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百七十六話 街並み観察と屋台巡り

※飯テロ注意報、発令回です!


 



 各種ギルドの建物が並ぶ区画を通りすぎ、大通りを神殿方面へと奥に進む。

 小さな噴水の前で歌う、吟遊詩人さんの竪琴の音色と歌声に耳を傾けつつ、神殿の前もすぎてその先へ。

 軽快に足を進めていくと、やがて街の中心部らしき、二つ目の噴水広場へとたどり着いた。

 どこからかただよってくる美味しそうな香りに、反射的に視線を巡らせる。

 十字路のように石畳の通りが伸びる円形の広場の端には、ぐるりと屋台が並んでいた。

 一見したところ、食べ物や小物を売る屋台に見える。

 であれば、この心ひかれる香りは、あの屋台たちからただよってきているに違いない!

 ふっと、口角が上がったのを自覚する。


『おいしそうなたべもの、あるかも!』

「えぇ。ぜひとも、確認をしにまいりましょう!」

『おぉ~~!!!!』


 小さな水の精霊さんの言葉に好奇心を返し、精霊のみなさんのかけ声を合図に足を踏み出す。

 まずは、神殿側から進んできた位置的に、十字路のうち左手へと伸びた通路のほうへと歩みを進めながら、並ぶ屋台に目を通していく。

 まだ用途の分からない小物を広げた屋台に、手作りの装飾品を売る屋台、古着を並べた屋台など、この辺りには食べ物の屋台はなさそうだ。

 やがて左手へと伸びた通路の先が見えるようになり、好奇心が湧く。

 跳ねる心のままに視線を向けると、本のマークを刻む古びた石造りの建物が見えて、思わず口角が上がった。

 おそらくあの建物が、クインさんが教えてくださった、書館だろう。

 この噴水広場を見終わった後は、あの書館で情報収集をしようか?

 今後の方針をあれこれと考えながら通路を横に眺め前へと進むと、ようやく食べ物を売る屋台が見えてきた。

 すぐに香ばしいスパイスと焼いた肉の香りが嗅覚を刺激して、一番手前にある屋台に近づく。


『へい! らっしゃい!』


 勢いのある呼び声が、店主の男性から響き、その新鮮さに思わずにこりと微笑む。

 簡素な茶色の服を着て、頭には青い布を巻いており、二ッと人好きのする笑みはなかなかに豪快で、なんとも仕事人らしい風貌だ。

 ジッと私の顔を見つめた焦げ茶色の瞳が、次の瞬間嬉しげに細められる。


『おっ、シードリア様か! こいつぁ、うちで飼ってる草原鳥の肉の串焼きさ! まずは一本、どうだい?』

「はい、ぜひ!」

『おう! そうこなくっちゃあなぁ!』


 この流れるようなおすすめに、応えないわけにはいかない!

 ……単純に、あまりにも美味しそうな香りの誘惑に、抗えなかったとも言う!

 さっそく鉄貨二枚と串焼き一本を交換し、笑顔で店主さんにお礼を告げる。

 網で焼いていた出来立ての鶏肉は、大きめにカットされて串に刺された四つ共が湯気をたたせていて、とても魅力的。

 他のお客さんの邪魔にならないよう屋台の横へと移動するなり、カプリと一つに歯を立てた。

 刹那、口の中にあふれた肉汁の――美味しさと言ったら!!

 噛み切り、お肉の弾力と塩とスパイスの味付けを存分に味わいながら、一口目をのみこみ。


「店主さん!! お肉美味しいです!!」

『おぉっ? ダッハッハ! そうだろうそうだろう!!』


 反射的に、横を向いて店主さんに感想を叫びたくなるほど、本当に美味しい!!

 一瞬驚いた顔をしながらも、次には人好きのする笑顔を見せてくれた店主さんに、こちらも満面の笑みを返す。

 二口、三口と食べ進めると、あっという間に綺麗に削られた串だけになってしまった。

 名残惜しさを感じながらも、屋台の近くに置かれていたゴミ箱の中に串をそっと入れて、お次はと屋台巡りをつづける。

 焼きそばのように、麺と野菜と肉を混ぜ合わせたものを鉄板の上で焼いている屋台や、フランクフルトのように大きなソーセージらしきものを焼いている屋台を通りすぎると、また通路が見えてきた。

 噴水広場へと歩いてきた大通りのつづきでもある道は、両端に装飾品のお店や服のお店などが見える。

 おそらくは他のお店も軒を連ねているのだろうと予想しつつ、横目に見ながらも意識は新しく前方に見えた屋台にもっていかれた。

 嗅覚として感じたのは、甘い蜜の香り。

 可愛らしい花柄の布を飾ったその屋台には、表面の艶やかな蜜の色を夕陽に煌かせた、小ぶりのリブアップルが一つずつ、串に刺されて並んでいる。

 これはいわゆる――リンゴ飴なのでは!?

 うっかり弾んだ歩きかたをしてしまいそうになり、慌てて優雅さを意識する。

 こちらの屋台の店主さんは、それこそ蜜のような金髪を後頭部でひとまとめにした、やわらかな表情の女性だった。

 薄紅色の瞳が私を見つけて、ぱちりとまたたく。


「こんにちは」

『あら~、いらっしゃいませ、シードリア様』


 穏やかなあいさつに、ほわりと微笑んだ店主さんは、控えめながらもしっかりと一本、蜜色に照るリヴアップルが刺さった串をこちらへと差し出して微笑みを重ねる。


『蜜がけリヴアップル、おひとついかがですか?』

「えぇ、ぜひに」

『ふふっ、ありがとうございます~!』


 再び鉄貨二枚と交換した蜜がけリヴアップルは、しっかりと固まった蜜の甘い香りと、リヴアップルの香りが混ざる、なんとも魅力的な食べ物だと感じた。

 また屋台の横に移動してから、一口かじってみる。

 最初に感じたのは、固まった蜜の冷たさと甘さ。

 次いでパリッと蜜を砕く音が鳴り、シャクッとリヴアップルを噛む音がつづいた後、口の中に転がった蜜とリヴアップルの甘さとみずみずしさを楽しむ。

 あぁ……白状しよう。私は、子供の頃からリンゴ飴が、大好きだった。

 この蜜がけリヴアップルは、チョコケーキと並ぶほどに好みのデザートになったと、今ここで宣言しよう!


『しーどりあ、おいしい????』

「とっても美味しいです!! 蜜がけリヴアップル、大好きになりました!!」

『おぉ~~!!!!』

『あら~~、うれしいです~!』


 小さな四色の精霊さんたちの問いかけに、元気いっぱい全力で答える。

 店主さんも嬉しそうにしてくれたので、チラリと周囲の幾つかの視線を集めたことは、気にしないことにした。

 小ぶりなリヴアップルは、串焼き以上にあっという間に食べ終わり、満足さにほくほくの笑みをたたえながら、次の屋台へと足を進める。

 この辺りはデザート系の屋台が並んでいるらしく、クレープのような食べ物をつくっている屋台や、小さな缶に入った飴らしき食べ物を売っている屋台があった。

 さきほど通ってきた屋台と同様に、また今度買ってみようかと思いながら通りすぎると、再び通路が伸びているのが見えてくる。

 好奇心のままその先へと視線を向けると、色とりどりの屋根を橙色の光に照らされた、家々が並んでいた。

 いわゆる住宅街のような場所だろうかと想像を巡らせながら、視線を前方へと戻す。

 ここからこの噴水広場へと訪れるために歩いてきた大通りまでの間の区画には、日用品らしき品物を売る屋台が並んでいた。

 そちらはさらりと流し見をして通りすぎ、大通りの前まで戻ってくると、今度は中央の大きな噴水へと近づく。

 ……実は少々、気になる物を見つけていた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉぉ〜これはまた今までとは趣向の違う強力な飯テロ〜!!美味しそうですねぇ✨お料理的にも何となくお祭りの様な雰囲気があり、賑やかな様子にウキウキしますっ(´∀`*)♪
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