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【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
一章 はじまりの地は楽しい誘惑に満ちている
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百十二話 二段水まんじゅうと高速戦闘

※戦闘描写あり!

※飯テロ風味にご注意を!


 



 夕方から宵の口、そしてちょうど夜へと時間が移る頃には、瞬間加速をしながらの移動にも慣れることができた。

 ちょうど、リスさんとの追いかけっこの際になぞった、護りの崖から目醒めの地の後ろへと流れている川の、護りの崖よりにある場所で大地へ降り立つ。

 涼しげな水のせせらぎに耳をすませ、ふぅと吐息を零しながら、夜の水辺の癒しを楽しむ。

 きゃっきゃと笑い声を上げながら、川の上で遊ぶ小さな三色の精霊さんたちを眺めていると、ふいにスキル《存在感知》が何者かの来訪を知らせた。


「みなさん」


 静かに真剣な声音で呼びかけると、すぐに精霊のみなさんは肩と頭の上にぴたりとくっついてくれる。

 薄暗さの中、小川の向こう岸へと視線を向けると、徐々に気配が近づいてくるのが分かった。

 油断なく、いつでも回避行動が取れるように集中しながら、来訪者が茂みから現れるのを待つ。

 カサリ、とかすかに茂みがゆれ、ぴょんっと姿を現したのは――。


「スライム? いえ……」


 思わず零した呟きに、ぷるんと身体をゆらしたのは、人の頭ほどの大きさのスライムが二段重なったような姿の、見慣れない魔物。

 水まんじゅうのような半透明のその姿は、一段目は銀色、二段目は水色の二色の姿をしており、それだけでおそらくは風と水の属性を有していると察する。

 問題は……魔物図鑑には記録されていなかった魔物であるため、どのような動きをしてくるのか未知数だということ。

 分からないならば――先手必勝だ。

 ぷるん、ぷるんとゆれている姿を見据え、素早く〈オリジナル:風まとう氷柱の刺突〉を発動し、すぐさま二段階目に移行。

 冷ややかに飛来した五本の氷柱が、ぷるぷるとゆれる魔物へと向かい――刹那、驚くほどの速度で回避される。


「なっ」


 反射的に上げた驚愕の声を、半ばで無理やりとぎれさせ、〈瞬間加速 一〉で真横へ!

 地面にバシュンと勢いよくかかった水の攻撃を、回避することに成功する。

 樹の幹に身を隠し、魔物の様子をうかがう。

 まさか、それなりの速度で飛来する氷柱の攻撃をすべてかわし、刹那に水の刃を放ってくるとは……!

 予想外の強さに、自然と表情が引きしまる。

 小川の向こう側から、ぴょーんと跳ねてこちら側へと着地した姿を確認し、樹の陰から〈オリジナル:無音なる風の一閃〉を放つ。

 閃く銀線は、今度こそ避けようと動くぷるんとしたその身に当たったものの……かすり傷のような小さな銀線を刻むのみ。

 風の属性をその身に宿している魔物相手では、同じ風属性の魔法の威力は残念ながら高くはないらしい。

 ……流れ落ちることのないはずの冷や汗が、背を伝った気がした。


『しーどりあ!』

「ッ!」


 頭に乗る小さな風の精霊さんの声に、一瞬で眼前に迫ってきたスライムもどきを目視し、とっさに瞬間加速を駆使して地を蹴る。

 横に並ぶ樹々の陰をぬい、〈瞬間加速 一〉の切れ目で風の一閃を放つ。

 一応の攻撃と、追いすがるスライムもどきへの足止めにはなるはずだ。

 純粋な風魔法ならば、あのスライムもどきの移動速度にも、かろうじて対応できるのは間違いない。

 ただ、有効打にはほど遠く、かといって水属性の敵には相性が良いであろう氷魔法は、初手で回避されてしまっている。

 必殺の一撃である星魔法を使おうにも、思い出す限りでは頭上から落ちるあの速度が、風魔法ほどには速くないように思えて、どうしたものかと思考が絡む。

 唯一さいわいな点は、複数の魔法をこれだけ頻回に発動しても、魔力ゲージはすぐに全回復している点だ。

 効能の上がった自然魔力回復に感謝しつつ、樹々の間を隠れながらスライムもどきを引き離し、風の一閃を当てる戦法をひとまずはつづける。

 当然――このような拮抗状態は、そう長くつづくものではない。

 この暗い夜の時間で、素早い速度に対応できているのは、おそらくはスキル《夜戦慣れ》のおかげ。しかしどれほど夜の闇の中を見通せても……戦闘の速度は別問題だ。

 シュバッと勢いよく放たれる水刃をすんでのところで回避し、攻撃兼足止めにと詠唱を叫ぶ。


「〈ラ・シルフィ・リュタ〉!」


 パッと出現した小さな風の精霊さんたちが、次々と鋭い風圧をスライムもどきへと飛ばす。

 その間に、両脚の風の付与魔法にかけていた隠蔽を解き、攻撃魔法のほうにかけられるように準備をする。

 リスさんとならばまだしも、魔物との追いかけっこで、逃げる側をいつまでもつづけていたいとは思わない。

 ――隙の作り方を思いついた以上、試してみる価値はあるだろう。

 覚悟を決め、拓けた場所で意図的にスライムもどきを見据えて足を止め。

 す、と息を吸い、それを祈るように詠唱へとかえる。


「〈ラ・フィ・ラピスリュタ〉!」


 瞬間、〈恩恵:ラ・フィ・ユース〉の発動と共に、パッと出現した小さな土と風の精霊さんたちが、スライムもどきめがけて幾つもの鋭い石を風圧で射出。

 さながら小石の銃弾と化した攻撃の素早さと威力はすさまじく、見事スライムもどきを幾度も撃つ。

 ――ここが、好機!!

 さっと振るった右手で手飾りがゆれ、隠蔽して放った風をまとう氷柱が、ようやく敵に届いた!

 キィン――と冷ややかな音を立て、スライムもどきの二段の身体の内、下の水色に色付く半身が凍りつく。

 水属性に氷属性が触れると、こうして凍結するのは、すでに幾度となく見てきた現象。

 この時を、ずっと狙っていたかいもあったというものだ!

 すっと伸ばした左手の指で、青い指輪が煌く。

 刹那、指輪に一時付与していた〈オリジナル:降り落ちし鋭き氷柱の付与〉が発動し、回避の出来ないスライムもどきの頭上へと、大きく鋭い氷柱が一つ、冷酷に降り落ち刺し貫いた。

 一拍の、沈黙ののち。

 ぶわっと巻き上がった銀と水色の旋風と、リンゴーンと鳴る鐘の音が、勝利とレベルアップを明確に知らせてくれた。

 瞬間、歓喜が湧き上がる。


「倒せました! 勝てましたよみなさん!!」

『かてた~~!!』

『やった~~!!』

『わ~~い!!』


 夜の森に、三色の精霊さんたちと私の歓声が明るく響く。

 偶然にも遭遇した、驚くほど素早い動きと強さをもつ二段水まんじゅうとの戦闘は――なかなか刺激的だった。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  バトルシーンの描写です。攻撃魔法のスピード感が目に浮かぶようです。 [一言]  手に汗を握るバトルシーン!  脳内変換で高速な水まんじゅうが映像化! バシュバシュ動いた水まんじゅうアイス…
[良い点] 突如エンカウントする感じが、冒険しているのだと言う事を思い出させてくれますね♪ 危なげなく勝利出来て良かったです〜✨ そして水まんじゅうが食べたくなりましたw←
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