・4・学習院武官室:会談
「で、どうなんだ?君の感覚ではどうだね?」
「向こう三年は大丈夫でしょう。けれどその後はわかりません。先程お話したときには、虚像を演じるしかないことを認めておられたように思います。」
「つまり、三年後には精神が壊れるかもしれない、ということだな。」
「ええ。殿下の精神強度から予測すればそのくらいです。」
さて、このたぬきじじいはどう来るか。
「三年か。予想以上に短いな。それでは即位させることも難しいのではないか。」
「いや、即位は可能でしょう。殿下は異常なほどに自己犠牲の精神が強いお方です。壊れても臣下の前では演じることをやめないでしょう。内務三職と、大林近衛師団長、赤坂枢密院議長が健在なら問題はないかと。」
この答え次第で内府がまだ殿下を皇位につけるつもりかどうか分かるけど。
「なるほど。では暫く殿下については特に動く必要はないということだな」
「いえ、問題はその後です。おそらく殿下の精神が壊れた時、一番に消えるのは情緒でしょう。その場合、情緒によって抑えられていた原稿体制の不満が、理性の暴走で一気に吹き出す可能性があります」
「この国の構造的欠陥や、非効率を伝統への配慮をなくし、遠慮なく壊しはじめる、ということか。」
「ええ。殿下は元来効率を非常に重視し、無駄をとにかく嫌います。しかし、伝統の多くは超自然的な事柄が理由となって制定されています。それを理性で理解することは難しいでしょう。そのために殿下の情緒を、人間としての殿下を守り抜く必要があります。」
「わざわざそこまでする必要があるか?限界までいったら、誰か適当な人間に皇位を譲ればいいじゃないか。実際、今上帝はそうやって天皇になった。」
やはりこいつは殿下を廃位するつもりだ・
「木戸内府。本気で言っておられますか?古来皇位は直径の男児に受け継がれるものです。その伝統を内府たるあなたが何故壊そうとするのです?」
「何度も言っているが私は内府ではない。別に壊したいわけではないさ。もちろん殿下が継げるのならそれで良い。それが一番だ」
「最近、木戸閣下を見ていると木戸幸一卿を思い出しますよ。」
「?どういうことだ。」
「今はよろしいでしょう。それより一つ提案があります。殿下の結婚相手をそろそろ探しませんか?いや、結婚じゃなくても良い。殿下を安定させられる女性、いや女性でなくとも良い。とにかく誰か殿下を癒せる存在がいなくては、我々の身も危険です。」
「無理やりあてがっても拒否するだろう。どうするつもりだ?」
「私の部下を一人専属でつけ、交友関係等を逐一報告させましょう。その結果を見て判断するというのはどうです?」
さて、どう来るか。内府に殿下を皇位につける気はもうない。なんと断ってくるか。
「わかった。両陛下には私から話を通す。よる遅くに失礼した。」
「また宮城でお会いしましょう」
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やっと帰ったか・・・。
「少将。そうやって今上帝も天皇になった、とはどういうことでしょうか。お聞かせ願いたい。やはり昭和69年の政変には大きな裏がある、ということですか?」
別に大した裏があるわけではないんだけどね。
「裏というほどでもないけどね。前帝が亡くなってすぐ皇太子も亡くなったから、議会、近衛系貴族、鷹司系貴族がそれぞれ別の王子を擁立して争いだして政変開始。そのあと木戸内府は仲裁に乗り出して、今上帝に決まった、っていうのは正しい筋書きだよ。問題は皇太子がなんで死んだのかっていうこと。」
「どういう意味ですか?」
「自殺だったんだよ。非常に個性的で多感な方だったから耐えられなかったんだろうね。」
木戸閣下は多分思い通り担ってほくそ笑んでただろうけどね。
「それだけですか?」
「中ノ宮。この政変で一番得をしたのは誰だと思う?」
「今上帝、ですか?」
「違う違う。木戸内府だよ。今上帝を皇位につけ、その後のプロパガンダを一手に握って内務三職の筆頭になった上、勢力争いをしていた典礼貴族の半分が消えたからね。木戸内府にとってこれ以上ないほどうまく言ったというわけ。しかも当時の役職は皇太子の侍従頭。
怪しいどころか、失脚したら間違いなく逮捕されるね。皇族暗殺の罪で。」
「木戸閣下の失脚は、考えにくいですが・・。今回も同じようなことを狙っているのでしょうか?」
「それはないんじゃないかな?今内府の障害になる人物はいないからね。そんなことをする意味がない。」
「けれど警戒を強める必要があるのは事実です。」
「たしかにね。けど今の宮城で木戸閣下と対立するのは愚かだよ。」
宮城から離れられれば良いのだけれど。明治帝とあんな契約を結ぶべきじゃなかったな。
「しかし、もし本当に木戸閣下が政変の黒幕だとしたら臣下がやっていい一線を超えています。許すべきではありません。」
大湊みたいなことを言い出したな。こんな男だったっけ?こいつ。
「どうした?中ノ宮。大湊みたいな事を言って。お前にそんな忠誠心があったのか?」
「忠誠の問題ではありません。人には分というものがあります。木戸閣下はその分を超えています。」
ああ、そうだ。こいつそういうやつだった。なんかオカルト的なものに以上にこだわる奴だった。そのへん、すんごくうるさいやつだった。
「たしかにそうだね。けどもう零時を回ったよ。宿舎にもどったら?」
「そうさせていただきます」
書類仕事が終わったら僕も帰ろうかな。そういえばなぜあの爺は賛成したんだ?一刻も早く殿下を廃位したいのが伝わってくるほどだったのに。不思議でしょうがない。木戸家の人間は皆得体がしれない。しかも当主が死ぬその日に必ず長男が生まれるというのも気味が悪い。しかもみんなそっくりだ・・・