百六十九話 ロマンと朝日に明日を夢見て
素晴らしい昇華となった、新しいオリジナル魔法の名前を見つめ、にっこりと笑みをうかべる。
『しーどりあ、うれしそう!』
『よかったね! しーどりあ!』
『すてきなまほう、できた?』
『かっこいいかんじがした!』
『かっこいいまほう、できた~?』
わくわくと楽しげな、小さな五色のみなさんの言葉に、勢いよくうなずきを返す。
「はい! 素敵なオリジナル魔法への昇華、大成功です!」
『わぁ~~!!!!! だいせいこう~~!!!!!』
思わず弾んだ声音に、きゃっきゃと嬉しげな歓声が重なる。
自然と高揚感が満ち、微笑みを深め――しゃらん、しゃららら……とつづけて鳴った二つの美しい音に、きょとんと緑の瞳をまたたいた。
まさか、と見やった眼前には、二つの文字が輝いている。
「[《精霊と植物の友》]と、[《祝福:魔法を愛する者》]?」
反射的に小首をかしげてから、はたと気づいた。
――どうやら、こちらが精霊神様からの、本命の餞別であったらしい。
慌てて灰色の石盤を開き、それぞれの内容を確認していく。
「ええっと、[《精霊と植物の友》]は……[精霊と植物の友として、精霊たちがより自発的に協力することを好み、植物と意思の疎通が可能となる。また、精霊魔法と緑魔法の効能を高めてくれる。常時発動型スキル]!」
友、と記されたスキル名に、視線が小さな五色の精霊さんたちへと流れる。
私の視線を受け、ぴかぴかとそれぞれの色を明滅させたみなさんは、見事にそろった一回転を見せてくれた。
『しーどりあのおてつだい、すき!!!!!』
「なんと……! みなさん……!」
鮮やかに響いた幼げな言葉に、実際に何かしらの感覚があるわけではないというのに、胸が熱くなる。
感極まって、うっかりみなさんを両の掌でつつみ、抱きしめてしまう。
とたんにきゃっきゃと上がった楽しげな声音に、満面の笑みが広がった。
可愛らしいみなさんを指先で順番に撫でながら、そう言えば[植物と意思の疎通が可能となる]と書かれていたのを思い出す。
これは、この後実際に確認する時が、とても楽しみだ。
ふっと口角を上げながら、精霊神様から授かったもう一つの餞別も確認する。
[《祝福:魔法を愛する者》]、と書かれた祝福名の下に、サラサラと刻まれていく説明文をゆったりと視線でなぞっていく。
[精霊神から授けられた、レベルに応じて精霊魔法・属性魔法・身体魔法の安定性と威力が向上する祝福。レベルが高くなるほど、祝福の効果も向上していく。この祝福は、永続的に常時発動する]
あぁ……さすがは、精霊神様の祝福。
――またもやとんでもない、魔法の安定性と威力を上げてくださる祝福だ!!
それも、いつかの日に星の石から授かった祝福と同じ、レベルに応じて祝福の効能も向上していくたぐいのもの。
……よし、もうこれは再度感謝を捧げ、素直にこれからの戦闘体験で存分に活用していくことにしよう。そうしよう。
半ば驚愕を無理やり横へ放り投げ、精霊神様へ深い感謝の《祈り》を捧げ終える。
愛らしい五色のみなさんと共に広間へと出ると、そのまま神殿裏を目指して足を進めた。
せっかく、素晴らしい餞別をいただいたのだから、少しだけ試してみよう!
と、意気込んだはいいものの、神殿裏までの道中ですでに、二つのスキルの素晴らしさを実感することとなった。
「えぇ、まぁ……予想はしておりましたが、やはりとても歩きやすいですね」
『おぉ~~!!!!!』
ただでさえ、身軽だった身体の動きが、さらにするするとなめらかに、負荷なく動くように感じる。
これが、スキル《身体機能向上》の効果で、間違いないだろう。
そして気になっていた、《精霊と植物の友》の植物との意思疎通に関しては……。
「こう……うっすらと、おそらく樹のみなさんから、お声が聞こえるような……?」
『うんっ! いいこのしーどりあだって、みんないってるよ~!』
「なるほど……」
小さな土の精霊さんの言葉に、うなずきながら納得を示す。
どうやら、白亜の壁にそって進むたびに小さく、
『シードリアだ』
『いい子だ』
『可愛いね』
と声が聞こえていたのは、私の気のせいでも空耳でもなかったらしい。
ともすれば雑音と認識しそうなその声は、不思議なことに違和感なく、するりと耳に心地よく届く。
これは、もしかすると……と閃いた予想を、たどり着いた神殿裏で実行に移してみる。
「こんにちは、巨樹さん」
『――こんにちは、いい子のロストシード』
「っ!?」
もしかすると、声をかけることで会話が可能なのではないだろうか?
そう閃いた予想は、予想以上に当たっていた。
まさか、名前まで把握されているとは思わず、うっかり驚いて息をつめてしまう。
とは言え、驚いてばかりでは失礼なので、すぐに微笑みを取り戻して言葉を返す。
「名前を覚えてくださっていたのですね。いつも幹をお借りしていたこと、改めまして感謝申し上げます」
『いいのですよ、ロストシード。あなたにならばいつでも、この身を貸しましょう』
「なんと……! ありがとうございます!」
ありがたく嬉しい言葉に、笑顔のままに感謝を紡ぐ。
文字通り、予想よりもよほど鮮明な会話が可能であった事実に、再度素敵なスキルを授けてくださった精霊神様に感謝したい気分だ。
そう言えば、他にも恩恵や魔法を授かり、新しいオリジナル魔法まで習得したわけだが……これらは今後の実戦での、お楽しみに取っておくことにする。
「今後のお楽しみは、多いほど楽しめますからね」
『わくわくわく!!!!!』
フッと不敵に笑み呟くと、小さな五色の精霊さんたちも声を上げてくるくると可愛らしい舞を見せてくれた。
好奇心と高揚を、共に感じてくれているような仕草に、思わず頬がゆるむ。
ゆったりとした歩調で神殿内へと戻り、いつもの宿部屋へと入ったタイミングで、サァ――と夜明けから朝へと、時間が移る。
小さな闇の精霊さんとまたねを交わし、闇色がぱっと消えるのを見届け。
窓から射し込む朝日を見やり、まるで明日の旅立ちを祝福してくれているかのようだと感じて、ふわりと微笑む。
各種魔法を解除して、小さな多色と水の精霊さんたちも見送り、ベッドへと横になると、小さな四色の精霊さんたちに視線を向ける。
『またね、しーどりあ!』
『あした、たのしみだね!』
『わくわくする~!』
『いっぱいたのしもうね!』
「えぇ、小さなみなさん。明日もまた、一緒に新しい街を楽しみましょう」
『うんっ!!!!』
胸元でぽよぽよと跳ねる、四色のみなさんとしっかり約束を交わし、瞳を閉じ……ささやくように、ログアウトを紡ぐ。
ふっと浮上した現実世界での意識と感覚に、反射的に口角が上がった。
――さぁ、明日はいよいよ、パルの街へ!!
※明日は、世迷言板内のやり取りの記録の、
・幕間のお話
を投稿します。