百五十一話 幕間十六 そう言えば精霊の先駆者だった
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
(幕間二、幕間五のプレイヤーさんです)
【シードリアテイル】がはじまって、六日目の夜。
パルの街のお気に入りの宿屋の部屋で、一息ついてエルフの世迷言板を眺めていた時、面白そうな話題が出た。
――精霊と仲良くする方法を教えてくれた、あのロストシードさんと一緒にいる精霊の数が、一体増えていたって。
提供された新情報に、そう言えばあの人は精霊の先駆者だったって思い出す。
前に世迷言板で盛り上がったすごい魔法を使っているらしいっていう話題と、エルフの里の神殿裏で見た明らかに見たことない魔法を使ってた姿のイメージがどうしても強くて、うっかり忘れてた。
それでも、もう驚きよりも先にやっぱりかって思ったから、ある意味あの人に関係する話題には慣れたって言えるかも。
だいたいとんでもないって分かってきたから、心の準備がすぐにできる。
[あ~、それはそれは]
真っ先に反応した、世迷言板の常連になったゲーム慣れしてる人につづいて、文字を打ち込む。
[なるほど、増えていたのね]
[えっ! 新しい精霊さんですか!]
[それは、素晴らしいですね]
[おれ、もうびっくりして、三度見くらいしました!!]
[それは見すぎって言いたいところですが、気持ちはよく、分かります]
「同感。四度見くらいしたくなるわよね、あの人の場合」
一人部屋だから、遠慮なくつぶやく。
実際、見たことのない魔法を使ってるのを見た日とか、普通に信じられなくてしばらく見つめたくらいだもの。
うんうんうなずいてると、風の下級精霊が不思議そうに横でゆれたから、何でもないよって首を振って伝える。
ついでに、進んでいく世迷言板の会話にも書き込む。
[たしかに、かの方のこととなると、失礼ながらよくよく見つめてしまいます]
[わたしも、です!]
[私もその気持ちはよく分かります]
[ですよね!? よかった! おれだけがびっくりしてるとかではなかったんですね!]
「まぁ、わかる」
同じく常連の元気系少年みたいな子の反応が面白くて、ついつい口元がにやけた。
[それはもう、むしろみんな似たような反応になるかと]
[かの方の場合は、私たちの予想を遥かに上回っている場合が多いようですから、無理もないでしょう]
[えっと、わたしもお見かけするたびに、びっくりしている気がします!]
同感の嵐みたいな展開に、笑いながら同じように同感を文字にする。
[予想外と言うか、想定外のことをしているのは事実だから、そうなりますよね]
[デスヨネー]
[えぇ]
[ですね!]
[なるほど!]
連なった納得四分の三、のこり四分の一は呆れをふくんだ文字に、またうなずく。
あの人が関わっている限り、これからもだいたい世迷言板ではこういう反応になるだろうなって思う。
本人にすごさの自覚がなさそうなあたりが、天然物の恐ろしさってやつよね。
「無自覚系先駆者って、ほんととんでもない人しかいないの、なんでなんだろ?」
『なんで~?』
「わかんない。話す機会があれば、きいてみよっかな」
『おはなし~!』
「そ、おはなし」
素朴な独り言に、風の下級精霊がくれるあいづちがかわいい。
ちょっと遊んでると、また世迷言板に動きがあったのが横目に見えた。
何だろって視線を戻して――思わず固まる。
[というか、おれ、白い精霊なんてはじめてみたんですよ!]
[は?]
[え?]
……二人の常連が、あたしの気持ちを代弁してくれているような気さえした。
「白……白色の精霊なんて、いた?」
『ひかりのこ?』
「光の……精霊ってこと!?」
『うんっ!』
まさかの、光の下級精霊と仲良くなってたって、こと!?
でも、風の下級精霊なこの子が言うなら、たぶん間違いない!
慌てて世迷言板を見返すと、ちょうど文字が打ち込まれた。
[光の、精霊さんでしょうか?]
この子も常連の子のはずで、あのロストシードさんの行動から、書庫で本が読めることを学んで教えてくれた子のはず。
精霊についての本とかもあるらしいから、この子の予想とこっちの風の子の言葉とを合わせたら――もう、これは確定でしょ。
[マジですか。さっすがにそれは知りませんでした]
[光の精霊さん……そのような精霊さんもいるのですね]
あたしの気持ちを代弁してくれた二人の気持ちも、すごくわかる気がする。
とりあえず、風の子が教えてくれたことを打ち込む。
[一緒にいる風の下級精霊の子が、光の子って言ってるので、光の精霊で間違いなさそうですよ]
[なるほどなぁ]
[ほう]
[うわー! やっぱり光の精霊なんですね!]
[あっ、合ってたみたいでよかったです!]
みんなが謎の答えを知って、急にほのぼのとしてきた会話に、そう言えばって思った疑問を投げかける。
[そう言えば。私はまだ風の下級精霊の子としか仲良くなっていないのだけど、みんなはあの人みたいに、他の属性の精霊たちとも一緒にいるの?]
文字を打ち終え、隣の風の子に視線を移す。
ロストシードさんが、精霊との交流の仕方を教えてくれたからこそ、この子と仲良くなれた。
けど、あたしはこの子一体としかまだ仲良くなれていない。
正直、この子だけでも十分力になってくれてるから、困らなかったって言うのが本音。
そのあたり、他の人はどうなんだろうって、なんとなく気になった。
[おれも、風の下級精霊一体だけです!]
[えっと、わたしも一体です!]
ふむふむ。元気系の子と本の子はあたしと同じ状態ってことね。
これなら、一体だけ一緒にいるエルフのプレイヤーは、別に少数派ではないかも?
状況を整理しながら、残り二人の反応を待つ。
すこし間をおいて、それぞれの反応を返してくれた。
[俺は水・風・土の三体。交流してみたら、案外あっさり全員とって感じで]
[私も、その三体です。みなさんと仲良くなれました]
「まじか」
つまり……交流さえおこなえば、案外複数の精霊と仲良くなることは簡単ってことよね?
「――いいこときいた」
ニッて笑顔になるのが、自分でも分かった。
情報感謝。すらすらと文字を打ち込む。
[交流だいじ、了解。情報ありがとうございます。さっそく試してみます]
[おれも! ためしてみます!]
[あっ、教えてくださり、ありがとうございます!]
[おう、楽しい交流を~]
[良き交流を]
いい感じの会話の区切りに、世迷言板を消して、座ってた椅子から立ち上がる。
ふよって肩に乗った風の子をひと撫でして、意気込みを声に出した。
「よーっし! あたしも新しい子、ふやすぞ!」
『お~~!』
かわいい応援の声に笑いながら、宿屋の部屋を出る。
せっかく精霊の先駆者から方法は教わっていたんだから、もっとはやくにたくさん試しておけばよかったのよね。
ま、今からでも問題ないでしょ。
サービス開始から六日目なんて――まだまだ、あたしたちはチュートリアルを楽しんでいるようなものなんだから。
※明日は、
・七日目のはじまりのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!