表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
一章 はじまりの地は楽しい誘惑に満ちている
107/433

百六話 幕間八 攻略系かのんびり系かそれが問題な例の人

※主人公とは別のプレイヤーの視点です。


 



【シードリアテイル】三日目。

 多くのプレイヤーが、順調にパルの街に移っている中で、意図的に里に残るプレイヤーの一人として、俺も里に残っている。


 没入ゲームはかなりの数遊んできて、中でも生産系ののんびりとした遊び方を好んでいた俺にとって、この【シードリアテイル】はなかなかに興味深い新作ゲームだった。

 裁縫、細工、鍛冶、錬金に、料理、大工などなど……。

 お馴染みからお馴染みではないものまで、さまざまな生産系の技術が習得できるらしいと公式情報に載っていては――遊んでみるしかない、というやつだ。

 実際にゲームがはじまってからは、最初こそ五感の感覚に驚いて、他のプレイヤーの移動する波にのってしまったが、訓練場で魔法を覚えたあたりで無事に我に返った。

 一応前々からの癖で、マッピングもどきな感覚のまま里を一周したりもしたが、俺の本命はあくまでいわゆる生産職。

 服や靴、装飾品や武器、それにポーションの店をまわり、ひとまず一番興味が湧いた錬金術を、【シードリアテイル】では極めていくことに決めた。

 錬金術師のアードさんに基礎的な技術とかを教えてもらった後は、ポーションづくりに必要な器具を借りて、製作が失敗しないらしいと語り板で噂になっていた、神殿の技神様――技術面全般をつかさどる神様の祈りの間で、ポーションの製作に明け暮れたりしていたわけで。

 三日目には、一般的な下級ポーションよりも効能の高い、自分特製のポーションなんてものも作れて、内心では喜んでいたわけだが……。


「いや、マジか」


 うっかり、心の声が飛び出た。

 三日目も残り少ない時間帯になってきた頃。

 アードさんの雑貨屋で見つけたのは、俺がつくったオリジナルポーションの横に並ぶ、別のプレイヤーがつくったポーション――って待て待て待て!

 間違いなく! このエルフの里では、俺が錬金術の先駆者だったはずだが!?

 この時点で俺と似たようなことができるって、いったいどこの誰だよ!?

 思わず引きつった口元を、アードさんが不思議そうに見ているのに気づき、咳払いでごまかす。

 ……正直、予想はついている。

 なにせ、これだけの技術を身につけることができ、かつ今のこの里の中で残っているプレイヤー自体が、そもそもかなり希少である以上……考えられるのは。


「例の人、だよなぁ……」


 小さく口の中で呟きを転がす。

【シードリアテイル】開始初日から、精霊と仲良くなる方法を見つけ出した先駆者で、今話題のオリジナル魔法をすでに習得しているらしき、どう考えても攻略系くらい情報を知っているだろう、例の人。

 エルフの世迷言板で、一度話題に出せばしばらくは会話がつづく上、一般的ではない情報と知識が飛び交うことになる、たぶんエルフのプレイヤーの中で一番の有名人な――ロストシードさん。

 棚にあるポーションを見て、アードさんの読みやすい字で[アースビーの蜜で甘さを加えた、飲みやすいポーション]って書かれた説明書きを視線でなぞり、確信する。

 ほぼ間違いなく、こういうものが作れるのは、あのやたらと綺麗で優雅で、さらっと三体も下級精霊を連れている例の人で、確定だろう。

 ――っていやいや、なんでだよ!?

 反射的に、もう一度脳内でツッコミを入れる。

 さすがに今回は、比較的いろいろと予想できるほうだと自負している俺でさえ、意味が分からない。

 当初は絶対に先駆者で、攻略系に近いプレイヤーだと思っていたのに、いつの間にか生産系のんびりプレイヤーになっているなんて、誰が信じるんだそんなの。

 ……というかなんで、これがれっきとした事実なんだ、例の人ぉ!


 ついさきほど、アードさんのこの店に来るまでに見かけた、例の人の姿を思い出す。

 ――普通に、服とか靴とかをまったり選びながら、買い物してた。

 あれはどう見ても、ただただ買い物を楽しんでいる客の顔だった。

 アレを見てしまうと、生産系のんびりプレイヤーになっていたとしても、不思議ではないと思えてしまうから、なんというか……。

 いや、だがしかし!

 どう考えても、魔法はおかしな強さだったが!?

 この目で見ておいて、今さらやっぱり違ったか――なんて言えるわけないだろ!?

 この前世迷言板で俺から話題に出したばかりだっての!!

 はぁ~~と深いため息が口からもれ出る。

 けどなぁ……この新作ポーションを作るのだって、しっかり努力しないと得られない技術なわけで。

 身をもって知っているだけに、例の人の技術力の高さは絶対に否定できない。

 あ~、これはあまりのんびりしてたら、先越される可能性があるな?

 ――ま、俺だって簡単に追い越される気はないんだが。


「アードさん、また器具を借りてもいいかい?」

『あぁ、かまわない』


 振り向きたずねると、少しだけ俺のと似た色の目を細めて、アードさんは小さくうなずいた。

 んじゃ、今日もしっかり技術の向上を目指すとしますかね~。

 それにしても、結論――やっぱり謎だな、例の人。




※明日は、

・四日目のはじまりのお話

を投稿します。

引き続き、お楽しみください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あの先にポーションを店頭に並べておられた方…!ロストシードさん本当にマイペース過ぎて、周りの方々を面白いくらいに翻弄していますね( *´艸`) 自分の好きな事を心から楽しんでいるからこそ、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ