百四十五話 光闇愛らしく加わりて
やがて移り変わった夜明けの時間と共に、その綺麗な虹色の翅を葉陰で休めるまでつづいた乱舞を見届け、ようやく帰路につく。
「本当に、とっても綺麗でした……!」
『きれいだった~~!!!』
どこか夢心地で呟くと、小さな三色の精霊さんたちも同意してくれる。
それに微笑みを深めながら、アースベアーが眠る密集地帯をさけ、少し遠回りで里への帰路を歩む。
薄青の木漏れ日に照らされた、薄霧にけぶる森の中をゆったりと進むのは、本当に心が清らかになるように感じる。
射し込む光が、金から白金へといたる長髪を照らす様は、やはり何度見ても美しい。
薄青の光を映したこの緑の瞳も、さぞ綺麗なのだろうなぁと、我ながらいい仕事……もとい、いいキャラクタークリエイトをしたものだと、さらに笑みが深まった。
はじまりの地である、このエルフの里でさえ幻想的で神秘的な美しさを、日々目にすることができるのだから、この先のフィールドもきっと素晴らしい景色が待っていることだろう。
その景色のそばに立つにふさわしい、素敵なシードリアになれるように、これからもはげもうと心に決める。
そうして、穏やかな心地で足を進めていた時――ふいに前方へと導くように、淡い虹色の光がキラキラと輝き伸びて行った。
間違いない。《祝福:幸運の導き》だ!
「さっそく発動していただけるとは!」
驚きに声を弾ませながら、ではいったいどのような幸運へと導いてくださるのだろうかと、足早に虹色に輝く標をたどる。
虹色の光はすぐ近くの巨樹の裏へとつづいており、たどり着いたその巨樹の裏をのぞくと、白と黒の小さな光が見えた。
「おや?」
思わず零れた呟きに、ふわりと肩と頭の上から眼前へと移動した三色の精霊さんたちが、嬉しげに一回転する。
『ひかりとやみのこだ~~!!!』
そう上がった歓声に、なるほどと再度前方を見やると、たしかに巨樹の陰で遊んでいたのは、小さな光と闇の精霊さんだった。
いつのまにか消えていた幸運へと導く虹色の光に、内心でニジイロアゲハ様とその祝福へ感謝の念を捧げつつ、くるくると眼前で舞う光と闇の精霊さんを見つめる。
三色のみなさんと同じく、幼さを感じる戯れのような動きで、互いと遊びながら近づいてきた光の闇の精霊さんにそっと両方の手を伸ばすと、掌の上にふわっと乗ってくれた。
初日に、三色のみなさんと書庫で交わしたやりとりを思い出しながら、穏やかにあいさつをする。
「こんにちは、小さな光と闇の精霊さん」
『わぁ~! しーどりあ!』
『しーどりあ~!』
「はい。私はシードリアの、ロストシードと申します」
『わぁ~!!』
きゃっきゃと、両の掌の上で跳ねたり舞ったりする姿は、その身にまとう色こそ違うものだが、三色の精霊さんたちと同じように可愛らしい。
思わずにこにこと笑みを顔に広げていると、さきほどから両手の周囲でそわそわと飛んでいた三色のみなさんが、ひゅいっと光と闇の小さな精霊さんに近づいた。
『ぼくたちのしーどりあだよ!』
『いっしょにあそびたいの?』
『しーどりあと、いっしょにあそぶ?』
なんとも可愛らしい声かけの中に、記憶に引っかかる部分があり、反射的に小首をかしげる。
はて……? 今何か、重要な響きの言葉が、聴こえたような……?
精霊さんたち、エルフのシードリア、交流、遊び――あっと閃いた瞬間、白と黒の輝きが増した。
『ぼくたちも、あそぶ!』
『しーどりあと、あそぶ~!』
――これはすなわち、新しい精霊の友人ができたということだ!
《精霊交友》や《精霊親交》のスキルを授かるに至った経緯を思い出し、懐かしささえ感じる交友の展開に、満面の笑みをうかべる。
「はい! ぜひともお二方も、一緒に遊びましょう!」
『わぁ~い!!』
上がった幼げな歓声に、微笑みを返す。
ふよっとうかび上がった二色の精霊さんたちは、三色のみなさんとくるくると舞いはじめる。
せっかくなので、かくれんぼをしてくれている多色と水の精霊さんたちにも、楽しんでもらおう!
さいわい、この場所ならば他のシードリアのかたに見つかる心配もないはずだ。
さっそく《隠蔽 三》を解除すると、薄霧に薄青の光が照る森の中、小さな色とりどりの精霊さんたちと数体の水の精霊さんたちが現れる。
それぞれの色を輝かせ、戯れる五色の精霊さんたちと共に、木漏れ日の中で舞う姿は――本当に美しい。
「私もダンスの一つでも踊ることができれば、みなさんの舞に加われましたかねぇ」
のほほんと小さく紡ぎながら、ニジイロアゲハ様の乱舞とはまた異なる美しさを放つ、精霊のみなさんの乱舞を楽しむ。
輝く白と黒の光に、ふとそう言えばと疑問がうかんだ。
「そう言えば、今は夜明けの時間ですが……朝になっても、闇の精霊さんは一緒にいてくださるのですか?」
夜明けは朝と夜の間、そしてどちらにも属する時間。しかし朝は光の時間であり、同ように夜は闇の時間というイメージがある。
実際には、どちらの時間にもそれぞれの属性の精霊さんをお見かけしたことはなく、今回がはじめてなのだが……朝の時間に闇の精霊さんがいる、あるいは夜の時間に光の精霊さんがいるという状況は、やはりあまり想像できない。
軽く首をかしげての問いかけに、ぴたっと動きを止めた五色の精霊さんたちが、ふよふよと私の目の前に戻って来てくれる。
さらに少しだけ、光と闇の精霊さんが前へと出てきて、ふよっと動きで否定を示してくれた。
『ぼく、あさはかくれるの~!』
『ぼくはよるにかくれるよ!』
闇の精霊さんの返事に、光の精霊さんも言葉を重ねる。
どうやらやはり、それぞれの時間の雰囲気から得た私の理解は、正しかったらしい。
「なるほど。では夜明けの時間以外は、お一方ずつご一緒に、ということになりますね」
『うん!!』
「えぇ、分かりました。では手はじめに――ここでもうしばらく、夜明けの時間を楽しみましょう!」
『はぁ~~い!!!!!』
納得の後に響かせた提案は、精霊のみなさんのお気に召したようで。
いましばらく、美しい夜明けの時間に舞う精霊のみなさんの美しさを堪能したのち、ようやく里へと戻り、宿部屋でみなさんに一時的な空への帰還を告げ……可愛らしいみなさんとの別れを惜しみながら、ログアウトを紡いだ。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。