百六十八話 オリジナル魔法昇華劇!
アード先生やリリー師匠からもいただいた餞別を、まさか神々からもいただけるとは、さすがに予想外ではあったものの。
ありがたいという事実に変わりはなく、これは素直に受け取り活用させていただくことに決めた。
再度、獣神様に感謝の気持ちをお伝えしてから、眩く夜明けの光が射す広間へと戻り、もう一度精霊神様のお祈り部屋へと入り込む。
戻って来てくれた小さな光の精霊さんを交え、五色の精霊のみなさんと共にまた精霊神様の神像と向かい合う。
再び《祈り》を発動して、今回は深呼吸を一つ。
素敵な授かりものを用いた挑戦をする前に、忘れてはならないことをおこなっておこう。
《祈り》をそのままに、手早くカバンから新しく作った装飾品――靴に飾るための、足輪の装飾品を取り出す。
この足輪に、付与魔法〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉の付与をおこなうのだ。
こうすることで、今後は両脚に直接付与する必要がなくなる。
それは結果として、《並行魔法操作》によって普段展開している四つの魔法の内、一つの枠を減らすことができるということに、他ならない。
〈ラ・フィ・フリュー〉、〈アルフィ・アルス〉、そして〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉の他に、残り二つの異なる魔法を発動することが可能となれば……また新しい魔法の使い方も、きっと見えてくることだろう。
フッと少々不敵な笑みをうかべつつ、まずは魔法を付与するためにと意識を切り替える。
両脚にかけていた〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉を消し、艶やかな銀色に煌く足輪を、艶消しの灰色の編み上げブーツにそっとはめ込み――集中。
スキル《付与属性魔法操作》を用いて、銀の足輪に風の付与魔法を持続付与するのだと、そう強くイメージする。
瞬間、ふわりと足下に感じた風に、閉じていた緑の瞳を開き、思わず笑みをうかべた。
サッと開いた灰色の石盤を、すぐに装備情報のページに切り替える。
[速き風をまとう足輪
風の魔法の効果を少し高める足輪。
純性魔石がはめられており、風の魔石の補助や、付与魔法の持続発動に使用できる。
シードリアの、ロストシード作。
第三作。
状態:持続的な〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉の付与状態]
たしかにそう書かれている内容に、にっこりと笑顔を広げた。
「これで、靴飾りへの魔法の付与は完了ですね」
『できた~~!!!!!』
「えぇ。こちらももうずいぶんと、手慣れてまいりました」
『しーどりあ、すご~い!!!!!』
「ふふっ、ありがとうございます」
満足気な響きとなった言葉に、小さな五色の精霊さんたちが褒め言葉を返してくれることが嬉しい。
すでに考えた通りの名前に変化しており、無事に風の付与魔法の持続付与もできた銀色の足輪を見つめ、笑みを深める。
――とは言え、実際には本題はここからだ。
「さて、みなさん。お次は新しい挑戦をしてみようと思います」
『ちょうせん?????』
人の幼子であれば、コテンと小首をかしげていそうな、疑問符をたぶんに宿す精霊のみなさんの言葉に、好奇心を秘めてうなずきを返す。
「はい。今まで、私はそれなりの数のオリジナル魔法を習得してきました。しかし、次に向かうパルの街周辺にいる魔物相手では、最初の頃に習得したオリジナル魔法は力不足かもしれない……と、このように考えまして」
『おぉ~!!!!!』
「それならば、と一つ名案を閃きました」
『めいあん?????』
「えぇ。――今まで習得した魔法を、新しい魔法に昇華してみましょう!」
『わぁ~~!!!!!』
《複合属性魔法操作》の向上に伴い、三つの属性を複合させた魔法を習得可能になった今、これを用いた《複雑属性魔法操作》にて、さらなるロマン輝く魔法を習得する――それが、今回の本題だ!
今まで習得したオリジナル魔法を昇華して、必ずや新しいオリジナル魔法を習得してみせる!!
ぐっと拳を握り込み、気合いを入れて思考を巡らせていく。
まずは改めて石盤を開き、《複雑属性魔法操作》の説明文を視線でなぞる。
[魔法操作の一つで、型・系統・属性の異なる属性魔法を、並行・複合・段階の属性魔法操作を加えてあつかう。この操作であつかえる魔法は、属性魔法同士のみ。能動型スキル]
つまるところ、可能性は無限大だということだろう!
一つうなずき、次いで昇華したいオリジナル魔法を、切り替えた魔法一覧のページから選んでいく。
「そうですねぇ……やはり、最初の頃に習得した、[〈オリジナル:無音なる風の一閃〉]、[〈オリジナル:降り注ぐ鋭き針の雨〉]、それに[〈オリジナル:大地より突き刺す土の杭〉]と、[〈オリジナル:大地よりいずる土の盾〉]あたりが、昇華しがいがありそうですね」
『わくわくわく!!!!!』
ひゅんひゅんとそばを飛び交い、好奇心がおさえきれない様子の五色のみなさんに微笑みつつ、ではどのような魔法として新しく形作るかを考える。
四つのオリジナル魔法を見てみると、それぞれが攻撃系と補助系に分かれるため、この系統の魔法に昇華すると良いだろうか?
せっかくなので、今回は思い切り自由に想像してみよう!
前提として、二段階の魔法に分けるとして……。
一段階目はまず、風の刃や水の針、土の杭の魔法を、見えない形で敵の近くに出現させ、その後一段階目の待機時間を解除して攻撃をおこなえば、なめらかに二段階目へ移行ができる。
そして二段階目では、風と水と土の渦へと変化させることで、攻撃と足止めの両方をおこなう魔法になるだろう。
よし――後は、明確なイメージあるのみ!!
しばし、想像と格闘し……やがて、はっと開いた緑の瞳に、前方で見えざる三色の刃が襲いかかり、次いで三色の渦が巻き起こりかき消える光景が映った。
しゃらん、と鳴った音に、眼前へと視線を戻す。
輝くのは、[〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉]の文字。
反射的に見開いた緑の瞳で、石盤の新しい魔法が記されたページに刻まれていく、文字を追う。
[無詠唱で発動させた、中範囲型のオリジナル攻撃系兼補助系、複雑中級風・水・土魔法。複数の敵の近くに見えざる風の刃と見えないほど細い水の針、まだ形を成していない土の杭を五つずつ待機させ、発動者の意思によって攻撃を開始し(一段階)、攻撃性を有する風と水と土の渦へと変化して、攻撃と足止めを同時におこなう(二段階)。二段階の魔法操作が可能。無詠唱でのみ発動する]
あぁ――間違いなく、これはロマンあふれる新魔法だ!!