百五十六話 可愛い師匠と名案と
素敵な餞別をカバンに、素敵な言葉は胸にしまい、アード先生のお店から昼の陽光射す土道へと出る。
ぽかぽかとあたたかな心をそのままに、お次は装備を一新しに行こう!
「まずは、リリー師匠のところへまいりましょう」
『はぁ~~い!!!!』
元気な返事に微笑みをうかべ、まだ他のシードリアのかたが少ない土道を進んで行くと、リリー師匠のお店まではあっという間だ。
開放的な入り口から一歩店内へと踏み入ると、キラリと煌く美しい装飾品と、蒼い瞳が迎えてくれた。
『ロストシード! いらっしゃ~~い!!』
「こんにちは、リリー師匠。この間は大盛況でしたね」
跳ねるような嬉しさを表すリリー師匠に、こちらも微笑みを深めてあいさつと、以前見かけた光景に対する言葉を返す。
私の言葉に、リリー師匠はぱぁっと笑顔を咲かせた。
『そ~なの! みんながあたしのお店に来てくれて、すっごくうれしいわ! シードリアって、ほんとうにいろいろな子たちがいるのね! 好みもみんなちがって、ひとりずつ似合う飾りをえらぶの、すっごく楽しかったの!!』
「えぇ、えぇ。それは本当に良かったです」
キラキラと瞳を輝かせて語る小さな師匠は、やはり今日もたいへん可愛らしい。
思わずにこにこと笑顔であいづちをうっていると、唐突に蒼い瞳が見開かれる。
『あら! 光の子もロストシードと一緒にいるのね!』
頭の上へと向けられた煌く視線に、穏やかにうなずきながら言葉を紡ぐ。
「えぇ。小さな光と闇の精霊さんも、ご一緒してくださることになりまして」
『まぁ!! 大人気ねロストシード!!』
「ふふっ、そうでしょうか?」
『そうよ!! ねっ? みんな!』
大真面目な表情で、四色の精霊さんたちへ問いかけるリリー師匠に、ふわっと私たちの間に移動してきたみなさんが、くるくると舞う。
『しーどりあ、だいにんき~!』
『ぼくたち、しーどりあすき~!』
『ぼくたちみんな、すき~!』
『しーどりあ、すき!』
「おやおや、照れますねぇ」
『ほら! やっぱり大人気だったわ!』
「どうやらそのようです」
たっぷりと気持ちのこもった精霊さんたちの言葉に、少々頬が熱くなる。
えっへんと両手を腰に当てるリリー師匠に、ほんのりと赤くなっているだろう頬のままうなずきを返した。
照れ隠しではないが、さっと店内を見回し、さいわいにも他のシードリアのかたが今日はまだ来店していないことを素早く把握する。
そろそろ――本日の本題に入るとしよう。
コホンと軽く咳払いをして、リリー師匠に向き直る。
「――実は、空の時間で明日、次の街へ行くことに決めまして。本日はそのご挨拶と準備のために、こちらへうかがいました」
『まぁ!?』
私の言葉に、リリー師匠の蒼い瞳がまんまるになった。
よほど衝撃的だったのか、ぱちぱちとそのまま瞳がまたたき……次いで、嬉しさ大爆発と言わんばかりの笑顔が、眩く咲きほこる。
『ついに! あなたも新しい街へ旅立つのね!! お祝いしないと!』
――おっと、そうきましたか。
つづいた言葉に、脳内で一瞬、さきほど餞別をいただいたアード先生とのやりとりがよみがえる。
とは言え、リリー師匠にはすでに素敵な髪飾りをプレゼントしてもらっているのだ。
私にとっては、この髪飾りだけで充分に思える。
意気込むリリー師匠に、ゆるやかに首を横に振りつつ、装飾品づくりのほうをしたい旨を紡ぐ。
「あぁ、いえ、それは……すでに素敵な髪飾りを贈っていただいていますから。それに、本日もきっとすぐにお忙しくなるかと思いますので、どうぞお気になさらず。
かわりと言ってはなんですが、また作業部屋をお借りしてもよろしいでしょうか? 新しい装飾品と、売り物用のものをつくっておこうかと思いまして」
『む~、わかったわ! お祝いはあとでなにか考えるとして――作業部屋は、自由につかってちょうだい!』
「ありがとうございます」
少しだけぷくっと頬をふくらませ、不服の表情を見せたリリー師匠は、お祝い自体はどうやらあきらめる気はないらしい。
それでも、一転して笑顔で作業の許可をいただけたので、ありがたく使わせてもらうとしよう。
ついでに、今日新しく作る装飾品についての案も、せっかくなのでたずねてみる。
「それと……新しく、靴につける装飾品をつくろうと思っているのですが、実はどのようなものが良いのか分からず……」
毎回両脚に直接付与している、〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉を、靴に付与することができればと考えた結果、直接靴に付与するためには魔石が必要だと気づいた。
それならば、装飾品を靴につけてしまえばいい! と閃いたまでは良かったのだが、ではどのような装飾品が良いのだろうかと、この部分が分からなかったがゆえの問いかけだ。
そろりと眉を下げると、リリー師匠は真剣な表情に切り替えて、小さな腕を組む。
『くつ? う~ん、そうね。あなたの場合は……足飾りのようなものだと、いいかも!』
「足飾り――なるほど。ありがとうございます、リリー師匠」
さすがリリー師匠、すぐに名案を出してくださった。
足飾り……足輪のようなものを、靴に飾る用につくればいいのだと、すぐにイメージが湧く。
私のお礼を聞いたリリー師匠は、再び小さな両手を腰に当てて嬉しげな表情をうかべた。
『えっへん! あたしはあなたの師匠だから、こういう助言はいっぱいできるのよ!』
「とても素敵な師匠に出逢えたと、いつも嬉しくありがたいと思っております」
『まぁ! ロストシードったらじょうずなんだから!』
「ふふっ、事実ですからねぇ」
『も~! 照れてしまうわ!』
軽やかで楽しいやりとりに、ついつい頬がゆるんでしまう。
入り口から射し込む光が、ゆっくりと色を変えつつある時間の移ろいに気づき、ではさっそくと作業部屋へと足を向ける。
小さな師匠の応援の声に応えながら作業部屋に入り、すぐさま作業を開始。
こちらでも《同調魔力操作》を活用して素材たちを空中にうかべ、以前よりもスムーズに売り物用の腕輪や指輪、首飾りをつくり上げた。
同じように銀と銀の魔石、そして純性魔石を使って、編み込みの腕輪と同じ方法で足飾りの輪を二個つくり、これを靴飾りとして後で風の付与魔法をかけることに決める。
『しーどりあ、じょうず~~!!!!』
「ありがとうございます、みなさん」
仕上げに装飾品へ刻んだ、煌くロストシード印――もとい、ロストシード作を示す[LS]の文字を含む種が芽吹く印に、四色の精霊さんたちが褒め言葉をくれた。
それに微笑みを深めてお礼を告げると、ちょうど作業部屋とお店とをつなぐ扉が開かれ、リリー師匠が入ってくる。
『名案をおもいついたわ!!』
蒼い瞳がキラリと輝くのに、ぱちりと緑の瞳をまたたいた。
はて? リリー師匠はいったい、何を思いついたのだろう?