百三十一話 幕間十二 これだから無自覚系は……!
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
(幕間八のプレイヤーさんです)
【シードリアテイル】でガッツリ生産職、もとい錬金術師としての腕を磨いて過ごして、五日目。
初日からのんびりとは言え、ポーションをつくりつづけていた結果、さまざまな技術と言う名のスキルだの魔法だのを手に入れ、すっかり満足していた矢先――まさかの光景を目にすることになろうとは。
「いや、いくらなんでも凄すぎるだろ」
目の前の光景に、うっかり真顔のまま口から言葉が出た。
何か珍しい素材でもないかと、散策してたどり着いた里の入り口の後ろの森で、遠目に例の人を見つけたまでは……まぁ、わりとよくあることだ。
――問題は、川の淵に腰かけた例の人が、明らかに《同調魔力操作》を使って魚を獲ったこと。
「や~~っぱり、あのポーションつくったのあの人かよ……!」
小声で叫び、軽く頭を抱える。
錬金術師として高い技術を持つ証らしい、スキル《同調魔力操作》。
三日目には、俺もそれを習得していたわけだが……。
思い出すのは、三日目の終わりが近づいていた時間にアードさんの店で見た、別のプレイヤーがつくったポーション。
俺がつくったオリジナルポーションの横に並んでいたそれを、たしかにその時もまぁ思いつくのは例の人だよなぁ、なんて思ってはいたが!
器用に精霊たちまで同調させて動かしているあの操作感は、どう見ても同調を使い慣れているからこその動きだろ!?
――つまり例の人は、俺と同じくあのオリジナルポーションをつくったあたりで、すでに《同調魔力操作》も習得してたってことだ!!
「《同調魔力操作》って、かなり真面目にポーション製作の数をこなさないと、まず習得できないもののはずだぞ……それを、生産職メインの俺とほぼ同時に習得するって、なにやったらそうなる」
不意打ちをくらったような感覚に、は~~と盛大なため息を吐き、やれやれと首を振ることで衝撃をやわらげる。
はっきり言って、ここまで近い技術をすでにあちらが手にしていたとは、予想外もいいところだ。
そもそも、生産職メインで活動しているプレイヤーと、その他のことも楽しんでいるプレイヤーが、同じ技量を持てるはずがないってのは、どのゲームでもお約束だと思っていたわけだが。
――どうやら、この自由度の高い【シードリアテイル】の中では、そのお約束もお約束ではなくなるらしい。
よくよく考えてみると、たしかにプレイヤー個々人が持つ本来の技量の違いや、それを補助して余りあるスキルや魔法の習得によっては、今回のような事例も十分あり得る。
例の人がちょっとどころでなく、なんだか色々と凄そうってのは、なにも今にはじまった解釈なわけでもない。
つまりこれは、自由度の高さが示した、可能性の体現ってやつだ。
それ自体は、とんでもなく素晴らしいことだ。
……だからって、よりにもよって俺と例の人との間で実現しなくてもいいとは思うけどな!?
一応俺にも、錬金術師なアードさんのシードリアの一番弟子っていう、大事な立場があるんだが!
「これだから、無自覚系は……!」
若干のやるせなさを言葉で消化し、遠くの前方をジトっと見つめる。
断じて、言うほど不服なわけではない。
むしろ例の人自体は、正直軽く尊敬さえしているくらいだ。
いくら天性の技量があって、スキルや魔法に恵まれたとしても、努力なしに習得できるほど《同調魔力操作》は簡単に手に入るスキルではない。
それを習得できているということは、たとえ短い時間の中でも例の人が最大限努力したって証拠だからな。
そこは素直に、その努力を凄いと思って良い部分だ。
……ただ、無自覚系先駆者が持つ天性の感や運や技量は、ちょいとゲーム慣れしているだけのただの生産職好きまったりプレイヤーが張り合うには、荷が重いのも事実。
そこは、はっきり言うと悔しいものがある。
まぁ、だからと言って、大人しく立場を明け渡す気も、このままあっさりと追い抜かれるつもりも、今はまだないけどな~。
のんびり遊んでいたって、時間と量のアドバンテージは、生産職メインのこっちにあるのは違いないわけだから。
もう一度やれやれと軽く首を振ると、ふわふわとした動きで水と風と土の下級精霊たちが目の前に移動してきた。
『しーどりあ、だいじょうぶ?』
『つかれた?』
『かた、とんとんする?』
幼さの中に心配を含んだ声が上がり、素直に驚く。
今までは見たことがなかった反応だ。
とりあえず心配は必要ないと、三色に光る精霊たちへ、首を横に振ってみせる。
「んや、大丈夫だ。心配させて悪かったな」
『ううん! いいの~!』
『しーどりあ、げんき!』
『げんき、よかった~!』
「あぁ、元気なのは間違いないから、安心してくれ」
『わ~い!!!』
「ははっ! あんたたちのほうが元気だな。いいことだ」
『えへへ~!!!』
俺の倍以上は元気そうな無邪気な声が、周囲に響くのにつられて笑う。
普段通りの精霊たちが、今までとは違う反応をした……つまり、これは変化であり、成長とも言えるかもしれない。
いつもポーション製作後、俺が自分で肩を叩いていたのを見て、疲れるとそういう行為をするってことを学んだってことか?
思わず、遠くの前方に視線を投げる。
精霊たちにも成長があるという知識を、精霊の先駆者な例の人は知っているのか――無性に気になったが、余計でぶしつけな探究は身を滅ぼすので止めておくとしよう。
「さ、素材探しをつづけるとするかぁ」
『お~!!!』
例の人から学んだ方法で仲良くなった精霊たちは、すっかり俺にとっても相棒みたいな存在だ。
素材の場所も教えてくれるから、かなり助かっている。
――それはそれとして、もしこの精霊たちと仲良くなる知識さえも、無自覚で得たものだとすると……やはり例の人は、とんでもない人物な気がするわけだが。
「……言わぬが花、ってな」
小さく口の中で転がした言葉に、我ながら全力で納得した。
※明日は、
・五日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!