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百七十五話 職人ギルドと商人ギルド

 



 お次はと、それぞれの職人を示すマークを刻んだ壁を確認し、扉のない広い入り口をくぐって、職人ギルドの中へと入る。

 とたんに冒険者ギルドとは異なる、整然とした空気を感じた。

 広々とした広間のような部屋は、中央には幾つもの大きな石造り机が並び、正面の奥の壁には幾つかの扉が、左右の壁側は石の長いカウンターが占めていた。

 中央に並ぶ机の上には、素材とおぼしき物が広げられ、左右の壁のカウンターにはなにやら素材を真剣な表情で見つめる職員のみなさんがいる。

 広い部屋の中は冒険者ギルドとはうってかわって、会話が交わされつつも静かで冷静な雰囲気をたたえていた。

 軽く意識的に呼吸をして、右手のカウンターへと歩みよる。

 他のかたが並んでいない、優しそうに微笑む人間族の女性が内側に立つ場所へ近づくと、互いに丁寧なお辞儀とエルフ式の一礼を交し合う。

 茶色の長髪をゆらして顔を上げ、琥珀色の瞳をやわらかに細めて、女性が口を開く。


『いらっしゃいませ、栄光なるシードリア。私は鑑定士のベルともうします。本日のご用向きを、お聞かせ願えますでしょうか?』

「はじめまして、ベルさん。私はロストシードと申します。本日は、登録にまいりました」

『ご登録ですね。ロストシード様は、どのような技術を修めていらっしゃいますか?』

「細工と、錬金術です」

『かしこまりました。それでは、細工師と錬金術師としての職人登録となります』


 穏やかな問いかけにこちらも穏やかに言葉を返すと、ベルさんはやわらかに笑って、黒曜石のように艶やかな黒いプレートを二枚、机の上に置いた。

 素材こそ違うものの、間違いなく冒険者ギルドでも登録の際に使ったプレートと、同じ形のもの。

 登録方法も予想通り同じようで、四隅にポーションを入れる小瓶の模様と、首飾りの模様を銀色で刻んだ二枚の黒色のプレートに、魔力で[ロストシード]と刻み、ベルさんが後ろに置いてあった星空色の球体にかざして、あっという間に登録が終わる。

 その後は、軽くこの職人ギルドについての説明を、流れるようななめらかさで伝えてくれた。


 いわく……職人ギルド自体は事実上、職人と他のギルドとの仲介役といったところで、端的に言えば登録しておくことで、作品をつくるための素材をそろえるのが楽になるらしく。

 その最たる理由は、現地調達をしなくともよく使う一般的な物ならば、職人ギルドで直接素材を買うことができることと、素材収集依頼紙をこちらで書くと、個人的に依頼をするよりもスムーズに冒険者ギルドに依頼をすることが可能なためなのだとか。

 また、奥の壁に並ぶ扉は、それぞれの職人が自由に使用できる作業場となっており、まさしく職人たちのための場であるため、私もいつでも利用してかまわない、とのこと。


 ベルさんの分かりやすい説明を聴き、なるほどとうなずく。

 リリー師匠が登録しておくと良い、と教えてくださった理由が、これではっきりした。

 装飾品もポーションも、どちらも素材なしにはつくることはできない。

 最初はリリー師匠とアード先生からいただいた餞別の品で事足りるとしても、必ず追加でそろえる必要はでてくるだろう。

 その不足分を、すぐに買うことができるというだけでも、職人ギルドに登録して良かったと感じた。

 それに、しっかりと作業部屋が用意されているということも、とてもありがたい。

 正直なところ、リリー師匠のお店やアード先生のお店、そして神殿の技神様のお祈り部屋以外は、どこで作業ができるのか分かっていなかったのだ。

 丁寧に感謝の言葉をベルさんに伝え、二枚の黒いプレートをカバンにしまいながら、職人ギルドを後にする。


 お次は、対面にある商人ギルドへ。

 石畳の大通りを渡り、金貨を乗せた天秤の絵が刻まれた壁を見上げてから、職人ギルドと同じく開け放たれた扉のない広い入り口をくぐると、また異なる内装が緑の瞳に映った。

 広い部屋の中、机や石の床にまで様々な品々が整理されつつも広がる様子は、さすが商人たちのギルドと言ったところだろうか。

 中央よりやや奥の位置には、部屋を横に区切るように長い石のカウンターが伸びており、職員とおぼしき誠実そうな人々が商人であろう人々と会話をしている。

 左右と奥の壁にはずらりと扉が並んでおり、重要な商談はその奥の部屋でするのだろうかと、好奇心が湧いた。

 時折チラリと感じる鋭い視線は、おそらくはこの場の商品を護るための視線だろう。

 熱意と鋭さを宿した商人ギルドの雰囲気に、思わず口元の微笑みが深くなる。

 とは言え、今回は何はともあれ、登録が先だ。

 前方のカウンターへと足を進めると、濃い銀髪をゆらした青年の、黒い瞳と視線が合った。

 銀縁の楕円形型メガネをそっと片手で押し上げた受付の青年は、誠実そうな、整った微笑みで迎えてくださる。


『商人ギルドへようこそいらっしゃいました、栄光なるシードリア様。私のことはどうぞ、フィードとお呼びください』

「はじめまして、フィードさん。登録にまいりました、ロストシードと申します」


 穏やかな声音の歓迎に、優雅にエルフ式の一礼をおこない、あいさつと要件の言葉を返す。

 それに上品なうなずきを返してくれたフィードさんは、つづけて口を開いた。


『ロストシード様――おや』


 穏やかな眉が、閃きを得たように上がる様子が見え、小首をかしげる。

 すぐに整えられた微笑みに緑の瞳をまたたくと、黒の瞳がうかがうような色を帯びた。


『貴方様は、エルフの里の細工師、リラルリシア様のお弟子様……という認識で、間違いありませんか?』

「あっ、はい! その通りです」


 なるほど、フィードさんの閃きはこれか、と納得しながら返事をする。

 リリー師匠から情報共有が成されていた結果の先読みに、リリー師匠に感謝しつつ、フィードさんの敏さを素晴らしく思う。

 再び上品にうなずいたフィードさんは、『承知いたしました』と言葉をつづけた。


『それでは、まずはこちらに魔力を注ぎながらお名前の記入をお願いいたします』

「えぇ、分かりました」


 すっと机の上に出された、淵を金線で飾った白いプレートに名前を刻む。

 フィードさんいわく、そのさらに下にどのような商品をあつかうのかを記載する必要があるとのことで、装飾品と錬金薬を書き込んだ。

 つづいたよどみのない説明では、リリー師匠が教えてくださった通り、商人ギルドは登録した商人の品物を代わりに売ってくれる場所であり、隣接する建物がお店になっているのだと学びを得る。

 話の流れで壁にあった扉の一つの奥、よく磨かれた小部屋で、売り物用に製作した装飾品とポーションを、代わりに売ってもらうように手続きをおこなう。

 登録はカウンターだったが、このような手続きや商談の際は秘密保持のために、この小部屋の中でおこなわれることがほとんどなのだとか。

 手続き自体は商品を渡して、紙にどの品を何個売るようにお願いするのかを記すだけで、実にシンプル。

 終始誠実に対応をしてくださったフィードさんにお礼を告げて、商人ギルドを後にすると、ちょうど鮮やかな橙色の陽光が注ぐ、夕方へと時間が移り変わる。

 眩く照らされた大通りと、そこを行き交う人々を眺め、閃く。

 せっかくの、パルの街を訪れた初日なのだ。

 ――この後は、少しこの街並みを楽しもう!




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― 新着の感想 ―
[一言]  VRゲームのジャンルにちょくちょく出てくる自称攻略組(笑)とか「NPC風情が!」と言ったりするような民度の低いプレイヤーがほんとにいませんね。 いいことです。 それと真の攻略組の皆さん…
[良い点] これで無事に3つのギルドへの登録が完了ですね〜。もし私がプレイヤーだったら、ギルドなどへの登録の前にあちこち気になってふらふら〜っとしてしまいそうですw そこの所ロストシードさんはやはりと…
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