百四十七話 光の精霊魔法と嬉しい変化
食事を終え、しっかりと寝る準備まで整えてから、【シードリアテイル】へ本日最後のログイン!
『しーどりあ~~!!!!』
「おや、小さな光の精霊さんもご一緒ですね。みなさん、ただいま戻りました」
『おかえり~~!!!!』
胸元で揃って輝いた四色に、もうすっかりみなさんは仲良しなのだと感じる。
重なる声音が少しにぎやかさを増したあいさつに、笑みが零れた。
横になっていたベッドから起き上がり、昼の時間を示す眩い陽光が射し込む窓を見やる。
明るい光の中、くるくると舞う小さな光の精霊さんがすぐそばにいることは、まだ新鮮に感じた。
ふわりと口元に微笑みをうかべ、新しい友人ができた喜びをかみしめながら、ログイン後の準備をする。
小さな光の精霊さんは、風の精霊さんと同じ頭の上が定位置となったらしく、頭の上でぽよっと跳ねる感覚が二つに増えた。
「――さて! まずはお祈りですね」
『はぁ~い!!!!』
元気な四色のみなさんの返事に微笑みを返し、さっそく宿部屋から神殿へと降りて神々へお祈りをおこなう。
精霊神様へ、新たな友人ができたことへの喜びと感謝をお伝えしていると、唐突にしゃらんと綺麗な効果音が鳴った。
「おや、これは……」
開いた緑の瞳には、眼前で輝く[〈ラ・ルンフィ・ルン〉]の文字が映る。
どうやら、新しい精霊魔法を授かったらしい。
素早く灰色の石盤を開き、説明文を読み上げる。
「[持続型の補助系下級精霊魔法。光の下級精霊の力で、精霊たち自身が輝くことで周囲を照らす。詠唱必須]。なるほど、こちらは光の精霊さんの精霊魔法なのですね」
『うん! ぼくたちのまほう!』
「えぇ。授かることができて、とても嬉しいです」
『えへへ~!』
可愛らしく声を上げる小さな光の精霊さんに、自然と頬がゆるんだ。
魔法名の意味は、小さな光の精霊の光、だろうか?
〈ルーメン〉と似て非なる、新しい光照らす魔法に、思わず心が弾む。
せっかくの光の精霊魔法なので、どのような魔法なのかの確認は、夜にしよう!
弾む心のままに精霊神様へと感謝を捧げ、天神様、魔神様、獣神様へのお祈りもおこない、眩い陽光が降り注ぐ神殿の外へと出る。
あたたかな木漏れ日の煌きに緑の瞳を細め、秘密の指示にておこなった訓練兼依頼の完了を報告するために、まずはシエランシアさんのもとへと歩き出す。
土道を進む中で、神殿内でも少し思っていたことではあったが、どうやら【シードリアテイル】サービス開始六日目のこの現実世界では夜にあたる時間では――いよいよ後発組のみなさんが、遊びに加わりはじめているようだと気づいた。
お見かけしていた初発組のみなさんはすっかりお姿がなく、かわりに見慣れないお顔のみなさんが行き交っているエルフの里の光景に、つい微笑みが深くなる。
瞳を輝かせ、笑顔で土道を行く他のシードリアのみなさんをそれとなく眺めながら、広場にたどり着く。
「あぁ……これはまた、大盛況ですねぇ」
『しーどりあ、いっぱい!』
『みんないる~!』
『いっぱいだ~!』
『くんれんしてる!』
思わずいっそう穏やかに零した言葉に、肩と頭の上から精霊さんたちが言葉を重ねる。
つい前日までは広々としていたはずの広場は、初日ほどではないものの、ずいぶんとシードリアでにぎわっていた。
視線を向けた先のシエランシアさんも、数名のシードリアのかたがたに囲まれており、さすがにこの状況で秘密の訓練兼依頼の報告をしに行くわけにはいかないだろうと思う。
「……ご報告は、またの機会にいたしましょうか」
『はぁ~い!!!!』
小さく苦笑しながら紡ぐと、四色の精霊さんたちから元気な返事が響く。
一瞬だけ視線が合った空色の瞳に、応援の気持ちを込めて微笑みを返し、そのまま土道を進む。
お店が並ぶ通りにくると、また一段とにぎやかさが増したように見え、失礼にならないていどに周囲を観察する。
人が多いのはフィオーララさんの服のお店や、リリー師匠の装飾品のお店あたりか。
武器のお店も人気だが、剣や弓をもって出てくるシードリアのみなさんはともかく、マナさんとテルさんのお店から出てくるかたが杖を持っている確率の高さに、思わず密やかに決意を新たにする。
マナさん――私は今後も、手飾りを買いますからね!
夫であるテルさんの杖ばかり売れてしまい、マナさんがふてくされていなければいいのだけれど……。
そっとお二人の店を通り過ぎながら、先のほうで楽しげに響くリリー師匠の声に微笑む。
たくさんのシードリアのみなさんがいるお店の中では、リリー師匠の装飾品たちが今日も煌いている。
……ついでに、私の装飾品も煌いているのだろうかと視線を巡らせてみると、すでに以前置いていただいた場所はからになっていた。
まさか、買ってくださったかたがいらっしゃったのだろうか? いや、そんなまさか。
あれほどまでに素敵な、リリー師匠の作品があるというのに、そのようなはずは。
一瞬、真顔になったのを自覚する。
『しーどりあ?』
「あぁいえ、なんでもありませんよ、えぇ」
小さな水の精霊さんの不思議そうな声に、あわてて言葉を返しながら微笑みを口元に戻す。
次にリリー師匠のお店をたずねることが、少々怖くなったとまでは言わないけれども。
そうは言わないまでも、若干覚悟をする必要があるかもしれないとは、思った。
いったいどなたが買ってくださったのか――ありがたいという気持ちは、たしかに胸の中にある。
それはそれとして、私がつくった作品を気に入ってもらえるとはあまり思っていなかったため、かなり驚いているわけだが。
内心の驚愕をつらつらと思考にして落ち着けながら、足を進める。
後発組らしき初期装備のシードリアのかたがたが、物珍しそうに里の中を歩く様子を見ると、やはり自然と嬉しさが湧く。
【シードリアテイル】の素晴らしさ、そしてこのエルフの里の素晴らしさを、ぜひとも楽しんでいただきたい。
さきほどまでの驚きは消え、ほくほくとした気持ちでゆったりと人波を避けつつ歩く。
ところで……どうにもさきほどから、私へと向く視線もずいぶんと多いような気がする。
気のせいだろうかと思っていたが、やたらと視線を集めているのは、間違いないようだ。
穏やかな微笑みのまま、優雅に歩いてきたはずなので、特別後発組のみなさんの視線をひくような理由があるとすれば――やはり、身にまとう服が初期装備ではないから、だろうか?
あぁ、後は精霊のみなさんがそばにいるのも、まだ精霊さんたちと遊んでいないだろう目醒めたばかりのシードリアにとっては、珍しいかもしれない。
なるほど、と小さくうなずく。
つまるところ、後発組のみなさんにとっては、今こうして近くを歩いている私の姿も物珍しい対象に入るわけだ。
しかしそうなると……実際はそう珍しくもない存在である私に、貴重な目醒めたばかりのみなさんの時間を使わせるわけにはいかない。
ちょうど里の入り口へ着いたので、このまま視線から外れるとしよう。
そそくさと、とりあえず森兎のいた森の中へと入り込む。
チラリと後ろを振り返ると、しっかり樹々が視線をさえぎってくれているようだった。
ほっと吐息を零し、また自然と微笑みがうかぶ。
「後発組のみなさんが、たくさん里を楽しんでくださるといいですね」
『ね~~!!!!』
この願いは、きっと叶うだろう。
それほどまでに、このエルフの里は素晴らしいのだから!