十三話 オリジナル魔法創作劇!
さて、まさかのオリジナル魔法なるものを習得できたあたりで、魔法を習得するという楽しさで忘れかけていた部分を思い出した。
この魔法の習得に、属性に親しむという要素が重要なのではないか、という予想のことだ。
一に魔力放出、二に想像、三で転じて魔法となる。
果たして本来、こうもたやすく魔法を習得できるものなのだろうか?
もし、属性に親しむことが予想以上に魔法を習得するために重要な要素であったならば。
……神殿の神々の像の前以外では、これほどまで簡単に新しい魔法を習得することは、できていなかったのではないだろうか?
正直なところ、その可能性はおおいにありうる。
だとすれば、私がこの後したいと思うことは、ただ一つ。
――今のうちにできる限りこの場で、魔法を習得する!
「……この祈りの小部屋は、精霊神様へ祈る場所で、精霊神様は水・風・土・火の四つの属性とその派生属性をつかさどる魔法の神様。では、少なくともこの四つの属性と派生属性関連の魔法は、おそらく習得しやすい状態のはず……」
意識的に言葉として発し、考えを整理していく。
〈ラ・フィ・フリュー〉は問題なく持続発動しており、この状態で新しい魔法を習得して発動を試していくことで、熟練度が存在する《並行魔法操作》も同時に発動させることができるため効率はいいはずだ。
よし、とうなずき、燐光が美しい下級精霊のみなさんへ、声をかける。
「精霊のみなさん。このまま続けて他の魔法の習得と発動をしていきますので、引き続きご協力をよろしくお願いいたします」
『は~い!』
『まかせて~!』
『まほうたのしみ~!』
やはり、応えてくれるのは三色の精霊のみなさんだけだったが、不思議と他の精霊さんたちにも言葉が伝わっていることだけは確信できた。
ゆるく微笑み、今度こそ高揚感を胸に満たす。
先ほどまでは未知の挑戦にいささか緊張があったが、初手も二度目も予想外の驚きを体感したからか、今はただ楽しさと意欲があふれていた。
次は、いったい何が起こるのだろう?
口元の笑みが深まるのを感じつつ、そっと瞼を伏せる。
《魔力放出》を発動し、今度は水の魔法をイメージ。
私と一番目に交流してくれた下級精霊さんは、涼しさと水の香りをもつ水の下級精霊さんだった。
ひやりと涼しげな感覚を思い出し、その冷たい水滴が敵へと降り注ぎ貫く、凶悪な雨になることを強く想像する。
開いた瞳の先、再び精霊たちがいない場所を見つめ、少し広い範囲に鋭く降る針のような雨が、容赦なく複数の敵を貫く様をイメージして。
――唐突に空中から降り注いだ幾つもの線のような水色の雫が、白亜の床へと突き刺さる手前で消え去った。
今回は予想の通り、遅れてしゃらんと効果音が鳴る。
眼前に出現した光る文字は、[〈オリジナル:降り注ぐ鋭き針の雨〉]と書かれていた。
さすがに手慣れてきた意識だけの操作でステータスボードの魔法の一覧を開き、説明文を確認する。
「ええっと、[無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル攻撃系下級水魔法。小範囲の複数の敵に鋭く降り注ぐ針の雨。無詠唱でのみ発動する]ですか。広い範囲や倒す敵を複数イメージする事で、単体型ではなく範囲型の魔法も習得できるようですね」
『あめすごかった~!』
『しーどりあじょうず~!』
『おめでと~!』
「みなさん、ありがとうございます。この調子でたくさん新しい魔法を習得しますね」
ふむ、と説明文にうなずきつつ、褒め言葉をくれる三色の精霊のみなさんに礼を返す。
精霊さんたちに告げた通り、この調子で進めて行こう。
次に想像するのは、土の魔法だ。
足止めと攻撃を両立できるような、地面から生えて敵を突き刺す複数の強固な杭をイメージする。
すると、今度は白亜の床から複数本の土色の長い円錐の杭が突き出し、消えた。
お馴染みとなった美しい効果音のあと、空中にうかんだのは[〈オリジナル:大地より突き刺す土の杭〉]の文字。
説明文には[無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル攻撃兼補助系下級土魔法。小範囲の複数の敵に大地から突き出し刺さる硬い土の杭。敵の動きを一時その場に留めることが可能。無詠唱でのみ発動する]と書かれていた。
思わず、眉が上がる。
「おや、本当にイメージ通り、攻撃系効果と補助系効果の二つの効果をもたせることもできるのですか」
イメージ通り、予想以上の効果に、呟きを零す。
たしかにそのように想像したのは私自身だが、あのイメージがそのまま魔法に転じるということは、オリジナル魔法は想像以上に自由度が高い魔法なのではないだろうか?
自然と口角が上がり、好奇心が湧き出る。
どうやら、思っていたよりもずっと色々な魔法を試すことができそうだ。
次は少し趣向を変えてみよう。
口元に片手を軽くそえ、思案する。
「ううん、そうですね……。例えば、複数の属性を同時に使用する様な魔法とか……」
うーんと小さくうなりながら、どのように魔法を組み合わせるといいのかを考えていく。
例えば、水の魔法だけでは、上から下へは素早く落下できたとして、前方へは落下速度と同じ速さで飛んで行くとはあまり思えない。
そう思うのは、神殿へたどり着く前に通りがかった広場で、シードリアたちの魔法を垣間見たから。
とあるエルフの少年が、水の球体を前方へ飛ばす魔法を使っていたが、その速度はお世辞にも速いとは言えないものだった。
明らかに、私がさきほど習得したオリジナル魔法の雨が降り注ぐ速度のほうが速かったのだ。
……これを前提に考えるのであれば、水の魔法に落下という形以外で速さを加えるには、他の魔法の補助が必要なのではないだろうか。
速さ、という一点で思いつくのは、やはり風の魔法だ。
オリジナル魔法でも、風の魔法はまさに刹那と呼べるような速度で発動していた。
あれを、水の魔法と組み合わせることができないだろうか?
「風の魔法で速さと鋭さを補った、水の魔法……」
呟きつつ、想像を明確にしていく。
小さな水たまりのように浅い水面に、風で流れを生み渦にする。その小さな薄い円盤状の水の渦が複数空中にうかび、さらなる風の力を加えていっせいに複数の敵へと飛来し、風と渦の力で切り刻む。
少し複雑だが、何度か脳内で繰り返し納得のいくものが想像できたあたりで、《魔力放出》と共に明確なイメージを行い――そして見事に、想像は具現化した。
涼しげな水気を含んだ風を連れ、私のすぐそばの空中に小さな水の渦が三つ出現する。それらはすぐに前方へと左右と真正面に分かれて飛来し、空中をなぞってから霧散した。
効果音と共に、[〈オリジナル:風まとう水渦の裂断〉]の文字と、[《複合属性魔法操作》]と[《二段階属性魔法操作》]の文字が眼前にうかぶ。
無事に魔法として習得できたことにほっと息を吐きつつ、それぞれの内容を確認するため石盤を開いた。
「[〈オリジナル:風まとう水渦の裂断〉]のほうは……[無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル攻撃系複合下級風兼水魔法。発動者の近くに水の渦を三つ出現させ(一段階)、複数の敵に飛来し切り裂く(二段階)。二段階の魔法操作が可能。無詠唱でのみ発動する]。……ふむ、思ったよりも複雑な魔法になりましたね」
表情を引き締め、二つのスキルのほうの説明文も読み上げていく。
「[《複合属性魔法操作》]は、[魔法操作の一つで、複数の属性を合わせ、一つの複合属性魔法にする。スキルの熟練度にともない、合わせられる属性の数が増加する。現在は二つの属性の複合魔法が発動可能。能動型スキル]。なるほど、このスキルによって風と水の魔法を複合させることができたのですね。
[《二段階属性魔法操作》]のほうは……[魔法操作の一つで、属性魔法発動時に二段階までの段階操作をする。一段階にあたる出現させた魔法の待機時間、および二段階にあたる魔法動作への干渉を可能とする。能動型スキル]ですか……」
しばし脳内で内容を整理する。
つまるところ、オリジナル魔法の風兼水の複合魔法は、水の渦を出現させた段階でその場にしばらく留めておくこともでき、その後敵へと飛ばす段階では魔法の軌道などに干渉できる、という認識にいたった。
予想以上に便利で素晴らしい魔法とスキルを手にすることができ、口元に自然と笑みがうかぶ。
やはり、魔法を習得することは、その過程も結果もとても楽しい。
まさしく心揺さぶる体験に、引き続き没頭しよう!