百二十七話 幕間十一 やさしい手のあたたかな人
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
あたらしい没入ゲームが、とてもたのしいって、だいすきな動画をつくる人が言ってたから。
だから、どうしても気になって。
没入ゲームははじめてだけど――【シードリアテイル】を、はじめてみたいって、思ったの。
きれいな女神さまのおはなしをききながら、わたしのゲームでの姿をきめる。
プラネタリウムを見るときみたいに、たのしいじかん。
だいすきな白色の髪、だいすきなうすい水色の目。お耳のながい、エルフさん!
先生みたいにやさしい、女神さまにみおくってもらって、ゲームの世界にこんにちは!
「わ、あ……!」
ほんとうの、お外にいるみたい!
お空の青色の光、木のかおり、さわさわの風、土のじめん……ぜんぶぜんぶ、ほんものみたいで、びっくり!
ゲームの世界なのに、あるけて、うごけるの、ふしぎ。
お日さまとは違うのに、お空の光はぽかぽかあたたかくて、こういう日には日向ぼっこと、お昼寝をするといいっておはなしを、思いだした。
とってもおおきな木をみあげてみたら、葉っぱの緑と、きらきらの青色の光のかけらがきれい。ちょっと、まぶしかったけど。
ぴかぴかの、ホタルみたいなせいれいさんたちも、きれいでかわいい。
エルフのさと? は、蔓のお家がいっぱいで、どうやってつくってるのかなって、ちょっときになる。
さとのなかの、土と葉っぱのかおりはすき。それに、ここに住んでるエルフの人たちも、きれいで、やさしくわたしを見てくれて、すぐにすきになった。
でも、土のじめんはでこぼこで、歩くのがちょっとたいへん……。
「っ」
つまずいて、ぺたんってじめんに顔とおなかがくっつく。
ころんだ……いたくないけど、びっくりして、体がかたまる。
すぐちかくで土がうごく音がして、だれかがきてくれたんだって、すぐにわかった。
じめんにたおれたまま、かおをあげてみあげてみる。
うすい緑色の布と、きれいな手――お日さまの光をせおった、きれいなエルフさんがいた。
心配そうな緑の目が、わたしの目を見る。そのあと、すぐに安心させるようなあたたかい笑顔になった。
「大丈夫ですか?」
やさしくて、ぽかぽかの、やわらかい男の人の声。
あわてて、つまりながらだいじょうぶってかえす。
きれいなエルフのおにいさんは、安心したような顔をして、
「立てますか? どうぞ、つかまってください」
やさしく、そう言ってくれた。
ちょっとおどろいたけど、でもありがとうっておへんじをして、きれいなやさしい手に、わたしの手をのせる。
それを、ゆっくりとひいて、おにいさんはわたしを立たせてくれた。
ころんだときも、いたくなくてふしぎだったけど、ころんだのにどこにもケガがなくて、やっぱりふしぎ。
まだみまもってくれてる、立たせてくれた背のたかいおにいさんを、ゆっくりみあげる。
――お礼を、つたえないと。
目があったおにいさんは、またやさしく笑いかけてくれた。
「お怪我がなくてなによりです。この土道ははっきりとした感覚がありますから、どうぞお気をつけて」
物語の、ほんものの王子さまみたいにすてきで、びっくりしたけど、でもお礼がさき。
いっぱい頭を下げて、ありがとうをつたえる。
わたしのお礼に、
「えぇ。――それでは」
って、あたたかい声でそう言って、ふわって小さく笑ったおにいさんは、すごくきれいだった。
ながい、金色なのに白色になっていく髪がゆれて、おにいさんはわたしのうしろに歩いていく。
ちょっとだけふりかえっておにいさんを見てから、わたしももう一回歩いてみる。
もう、つまずかずに歩けた。
これはきっと……お日さまみたいにやさしくてあたたかい、あの人のおかげだって思うの。
※明日は、
・五日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!