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蝶々姫シリーズ

【セオドラ誕生日記念】詩ごころのプロポーズ

作者: 薄氷恋

2023/03/03 セオドラ誕生日記念作品書き下ろし



一つ歳上のアーキア・モルガン・セトスと私、セオドラ・エル・グランデル・カテュリアは生まれた時から婚約者だった。


彼女に初めて会ったのは5歳の時だったと記憶している。


黒髪を長く伸ばした、紫水晶の瞳を持つセトス公爵令嬢に、私は一目で恋に落ちた。


情けない話だが当時から私は自分に自信などまるで無く、面白い話題を振れたかどうかも解らなかった。

ただ、詩が好きだと熱弁したのは覚えている。

私が即興で作ったアーキアの為の初めての詩を彼女が熱心に聞いてくれたのも。


「詩人な王子様、わたくしは貴方の詩が好きよ」


と、アーキアに言われ、天にも上る心地だった。

その後、彼女とは文通を始めた。

私は近況とともに詩を贈り、時にはアーキアから返歌がついてくる事もあった。


『暁は蒼穹と黄昏に恋焦がれん』


最初は空が好きなのかな、とその返歌を見て首を傾げたものだ。

しかし、すぐに気が付いた。

私の瞳は蒼だ。髪は金色。

そして夜明けの紫はアーキアの瞳。

アーキアが私の事を恋焦がれてくれている???

そう思った途端に、私はまた昇天しそうになった。

うっかり鼻血まで吹く私を父王が、しっかりしなさい、と叱るのもいつもの事だ。


幼い内はアーキアとは時々茶会で会うだけだった。

茶会の日が近付くと私は胸がいっぱいで寝付けなくなる。

そして毎度、茶会でお茶を飲んでいる内に眠くなってしまうのだ。

うとうとする私をアーキアは最初の内は黙認してくれたが、10歳の茶会の時に遂に彼女の怒りは爆発した。


「セオドラ殿下! わたくしは居眠りなさる程、つまらない女ですの!?」


紫水晶の瞳に涙を浮かべ、頬を真っ赤にしたアーキアに、泡を喰った私はしどろもどろで弁解する。


「違うんだ、アーキア嬢! 私は貴女と会えるのが楽しみで仕方なくて、茶会が近付くと待ちきれなくて毎晩眠れないんだ! その……居眠りしてしまうのは悪いと思っています。でも解ってくださらないか! 私は貴方の事が好きで好きでたまらなくて、本当なら毎日でも逢いたいのだと!」


「え……。本当ですの?」


アーキアは大きな瞳に涙を浮かべたまま、別の意味で真っ赤になった。

次いで椅子から立ち、長椅子に座ると彼女はぽんぽんと自分の膝を叩いた。


「え?」


目を丸くする私に、アーキアが耳まで真っ赤に染めながら言い放つ。


「わたくし、今日だけ膝枕して差し上げますわ。ここでお休みになって! でも今日だけですのよ! 今日以降、お茶会で居眠りなさったら、セオドラ様の元にお嫁には行かないんだから! わたくしはその時は修道院に入りますからね!」


「しゅ、修道院になんて行かないで!

私には貴女しかいない!

わ、私の妻になってください!」


奇しくもこれが求婚の言葉になったらしい。

アーキアは大きな紫水晶、いや、非常に稀有だと言われる紫色のモルガナイトを思わせる瞳を更にまん丸にして小さく頷くと、私の頭をとさり、とドレスの膝に押し付けて。

「今のお言葉、もう一度仰ってくださいませんか」と、何度も耳元で囁くのだから──。

──私は全く眠れずに淑女の膝の上に頭を乗せたままで求婚の言葉を繰り返したのだった。


─────


「何を考えていらしたの? セオドラ」


婚礼の宴の最中に回想していたようだ。

隣に座り扇で口元を隠して笑みを浮かべるアーキアに、私は照れ臭く笑う。

その扇は私が婚礼に際して贈った白蝶貝とレース、それからルクラァンでよくみられるゾウの木の枝を使った『夫から妻へ』と贈るとされる伝統的な扇。


「きみにプロポーズした6年前を思い出したんだよ。あの時、従者達は気を利かせて2人きりにしてくれたけど、未婚の子供が長椅子に座った事を咎められないかと、どきどきしていたんだよ」


アーキアは扇を見ている私に気付いて私の耳飾りの辺りに視線を遣る。

今、私の耳朶にはアーキアから贈られた紫黄水晶(しおうすいしょう)の耳飾りが下がっている。

紫黄水晶とは──偶然の産物の宝石の事で、不思議な事に紫と黄色の両方の色を持つ。

私とアーキアが結ばれたこの日に、まるで私達は元は一つの存在だと主張するような石が彼女から贈られたのは──運命だろうか。


「今夜からは長椅子も寝台も解禁ですわ、セオドラ」


ニコリと笑うアーキア。

ほのかに漂う色香に私は真っ赤になっているだろう。

困ったな、私はどうも彼女に勝てそうにない。

今日からは二人で一つだ。

貴女と私は紫黄水晶。

紫水晶(あかつき)だけでもなく、黄水晶(たそがれ)だけでもない。

紫と金色の、アメトリン。

◆セオドラからの贈り物補足

アーキアが持つ扇子はフランスでかつて流行った贈り物です。マザーオブパールと花柄のボビンレース、象牙で出来ています。

大きくて重いらしい(笑)

この世界には象牙は無いので、代わりに象牙に似た素材で、ルクラァンによく生えているゾウの木(創作物です)の枝を使いました。


◆アーキアからの贈り物補足

紫水晶(アメジスト)は加熱処理すると、黄水晶シトリンになるのだそうです。

紫黄水晶(アメトリン)は、アメジストとシトリンの2つの性質を持っています。

紫の瞳のアーキアと、金髪のセオドラにぴったりだと思って採用しました。


◆蛇足

長椅子は未婚の男女が共に座ってはいけない場所でした。ほら、ベッドみたいだからあーんなことやこーんなことも出来ますでしょ?(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 詩人セオドラ様も感嘆するアーキア様の詩のお返し素敵♬♪ 現代では直接的な態度・言葉が喜ばれ、例えや駆け引きは無駄扱いされますよね〜。 奥ゆかしいのに情熱的で間接的にも直接的にも焦がれる様子…
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