百六十七話 深き祈りで授かるものは
星の石へのご報告とお祈りを終え、神殿への帰路につく。
お次は、本日長らく保留にしてきた、神々へのお祈りだ!
四柱の神々へもお祈りを通してご報告をおこない、加えて新しい装飾品への魔法の付与や、閃いた魔法関連のことに挑戦しよう。
ちょうど夜から深夜へと時間が移り変わる頃、白亜の神殿へとたどり着く。
すっかり昼間のにぎやかさが消えた静かな神殿の中には、ぽつぽつと数人、他のシードリアのかたがいるのみ。
そのかたがたも、思い思いに神殿内を楽しんでいる様子であり、つい微笑ましく感じながらもお邪魔をしないよう、足早に精霊神様のお祈り部屋へと入り込んだ。
小さな真白の部屋で、長椅子に腰かけて両手を組む。
スキル《祈り》を発動し、まずはこれまでの七日間、精霊のみなさんと共に見守りご助力くださったことへの、感謝の念を捧げる。
思い出すのは、初日のお祈りにて《精霊交友》や〈フィ〉、〈ラ・フィ・フリュー〉などを授かった瞬間のこと。
これらのスキルや魔法の素晴らしさを、今はあの日よりも深く理解できている。
自然と、今日の祈りは深いものになった。
しばし没頭して沈み込んでいた意識を、やがて感謝の気持ちと共にゆっくりと浮上させる。
次いで、空の時間で明日にはパルの街へ向かうことをご報告するなり、チリンと綺麗な鈴の音が鳴った。
「おや?」
思わず疑問の声を零すと共に、伏せていた瞼を持ち上げ、緑の瞳を前方に向ける。
ぱちりとまたたいた緑の瞳には、空中で光る文字が鮮やかに映った。
「ほほう……[《複合属性魔法操作》の複合数が増加]、[《一段階攻撃系属性魔法増加 一》の昇華]、ですか!」
文字を読み上げ、ようやく事の重要性に気づいて語尾が跳ねる。
これはつまり、より複雑なオリジナル魔法を習得することができ、かつ一段階目が攻撃系の段階魔法では、同時に展開できる魔法数が増えて殲滅力が上がるということ!
開いた灰色の石盤の中には、予想通り《複合属性魔法操作》は三つの属性の複合魔法が発動可能になっており、《一段階攻撃系属性魔法増加 二》は魔力の安定性に応じて二つもしくは四つまで出現数が増加すると書かれていた。
思わず、胸中に湧き上がった高揚に笑みがあふれる。
「ふふっ! これはさらに、精霊神様に感謝申し上げなくては!」
『かんしゃ????』
「えぇ! 感謝です!!」
『かんしゃ~~!!!!』
口から零れた喜びに、疑問符をうかべた四色の精霊さんたちへとうなずきを返す。
みなさんと共に感謝を言葉にして、ぐっと組んだ両手に力を込めた。
――間違いなく、この素晴らしい変化によって、新しい姿の魔法を見ることができるだろう。
ふっと上がった口角をそのままに、一度《祈り》を切り上げる。
魔法関連のあれこれを実行する前に、他の神々へもご報告を含んだお祈りをおこなおう。
広間へと戻り、お次は天神様のお祈り部屋へ。
さっそくと長椅子に腰かけ、《祈り》を発動して七日間の感謝を捧げてから、ご報告を念じる。
すると、唐突にしゃらんと美しい音が鳴った。
新しいスキルや魔法を授かる際の音に、慌てて緑の瞳を開くと、眼前では[〈恩恵:癒し人〉]と書かれた文字が光っている。
つい、そのまま緑の瞳を見開いてしまった。
「恩恵、ですか……?」
戸惑いの声を半ば無意識で零し、灰色の石盤を開く。
[恩恵により発動する、永続型の補助系光魔法。とある神の力で、すべての回復魔法の効能が少し向上する。恩恵は他動的に発動するため、発動の制御は不可能]
そう書かれた説明文に、とてもデジャブを感じる。
思い出したとある恩恵と同じく、やはり明確には書かれていないが……おそらくこの恩恵は、天神様が授けてくださったものだろう。
すべての回復魔法の効能が向上するとは、またなんともありがたい恩恵だ。
とある神様に、改めて深く感謝の念を捧げる。
しっかりお祈りをした後、お次はと再び広間へと出てから、魔神様のお祈り部屋へと向かう。
同じつくりのはずだが、魔神様のお祈り部屋は他の神々の小部屋と違い、少しばかり白亜の内装の眩さが落ち着いているように感じながら、長椅子に腰かける。
《祈り》を発動し、感謝とご報告を丁寧に念じると、またもやしゃらんと音が鳴った。
「[〈ローウェル〉]?」
眼前にうかぶ文字を読み上げ、小首をかしげる。
石盤を開き、説明文を視線で追う。
[持続型の補助系下級闇魔法。薄い暗闇が敵にまとわりつき、その敵が本来有するあらゆる力をすこし下げる。詠唱必須]
――反射的に、二度見した。
なにやら、とんでもない説明が書かれている気がする。
「これは、まさか……お手軽デバフ魔法ですか!?」
『おぉ~~!?!?』
思わず上げた驚愕の声に、四色の精霊さんたちの驚きの声音が重なった。
ついついみなさんと互いに見つめ合い、もう一度石盤に視線を戻す。
敵が本来有するあらゆる力を下げる……まさしく、能力低下のデバフ効果だ。
あらゆる力、というあたりに万能さを感じる。
これは今後の戦闘で、とても重宝することだろう。
またまた深い感謝を魔神様に捧げ、最後に獣神様へご報告をするべく、また広間へと出る。
お祈り部屋に出たり入ったりしていたからか、広間の中にいる他のシードリアのかたからの視線を少しだけ感じながら、そのまま優雅に歩み獣神様のお祈り部屋へと入り込む。
長椅子に腰かけつつ、さて、と今回のお祈りで授かったものを思い出し、獣神様からももしかすると何かしらを授かるのかもしれないと、小さな好奇心を灯して《祈り》をはじめる。
感謝と、ご報告をお祈りと共に念じ――しゃらんと響いた音に、閉じていた緑の瞳を開く。
まさか、本当に授けていただけるとは……!
見開いた瞳で見た光る文字は、[《身体機能向上》]。
サッと灰色の石盤を開き、説明文を読み上げる。
「[すべての身体動作が向上し、動きやすくなる。常時発動型スキル]……!」
名前の通りのスキルであり、現在すでに発動していることを示す、常時発動型に思わず心が跳ねた。
そして、ここにきてようやく現状を察する。
次々と、神々が恩恵や魔法やスキルを授けてくださる、この状況はもう間違いなく――パルの街へと旅立つ私への、餞別なのだろう、と。