百十四話 とある神様の贈り物
魅力的な新しい魔法を習得し、満足感あふれる胸中で天神様へと感謝を捧げる。
天神様への《祈り》の後は、魔神様のお祈り部屋で、こちらは普通にお祈りをおこなう。
しばらくのほほんと感謝を捧げていると、唐突にしゃらんと美しい音が鳴った。
「おや?」
思わず疑問を零し、眼前に現れた文字を見る。
「……〈恩恵:夜の守り人〉?」
『おんけいだ~!!!』
そうっと静かに紡いだ呟きに、小さな三色の精霊さんたちの元気な声音が重なった。
――まさか、恩恵を授かるとは!
微笑みを固めながら、心の準備のためにゆっくりと灰色の石盤を開き、刻まれていく説明文がすべて書き上がるまで待ってから、読み上げる。
「ええっと……[恩恵により発動する、永続型の補助系闇魔法。とある神の力で、夜の時間帯で使用するすべての魔法の効能が少し向上する。恩恵は他動的に発動するため、発動の制御は不可能]……」
……またとんでもなく素晴らしすぎる恩恵を、いただいてしまった!!
そっと、片手を額に当てる。
とある、と書かれてはいるが、その恩恵の名前から考えられる神様は、今まさにこうして《祈り》を捧げているかたくらいしか、思いつかない。
夜の時間帯で使うすべての魔法の効能を、少しとは言え上げるという内容も驚愕の一言だ。闇魔法だけ、というわけではなく、すべての魔法と言う点が、特にすさまじい。
ただ、恩恵の内容に驚愕する一方で、反射的にあのスライムもどきとの戦闘も頭をよぎった。
うっかり、もう少し早く欲しかった……という思いがうかび、慌てて頭を振る。
それはさすがに不敬だ。とある神様に、失礼いたしましたと深く謝罪の念をおくる。
盛大に反省しつつ、そう言えば今がまさに夜の時間だということに思い至った。
これは、お試しをしなさいというお告げかもしれない!?
丁寧に感謝を捧げてから《祈り》を切り上げ、急いでお祈り部屋の扉を開く。
見やった神殿の入り口は、すでに薄青の光が注ぐ夜明けの時間を示していた。
夜と朝の間にあたる夜明けの時間は……果たして、夜の時間帯に含まれるのか、否か。
――ひとまず、恩恵のお試しも兼ねて、新しく習得した魔法の練習をしに行こう!
すでにお仕事をはじめていた神官のみなさんにあいさつをしてから、美しい薄青の光が広がる神殿の外へと出ると、まっすぐその後ろ側へと歩みを進める。
お気に入りの神殿裏へたどり着くと、周囲に人がいないことを確認し、いざ練習開始!
念のため樹々に影響が出ないように、拓けた場所を選び、まずは〈オリジナル:吹雪き舞う凍結の細氷〉を発動。
無事に〈恩恵:夜の守り人〉の発動を確認しつつ、ビュオウ――と吹雪いた煌く細氷が、小範囲型の倍の範囲を冷ややかに舞い撫でて消えるのを見送る。
魔法の範囲はざっと、大人六人分が並ぶ幅を直径にした円形の範囲くらいだろうか?
魔法の種類によって、実際にはもう少し幅があるとは思うが、細氷の魔法ではだいたいこの範囲のようだ。
小範囲型の魔法と比較すると、確実に一段階上の範囲攻撃に、自然と口元が笑みを形作る。
恩恵がどれほど効能を上げてくれているか、現段階では確認することができないが……間違いなく魔法の威力は上がっているのだろうと、とある神様へ心の中で再度感謝の念を捧ぐ。
恩恵のありがたさだけではなく、新しい魔法自体もとても魅力的だ。
なにせこの風と氷の魔法だけで、敵を凍結させることができるのだから、本当にとても使いやすい魔法と言えるだろう。
初手で発動することで、真っ先に敵の動きを止めることもでき、魔法使いにとって有利な戦闘に持ち込むことも出来そうだ。
ついでに――習得している魔法の中で最も、夜明けの時間で使うと美しさが増す魔法であると、確信もした。
煌く細氷が薄青の木漏れ日を浴びて輝きを増す、あまりの美しさに見惚れながら、数回魔法を発動する。
幾度見てもあきそうにない美しさに、自然と頬がゆるんだ。
とは言え、他にも確認する魔法はあるため、このあたりで魔法の連発は止めておこう。
『きらきらだった!』
『きれいだった!』
『きらきらいいな~!』
肩と頭の上で、三色の精霊さんたちがぽよぽよと跳ねて声を上げるのに、微笑みを返す。
きらきらをうらやましがる小さな土の精霊さんの言葉で、細氷の魔法に土魔法を重ねるのも面白そうだと感じ、左肩の小さな姿を指先で撫でる。
そわっとした風と水の精霊さんたちも順に撫でて、こちらも癒されていると、周囲の明るさがまたたく間に移り変わった。
――夜明けの時間から、朝になったのだ。
降り注ぐ木漏れ日の眩さも変わり、そっと緑の瞳をやわらかに細める。
さわやかなそよ風が吹き抜ける中、次いでもう一つの魔法の試し撃ちをおこなう。
〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉を発動すると、鮮やかな紫色の雷光が、本当に素早く前方で閃くのを見届ける。
こちらのほうは、正直なところ実際に戦闘で使ってみるまでは、その威力自体を把握することは難しいと感じた。
その分、風の魔法よりも素早く、まさに刹那の時間で攻撃をおこなうことができる点は、とても心強い。
この魔法ならば、先の二段水まんじゅうなスライムもどきにも、しっかりと当たる有効な一撃となってくれることだろう。
さらにつけ加えるのならば、雷魔法と水魔法、雷魔法と風魔法の相互作用にも、いまだ未知なる可能性が残っている。
これはまさしく、使ってからのお楽しみ、だ。
「――実戦が、楽しみになってきました」
『たたかうの、わくわく!』
『たのしみ~!』
『わくわく!』
口元の微笑みを深め、精霊のみなさんと高揚感を共有する。
夜の時間帯限定のありがたい恩恵が、夜明けの時間にも問題なく発動したことも嬉しい。これでまた一つ、夜明けの時間が夜の時間帯に含まれるという学びを得た。
何より――新しい二つの魔法が、想像していたものより、よほど美しい魔法として習得できたことが喜ばしい!
やはり、美しい魔法はロマンそのものなのだ!
弾む心はそのままに、そろそろログアウトをする時間になっていることを思い出す。
すっかり情報収集を忘れていた、あのレアモンスターらしきスライムもどきについては、この後のログイン時にクインさんの書庫に行って、新しい本が現れていないか探そう。
小さな三色の精霊さんたちへと向き直り、改めてまた少し空へ戻ることを伝えて各種魔法を消し、今回はこのまま巨樹の根本に腰かけ――穏やかにログアウトを紡いだ。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。