百六十五話 幕間十七 優しくてすてきなロストシードさん!
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
(幕間一、幕間七のプレイヤーさんです)
【シードリアテイル】がはじまってから、七日目。
新しいフィールドのパルの街は、エルフの里とはたくさんの違いがあって、すっごく楽しい!
街の中だけでも里と比べるととっても広くて、いっぱい見たことのないものがあふれてた。
それを見て回るだけでも、何時間も遊べるくらい!
「う~ん、でも……」
パルの街で見つけたカフェでからでたとたんに、独り言が出た。
これは、何かちょっと、物足りない気持ちになったから。
食べた料理は美味しかったのに、なんでだろう?
『しーどりあ、どうしたの?』
「あっ、ううん。なんでもないよ」
この子一体とたくさん仲良くなろうって決めた、わたしのそばにいてくれている緑の下級精霊さんが、不思議そうにきいてくるのに言葉を返す。
自分でもよく分かっていないことを、説明するのはちょっとむずかしい。
でも、パルの街のカフェで食事をしたことで、何か気になっているのは間違いないから……この物足りない気持ちを解決するためには、きっとエルフの里に行けばいいよね!
エルフの里の食堂のお料理もとっても美味しかったから、もしかするとそれが恋しくなったのかもしれないもの!
「ちょっと、里に戻ろうかな」
『さと~! もどる!』
「うん!」
呟いた言葉に、この子がうれしそうにこう言うなら、戻ってみても大丈夫なんだと思う。
よし! ワープポルタをつかって、里に戻ろう!
――ふわりとした感覚と、地面を足が踏む感覚が同時にあって、瞳を開く。
にぎやかなパルの街と違って、すっごく静かに感じるエルフの里に、一瞬で戻ってきたのがわかった。
眩しい夕陽の光が蔓の家を照らしていて、とってもきれい。
ゆっくりと歩いて、入り口から土道に入る。
すぐにクインさんが、いつものように大きな樹の下で読書をしているのが見えて、せっかくだから書庫にもよることに決めた。
「こんにちは、クインさん」
『おや、おかえり』
「はい! すこしだけ、帰ってきました!」
『ただいま~!』
クインさんにあいさつをして、ペコリとお辞儀をする。
芽吹いたばかりの若葉の色をした、クインさんの綺麗な瞳がそっとやわらかに細くなって、優しく見つめられているのがわかった。
すこしだけ恥ずかしくなって、すぐに話題を言葉にする。
「あの! 書庫で本を読んでもいいですかっ?」
ちょっと声が跳ねたけど、気にしない、気にしない……!
でも、いつもはすぐに返事をくれるクインさんが、今日はなぜか黙ったまま書庫のほうを見たのが不思議で、恥ずかしさがとんでいった。
クインさん、どうしたんだろう?
一緒になって書庫のほうを見るけど、特に変なところはない、と思う。
首をかしげて、もう一度クインさんを見ると、すぐに視線が合った。
なんとなく、イタズラ好きな友達と同じ笑顔に見える笑みをうかべたクインさんに、どきりと跳ねたりしないのに心臓が跳ねた気がする。
ついつい身構えそうになって、でもクインさんが話し出すほうがはやかった。
『今日は、書庫で読書を楽しむ子が多くて、嬉しいよ』
うれしそうな笑顔に変わったクインさんの言葉に、もう一回首をかしげる。
読書を楽しむ子が多い……それって、たぶんわたし以外にも、読書をしにきた人がいるってことだよね?
クインさんも読書が好きみたいだから、それがうれしかったのかな?
よくわからないけど、クインさんがうれしそうだから、わたしまでうれしくなってうなずいてみる。
『今も一人、中にいるよ』
「そうですか――えっ! 今もですか!?」
あまりにもクインさんがさらっと言うから、逆にびっくりだよ!
『あぁ。僕が知る限り、一番読書が好きなシードリアの子がね』
「えっ!?」
もう一回、びっくりした。
一番読書が好きな、シードリアって……もしかして!
イタズラが成功したみたいに笑ったクインさんを見て、あわてて書庫にかけよる。
書庫の中に入ってすぐに、緑の瞳と視線が合った。
――精霊の先駆者の、あのお兄さんだ!
すぐに立ち上がって礼をしてくれたお兄さんに、慌ててお辞儀を返す。
初日の時と同じ……ううん、それよりももっとすてきになった、エルフ式の一礼だった。
「こんにちは。読書にいらしたのですか?」
「あっ! はい! えっと、新しい本があれば、読んでみたいなと思って!」
優しい笑顔と、高めでやわらかな声に、あわてて返事をする。
「そうでしたか。……あぁ、私が今机に広げているもので、あなたが読んでいない本がありましたら、遠慮なくおっしゃってください。私はすでに読んでいますので」
「わぁ、ありがとうございます!」
「いえいえ」
優しくて丁寧で、とてもすてきな心配りができる人だなぁって、やわらかな笑顔を見ながら思う。
そこからの時間は――本当に、夢のように楽しい時間だった!!
本を読むこと以上に、すこしだけだったけどお兄さんとのお話が楽しくて。
勇気を出して、おすすめの本をきいてみて良かったなって、心から思った!
夜の最初の時間にかわってから、すぐに書庫を出て行ってしまった背中を思い出して、なんだかすごくうれしくなる。
だって、いつか話しかけてみたいなぁ、なんて思っていたけど、まさか本当に話せるなんて!
「やっぱりすてきだったなぁ……ロストシードさん」
前に偶然聞いたお名前を、声に乗せる。
そう言えば……自己紹介もしないまま、お別れしてしまった!
直接お名前を聴くことができる、すごく特別な機会だったのに!
がっくりとうなだれたわたしを、緑の精霊さんがよしよしとなでてくれて、すぐに元気が戻る。
そうだよね、落ち込むくらいなら、次のことを考えよう!
もしまた、あの優しくてすてきなロストシードさんと、お話する機会があったら。
――その時は今度こそ、あのお声からお名前を教えてもらうんだ!
※明日は、
・七日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!