百六十二話 区切りの食事は蜜の味
※飯テロ注意報、発令回です!
新しい手飾りを、昼の眩い陽光に輝かせながら、マナさんとテルさんのお店を後にする。
ポーションに装飾品、服と靴に、武器の手飾り――これでひとまず、里の中での買い物は終わった。
じっくり楽しんだ買い物の後は……パルの街へ行く関係上、ひとまずの区切りとなる、この里での食事を楽しむとしよう!
ふっと上がった口角に、肩と頭の上に乗る小さな四色の精霊さんたちがそわそわとしはじめる。
その様子に自然とゆるむ口元を整えながら、優雅に食堂へと足を進め、大きな看板に書かれた本日のおすすめメニューを見やった。
「[薄紅小海老のフライ]、ですか!」
はじめて見るおすすめメニューに、キラリと緑の瞳が煌くような気持ちで、扉を開く。
来店を知らせる軽やかな音が鳴り、すぐにぴゅーっと可愛らしい緑の中級精霊さんがそばへと飛んできてくれた。
『いらっしゃいませ~!!』
「こんにちは。以前、森の中でお会いした際のお気遣い、ありがとうございました」
『いえっ! わたしのほうこそ!』
輝かしい笑顔と声音でのお出迎えに応じながら、前回森兎がいる場所で緑の中級精霊さんとお会いした時の気遣いに、感謝を伝える。
捕まえた森兎を、いりますかと問われた際の衝撃はともかくとして、感謝はしっかりと伝えておきたかった。
この流れで、緑の中級精霊さんにもご報告をしておこう。
「それと……実は、空の時間で明日には次の街へ行くことにしまして、こちらでの食事は今回がひとまず区切りとなるのです」
『えっ! そうなのですかっ!?』
「えぇ」
つぶらな瞳を丸く見開く緑の中級精霊さんに、眉を下げてうなずきを返す。
すると、驚いた表情から一転、小さな両手がぐっと拳をにぎった。
『それなら! 料理人には、きょうもとびきりおいしくつくるように、伝えておきますね!』
意気込みたっぷりな緑の中級精霊さんの言葉に、嬉しさで思わず笑みが零れる。
「ふふっ、ありがとうございます。いつもとても美味しいですから、本日も楽しみです」
『わぁ~! ありがとうございますっ! では、こちらへどうぞ~!』
「はい」
いつもの奥の席へとつづく案内に従い、今日も空中を滑る小さな背中を追いかけていく。
そうして席へとつくと同時に、本日のおすすめメニューとまだ注文したことがなかった果物入りのパン、それと黄金スープなるものを注文する。
『しょうしょうおまちくださいませ~!』
緑の中級精霊さんがにこにこな笑顔でそう告げ、ぴゅーと厨房へと去っていく背中を見送り、葉のコップのさわやかな水を楽しむ。
そうして精霊のみなさんと一緒に、心なしかそわそわとしながら待つことしばし。
やがて蔓の上に皿を乗せた緑の中級精霊さんが、笑顔で食事を届けに来てくれた。
『うすべにこえびのフライと、リヴアップルパン、とくせいおうごんスープです!』
「ありがとうございます。頂きます」
『ごゆっくり、おたのしみください~!』
もやは恒例となった言葉を交わし、手早くも真摯に食前の作法をおこない――いざ、食事開始!
初手は迷うことなく、一口大に切られた薄紅小海老のフライを一つ、フォークで刺す。
それだけでも、サクサクとした子気味好い音が響き、自然と口角が上がった。
小さめのいわゆるエビフライを、タルタルソースのような白いソースにからめて、ぱくりと口に入れる。
瞬間、白いソースのさっぱりした酸味が広がり、それにつられてエビの身を噛むと、サクリとした軽やかな衣の食感とプリプリとした身の食感が同時に楽しめた。
お次はと、小さな丸い形の薄茶色のパンにリヴアップルの実の粒が入っている、リヴアップルパンをちぎり食べてみると、こちらもリヴアップルの甘さがやわらかな食感のパンに合い、なかなかに美味。
最後に、澄んだ黄金色のスープをスプーンですくって、口へと運ぶ。
とたんに口の中に広がったこの味は――コンソメスープ!
「なるほど……やはり本日のお食事も、大満足間違いなしですね」
『おいしいの、いいこと~~!!!!』
「えぇ、本当にその通りです」
『うんっ!!!!』
思わず呟いた言葉に、四色の精霊さんたちがくるくると舞いながら嬉しそうに声を上げ、それに言葉とうなずきを返す。
美味しさとは、偉大であり、まさに幸福そのものであるとは、たしかに私も思うことだ。
つい頬をゆるめながら、区切りとなる食事を味わいながら食べていく。
味覚を楽しませる美味しさに夢中になっていると……ふいに、会話が耳に届いた。
『ねぇ、アードリオンのお店で新しく売っていた、ポーションはもう飲んでみた?』
『飲んだわ! 甘くて、とっても美味しいポーションだったわ!』
『そうよね! マナプラムティーにまけないくらい、美味しかったわよね!』
『えぇ!』
お声からして、おそらく以前ポーションが美味しくないと語っていた、ノンプレイヤーキャラクターの女性二人組で間違いないだろう。
私の美味しいポーションづくりのきっかけは、まさにこのお二人の会話だった。
そのお二人が、どうやら私の自作ポーションを飲んでみて、美味しかったと言ってくださっている……うぬぼれでなければ、そう解釈していいはず。
思わず、にっこりと微笑みが深まった。
食事中にお礼をしに行くことはさすがにできないので、心の中で深く感謝を捧げる。
やはり、ポーションであっても、美味しさは偉大に違いない!
嬉しさで満ちた胸中のまま、フライとパンとスープを楽しみ、そのままの勢いでベルを鳴らす。
すぐに来てくださった緑の中級精霊さんに、マナプラムを持ち込み食材として手渡し、デザートにマナプラムティーとチョコケーキを注文する。
届いた二つの甘さをしっかりじっくり味わうと、さらに幸福感が胸に満ちていく。
いったん区切りと決めた今回の食事は――まるで風味豊かな蜜のような、幸せの味がした。