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百七十九話 ノンパル草原から見る景色

 



 宵の口のまだ明るい夜がつつむパルの街を、石門を目指して軽やかに歩む。

 中央の噴水広場を抜けて、その先につづく大通りに踏み入ったあたりで、少し周囲へ視線を巡らせた。

 左右に並ぶお店を眺めつつ進むと、その先からは美味しそうな香りがただよってくる。

 食堂やカフェのようなお店が見え、なるほどと香りの出どころに納得した後、その先に宿屋らしき建物があるのを見つけた。

 獣人らしき影絵と家のマークに、エルフらしき影絵と家のマークなど、どうやらそれぞれの種族に合わせた宿屋がこの区画にそろっているらしい。

 自然と湧き出た好奇心に、微笑みが深まる。


「――パルの街では、神殿ではなくお宿に泊まるのもいいかもしれませんね」

『わくわく!!!!』


 一緒にわくわくしてくださる精霊さんたちは、今日もたいへん可愛らしい。

 ついつい笑顔を広げながら、それでもしっかりと歩みを進めていくと、やがて遠目からでも見えていた大きな石造りの門へとたどり着いた。

 神殿のような白亜の石で造られている石門は、美しさと共にまるで街を守護するような威厳がただよっている。

 行き交う人々の間から、すでに門の先に見えている緑色の草に、心が弾む。

 石門の両端には、門番であろう槍を持った鎧姿の男性たちがいて、出入りする人々に一声かけているように見えた。

 試しにゆっくりと門の左側に立つ門番さんに近づくと、しっかりと頭部もおおう鎧の隙間から、薄緑の瞳がこちらへと注がれる。


『この先のノンパル草原には、危険な魔物が多く生息している。戦闘の備えはしてあるか?』


 凛とした低い声の忠告と確認に、はっきりと一つ、うなずきを返す。


「はい。魔物についての知識も、対抗するための手段である魔法の備えも、問題ありません」

『ならばいい。――よき冒険を、栄光なるシードリア』

「――はい!」


 かけられた素敵な激励の言葉に、声音を弾ませて笑顔で返事を紡ぐ。

 踏み出した足は、数歩石畳を踏んだ後、すぐに緑香る草地へと歩み出た。

 やわらかな草の感触を、さらに数歩分進むことで楽しむ。

 ここはまだ、芝のように低い背丈の草がおおっているが、少し前方には足首ほどの高さの草があたり一面に広がっていた。

 吹きつける風が、しげる草を強く撫で、金から白金へといたる長髪と白いローブをゆらしながら、後方にある石門のほうへと流れていく。

 風と共に流れて嗅覚として感じた植物の香りに微笑み、中央の噴水広場で見た地図を思い出しながら、改めてぐるりと眼前に広がる景色を眺める。


 緑の草が広がるノンパル草原と、おそらくシードリアであろう人々が、馬のような姿をした魔物と戦う姿。

 あの草原の色に同化する、艶やかな緑の毛並みをもつ魔物はたしか、グラスホースという魔物だったはず。

 遠目に見える森は、ぐるりと草原を囲んでいるように見えるが、左手に広がる森とそれ以外の森とでは区別されており、左手は危険なダンジェの森、それ以外はノンパル森林と呼ばれているらしい。

 あとは、前方のノンパル森林の果て、遠く灰緑色に彩られた高い山――ラファール高山が、壁のごとく静かに鎮座している姿が見えた。


「あぁ……本当に、エルフの里とは異なる景色ですねぇ」

『ちがうものいっぱい~~!』

『かぜいっぱい~~!』

『みどりいっぱい~~!』

『まものもいっぱい~~!』

「えぇ……たしかに、魔物もいっぱいですね」


 水、風、土の小さな精霊さんの言葉にほのぼのとうなずいた後、闇の精霊さんの言葉に少し気をひきしめる。

 さすがに石門のすぐ近くであるこの場所に、スキル《存在感知》が反応するような対象はいないものの、前方では戦闘が繰り広げられているのだ。

 用心をしつつ――素材採取をして行こう!

 数歩進み、足首ほどの高さの緑の草がしげる様子を、じっくりと観察する。


「白香草は……」

『あっち~!』

「いつもありがとうございます、小さな土の精霊さん」

『どういたしまして~!』


 ぽつりと呟いた言葉に、すぐさま反応して白香草の場所を教えてくれることが、いったいどれほどありがたいことか……この感謝の気持ちを、もっとよく伝えることができればいいのに、と思う。

 小さな土の精霊さんには、本当に毎回植物の素材採取時にお世話になっているため、ありがたさが身に染みる。

 定位置の左肩からはなれて、ふよふよと前方へと進む小さな茶色の姿を感謝しながら追いかけ、やがて緑の草の中に一本、細くとがった白い植物を見つけた。


『しろこうそう、あった~!』

『あった~~!!!』

「えぇ、ありがとうございます。依頼紙の絵とそっくりですね」


 くるくると白香草の上で舞う土の精霊さんと、右肩と頭の上でぽよっと跳ねて歓声を上げた水と風と闇の精霊さんにうなずきを返し、記憶にある依頼紙の絵と相違ないことを確認してから、手を伸ばす。

 ――と、ふいに不思議と枝分かれするように二本伸びた葉の、長いほうへと視線が吸いよせられた。

 これはおそらく……こちらを採取すると良い、ということだろうと、直感がささやく。

 不思議な導きに逆らうことなく、視線の先にある長いほうの細くとがった白い葉を採取して、カバンに入れる。

 そう言えば、この素材収集依頼の報酬は、採取状態次第だと書かれていた。

 では先ほどの導きはもしかすると、こちらのほうがいい状態なのだと、白香草が自ら教えてくれたのかもしれない。

 ……ありがたいやら、少々申し訳ないやら、若干複雑な気持ちになったものの、拒絶を感じることはついぞないままに、採取は進んで行く。

 土の精霊さんの案内に従い、無事に十本目の採取を終えた頃には、ちょうど宵の口から夜へと、時間が移り変わった。

 スキル《夜目》によって問題なく見通すことができるとは言え、ぐるりと見回した夜の草原は、また一段と違った雰囲気をたたえているように見える。

 吹き抜けた風が草をゆらし――どこか、不穏に感じる音を立てた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ドキリとする情報を口にしたのはどの精霊さんだろう??と思ったら…闇の精霊さんでしたかぁ〜!魔物に対する探知能力が強かったりするのでしょうか?シードリアテイルの闇属性がどの様な性質のものなの…
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