地ではじめての、戦闘をしようと思います!」
『わ~い!!!! おてつだいする~~!!!!』
精霊のみなさんの、そろってぽよっと肩と頭の上で跳ねながらの言葉に、ゆるむ口元をそのままにしてうなずきを返す。
「はい! ぜひ、よろしくお願いいたします」
『まかせて~~!!!!』
なんとも頼もしい限りだ。
微笑みを深め、しかし同時に意識を切り替える。
――戦場では、冷静さは必要不可欠なのだから。
サクサクと軽やかに、なるべく伸びた草を傷めないよう配慮しながら歩き、他のシードリアのかたがたと戦闘場所が重なってしまわないよう、距離を取りつつ魔物を探す。
やがて前方に見えたグラスホースの姿に、素早く魔法を準備する。
出現数が魔力の安定性に応じて、二つもしくは四つまで増加するようになった《一段階攻撃系属性魔法増加 二》の確認も兼ねて、〈オリジナル:風まとう水渦の裂断〉を発動。
とたんに、今までは最大でも五つまでしか出現しなかった、涼しげな風をまとう円盤状の水の渦が、そばに計七つ現れた。
本来の水の渦の出現数が三つであることから、《一段階攻撃系属性魔法増加 二》の効果により、さらに四つ増加したという認識で間違いないだろう。
無事に最大数まで出現したことに、各種魔法や祝福と手飾りがになう魔力の安定という効能へ、内心で深く感謝をささげつつ、前方を見やる。
遠くで草を食む、はじめて相対する敵とのこの戦いは――餞別にと授かった魔法にて、幕を上げるとしよう!
そっと息を吸い込み、魔法名を宣言する。
「〈ローウェル〉」
瞬間、艶やかな緑の毛並みをもつグラスホースへと、薄い暗闇がまとわりつく。
その敵が本来有するあらゆる力をすこし下げる、持続型の補助系下級闇魔法〈ローウェル〉が、発動した証だ。
『ブルルゥッ』
突然の襲撃に、驚いたように自らにまとわりついた暗闇を追い払おうと、グラスホースはその場で首を振り、土を蹴り上げて跳ねる。
当然ながら、そのような動作で魔法を消すことなどできはしない。
しっかりとかかっているであろう、〈ローウェル〉のデバフ効果を信じて、サッと右手を払う。
キラリと蒼の手飾りが煌き、それを合図に七つの水の渦が一気にグラスホースへと迫り、その艶やかな毛並みをなぞった。
刹那――ぶわりと緑の旋風が巻き起こり、鮮やかな勝利を告げる。
新しいフィールドでの初勝利に、にっこりと満面の笑みをうかべる中、空中でとけ消えた緑の旋風から地面へと、緑色の魔石となにやら緑の毛束のようなものが落下した。
「おや?」
思わず疑問を零しながら、前方へと歩みよると、少し荒れた地面には魔石と……尻尾のような毛束が、それぞれ一つずつ。
これは……馬の魔物からは、尻尾が素材として落ちる、という解釈でいいのだろうか?
若干の謎をそのままに、魔石と尻尾をカバンへと収納する。
次いで――反応した《存在感知》が、隠れて疾駆し近づいてくる、敵の存在を知らせてくれた。
驚くほどの速さで迫る姿の見えない敵に、しかしかの銀色のリスさんほどではないと、不敵な微笑みをうかべる。
左側のすぐそばで、ザッと草がゆれる音が響いた瞬間、〈瞬間加速 一〉を発動。
前方へ瞬間的に加速して駆け、素早く振り向きながら新しく習得したオリジナル魔法を放つ!
無詠唱で発動した魔法の一段階目の攻撃をすぐさま開始させ、視界に映った豹のような初見の魔物へと、隠されていた風の刃、水の針、土の杭が襲いかかる。
とっさに数えきれなかったが、おそらく九つの脅威が三重となってグラスホースと同じ艶やかな緑の毛並みに突き刺さり――そのまま二段階目へと移行。
突き刺さっていた魔法は一転して、ぶわっと舞い上がる風と水と土の渦となり、そのまま緑の旋風を巻き込んでかき消えた。
「おや――案外、戦えるものですね」
つい、フッと不敵な笑みがうかぶ。
既存のオリジナル魔法を昇華して習得した、中範囲型のオリジナル攻撃系兼補助系、複雑中級風・水・土魔法〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉。
初見の豹のような魔物グラスパンサーを見事撃退した、新しい魔法の素晴らしい出来栄えに、思わずにっこりと満面の笑みが咲く。
『だいしょ~り~~!!!!』
「はい、問題なく勝利することができましたね」
小さな四色の精霊さんたちの歓声に応えつつ、ひとまず草原内の魔物であれば、十分に対応できることを、今回の実戦で知ることができた。
ふいに、シエランシアさんがおっしゃっていた意味をようやく理解するに至る。
「――君はそろそろ、自らの強さを自覚したまえ……でしたか。たしかに、本当にこの草原にいる魔物相手ならば、後れをとることはなさそうですねぇ」
『しーどりあ、つよ~い!!!!』
「ふふっ、ありがとうございます、みなさん」
まさしく実体験としてシエランシアさんの言葉の意味を自覚し、精霊のみなさんの褒め言葉に笑みを零す。
ただそれでも、まだ森や山などの他の場所で、私の力が十分であるかどうかは分からない。
グラスパンサーが落とした緑の魔石と艶やかな毛皮をカバンに入れながら、結局のところはやはり、まだまだ用心しながら進む必要があると思った。
「やはり、油断は禁物です。引きつづき、戦闘は気を引きしめておこないましょう」
『はぁ~い!!!!』
無難な結論を出し、四色のみなさんの元気な返事に微笑みを深める。
周囲で戦闘をおこなう、他のシードリアのかたがたが立たせる戦闘音は、まだ止む気配がない。
たしかに、せっかくよき狩り場にいるのだから、レベルを上げるためにも戦いに慣れるためにも、あるいは素材を収集するためにも、戦闘はおこなったほうがお得というものだろう。
であれば……私もそれに、ならうとしよう!
フッと切り替えた不敵な笑みに、小さな四色の精霊さんたちがわくわくと高揚感を示す。
比較的地道でのんびりとした狩りは、暗い星空が魅力的な深夜の時間へと、空の色が移るまでつづいた。