百二十三話 どうやら一緒に強くなるらしい
何度目かの元気な岩の魔物との戦闘後。
カバンに石と魔石を入れてから、ふむ、と片手を口元にそえる。
「今までの戦闘では、明確な違いを確認できませんでしたが……もしかすると、レベルが上がると魔法の強さも一緒に上がっているのでしょうか……」
今に至るまですっかり失念していたのだが、多くのゲームではプレイヤーのレベルと、魔法の強さは共に上がっていくものだ。
この【シードリアテイル】では、魔法はしっかりと下級魔法、中級魔法などと区分されている。そのため、新しい魔法だからと言って過去の下級魔法と最新の下級魔法の威力が、大幅に異なるということはないはず。
岩の魔物の強さがどのていどであるのかは分からないが、石杭と雷光の二種類の魔法のみで問題なく倒せていることを考えると、やはりレベル二十を超えたことで魔法の威力は総合的に上がっているのではないかと思う。
もちろん、石杭の魔法や雷光の一閃の威力が元から高い設定で習得できているような場合や、岩の魔物が特別苦手とする属性魔法だった場合も考えられるけれども。
個人的な感覚と既存の知識にそうならば、やはり魔法もレベルと共に強くなっている気がする。
つらつらと考え込んでいると、ふわふわと眼前に光が煌いた。
『まほう、ぼくたちといっしょ!』
『しーどりあといっしょに、つよくなるよ!』
『つよくなるよ~!』
そう、目の前に来てくれた精霊のみなさんが言うのであれば、間違いはない。
予想通り、私のレベルが上がると共に、実は手持ちの魔法の強さも上がっていっていたということだ。
なるほど、とみなさんの言葉に微笑みとうなずきを返す。
――ところで、何気にとんでもない発言が並んでいた気がする。
「やはり魔法は私と一緒に強くなるのですね。それと……みなさんも?」
『うんっ!!! つよくなる~~!!!』
「なんと……」
嬉しげな声音に、ぱちぱちと緑の瞳を驚きにまたたく。
魔法やスキルなどが、レベルと共に強くなって行くということは他のゲームにもよくあることで、そう悩ましくもなく理解できることなのだが、精霊のみなさんとなると少々驚きがまさる。
たしかに、いわゆる魔物使いが使役する魔物などの強さが、魔物使いと共に上がっていく、と表現をするのであれば想像は難しくない。
しかし、精霊使いの使役する精霊の強さが、精霊使いと共に上がっていくと言われると……これはあくまで個人的なイメージの問題ではあるが、あまり想像ができなかった。
とは言え、精霊のみなさんが私と共に強くなることを想像できないかと言われると、そうではない。
改めて言われてみると――実際に今までも、薄々変化を感じことは幾度かあったのだ。
特に変化を感じたのは、やはりスキル《精霊親交》を習得してからの、みなさんの言動の積極性だろうか。
比較的長く言葉を紡いでくれるようになったこと、可愛らしく親近感のある行動が増えたこと……どちらも、それ以前とはやはり違って見えた。
つまりこれらの変化が、精霊のみなさんにとっての強さに繋がっていく、ということなのではないだろうか?
次にぱちりとまたたいた緑の瞳は、煌いて見えたことだろう。
「それは、とても頼もしいです!」
思わず満面の笑顔で、声音を弾ませてそう紡ぐ。
『しーどりあ、うれしい?』
『ぼくたちがつよくなるの、すき?』
『たのもしい?』
ふわふわとゆれながら、そう問いかける三色のみなさんに、深くうなずき言葉を返す。
――まぎれもない、私の本心からの言葉を。
「えぇ! それはもう! 私はこの先の長い長い冒険の日々も、今日と同じようにみなさんとご一緒したいと思っておりますから。一緒に強くなっていくことができるのであれば、それはとても嬉しいことです!」
サービス開始初日に出逢い、今日までまだたったの五日間の付き合い。
それでも、私にとって精霊のみなさんは、かけがえのない旅路のパートナーだと思っている。
この特別な友情は、必ずこの先も大切にしたいと思えるもの。
だからこそ、共に強くなるということは、まさに望外の状況だ。
私の伝えた言葉に、精霊のみなさんはいっそう元気に動きはじめる。
『わぁ~! ぼくたちも~!』
『つよくなって、いっしょにたたかう!』
『しーどりあと、いっしょにつよくなる!』
そう、ひゅんひゅんと動きながら声音を弾ませるみなさんに、自然と頬がゆるんだ。
「はい! 一緒に強くなって行きましょう」
『わ~~い!!!』
私自身の願いでもある肯定を返すと、ぱっとそれぞれの灯す光を強く輝かせ、暗い空洞内を明るく照らす。
歓声を響かせる精霊のみなさんに、同じ嬉しさで微笑みを注ぐ。
精霊のみなさんが、私と共に強くなっていくという事実は、本当にとても嬉しく頼もしい。
きっとこれから先、多くの素敵な変化を見せてもらえることだろう。
思わぬ素晴らしい事実を知ることができて、素直に嬉しく思う。
魔法についても、どうやら私が想像していた以上に、強さを上げる簡単な方法が見つかったのは喜ばしい。
熟練度を上げるといった部分は、やはり反復した使用や練習が必要だと思うが、強さを磨きたいのであれば、単純に自らのレベルを上げていけばいいと分かったのだから。
「これは――今まで以上に、土地の加護に感謝を捧げたい気分ですね」
『かんしゃ~~!!!』
そっと紡いだ呟きに、三色のみなさんが声を上げる。
レベルを上げるという点において、このはじまりの地ほどふさわしい加護を授かっている場所はないことだろう。
そしておそらく、精霊のみなさんと親しくなるという点においても、現在解放されているフィールド上では、この里以上の場所があるとは思えない。
――やはりこの地ですごすことを選んだのは、間違いではなかったようだ。