百三十九話 幕間十四 レベル差とか考えたこともなかった!
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
(幕間三のプレイヤーさんです)
めちゃくちゃ楽しい、最新没入ゲーム【シードリアテイル】で遊びはじめて、六日目。
パルの街の外にある、すっげぇ広い草原で魔物を倒して休憩に帰ってきた街中で、世迷言板をのぞく。
空き時間はだいたい世迷言板を読んでるけど、いつみても面白い会話しかないし、ためになる情報もおおい。
「見るのはもう、くせみたいなものだな」
にぎやかな街角なら、こうやって呟いてもだれも気にしないから、パルの街のにぎやかさは気に入ってる。
『おはなし、みる~?』
「おう! いつもの確認な」
『は~い!』
風の下級精霊は、もうおれが世迷言板を確認するのを見慣れたんだろうな。
世迷言板をのぞきこむうごきは、なんかすげぇかわいい。
ちょっと笑いながら、いっしょに前読んだところから順番に読んでいく。
とちゅうまでは、雑談メイン。
そのあと、すごく丁寧な書き込みから、流れがかわった。
「ハーブラビットに、逃げられた? そんなこともあるのか」
『たたかわない?』
「んや、戦えなかった、んだろうな」
『たたかえない~?』
風の下級精霊がふしぎそうにしてるってことは、けっこうめずらしいことなのか?
同じように首をかたむけながら、つづきを読んでみる。
「お~、魔物に逃げられるの、この人たちもあったんだな。ってか、事前テストのこと言ってるのって、いつもの人だな、たぶん」
逃げられたことがあるって返事してる二人のうち、あとから文字打ってる人もたぶん、前にいろいろ情報をおしえてくれた人っぽいな。
事前テストでそういうことがあったって言ってる人は、攻略系の人で確定だろ。
いつもいろいろおしえてくれる人たちが、この質問にもこたえてるんだな。
――これなら、この質問をした人も安心だろって思いながら読み進めて……いやこれちがうなってかんじて、首をひねった。
他の人たちの考えをききたいっていったあと、すぐに打ち込まれてる文をみて、この人ぜったい何もわからない初心者プレイヤーではないなって気づく。
[私は、本来好戦的な魔物に逃げられてしまう現象は、プレイヤーのレベルが魔物よりも高いために引き起こされるものなのではないか、と考えているのですが、みなさんはいかがでしょうか]
こんな風に考えている人が、ただの何もわからない質問者なわけがないことくらいは、おれにだってわかる。
むしろ逆だ。すげぇいろいろと知ってる人の書きかただろ、これ!
いきなり内容が濃くなった会話を、なんとか目で追う。
「スライムは逃げないけど、ラビット系は逃げる。事前テストの時は、圧力とかデバフまであった……? マジかよ」
さらっとやばいことが書かれているんだが? さすが攻略系の人。
あ、でもゲーム慣れしてるっぽい人もすごいし、たぶん最近世迷言板でよく書き込んでるっぽいもう一人の人もすごいな。
ってか、そもそもレベル差がなにか影響あるかもって考えた、質問した人が一番すげぇな!?
おれ、レベル差とか考えたこともなかった!
そーいうのがあるって思うと――めちゃくちゃわくわくするな!!
「レベル差か~! おもしろいな!」
『れべるさ?』
書かれてる内容にわくわくして声を出す。
風の下級精霊がきいてくるのに、二ッと笑って、おれがわかる範囲で説明してみる。
「おう! スライムはよくわかんねぇけど、他の魔物とはレベル差があれば、魔物のほうが逃げるっぽいって話だな」
『おぉ~! しーどりあも?』
「おれはどーだろなぁ……」
いわれてはじめて、今までの戦闘をふりかえってみた。
魔物を倒して、けっこう効率よくレベルを上げてきたほうだと思ってる。
けど、だから逆に、わざわざ弱い魔物とは戦わなかった。
エルフの里でも、アースウルフを倒せるようになってからは、ハーブスライムは倒しにいってないし、ハーブラビットっていう魔物をそもそも倒してねぇや。
「おれ、基本的に同じくらい強いか、おれより強い魔物としか戦ったことないから、やっぱわからないな」
『しーどりあ、つよいから~!』
「ははっ! まあな!」
くるくる回転しながらいう風の下級精霊の言葉に、笑って返事をする。
パルの街に来てからも、王道の狩り場ってかんじの広い草原にいる魔物と戦ってきたけど、さすがに弱いとは思わなかった。
馬みたいな魔物とか、豹みたいな魔物とか、どの魔物も動きははやいし攻撃があたるとめっちゃ生命力削られるから、レベルが二十になるまでは戦うのたいへんだったんだよなぁ……。
二日前にレベル二十に上がったあとは、けっこう戦いやすくなったんだけど、もう次の街にいってるらしい攻略系の人たちに追いつくのは、もうちょっと先だろうな。
草原を見ていた目を世迷言板にもどして、さいごのやりとりを見る。
「ん?」
なんか引っかかる気がして、じっと質問した人の文章を見ながら、また首をひねった。
[ありがとうございます。気になっていた魔物とレベル差についての疑問が解けました。みなさんとのお話から、また一つ【シードリアテイル】の魅力を知ることができたように感じます]
このしめの流れで、【シードリアテイルの】魅力、なんて表現をしそうなエルフのプレイヤーって……。
一瞬、頭の中で、グラデーションがかかった長い金髪を思いうかべる。
いや、まさかな……?
[はい。またの機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。――それでは]
や、でもこの……やたらと丁寧に切り上げる書きかた。
これ――初日の世迷言板でも、見た記憶があるんだよな。
「あ、あ~……もしかして、この質問した人って……」
あの人、だよな……?
うっかり口から出そうになった名前は、気合いでのみこんだ。
まだパルの街で見てないあの人が、ここに来るのは……いったいいつになるんだろうな?
※明日は、
・六日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!