7.秘密の部屋
「……凄い、凄いよ深色! これって隠し部屋ってヤツでしょ? ボクの遊び場にこんなカラクリが仕掛けてあったなんて、ビックリだよ!」
クロムは新たに開かれた扉を前にして興奮を抑えきれず、深色の周りをぐるぐる泳ぎ回りながら歓声を上げた。
「いや……私はただ壁に触れようとしただけで、特別に何をしたわけでもないんだけど……でもでも、秘密の部屋があったってことはさ、中には大昔の財宝とかお宝が眠ってたりとかするのかな? もしそうだとしたら――こりゃ面白くなってきたぞ!」
深色はトレジャーハンターにでもなったような気分で期待に胸踊らせ、持っていたランプフラワーを開かれた扉の奥へかざしてみる。
新たに開拓されたその部屋は、物音ひとつ無く静まりかえっていた。さっき通ってきた広間と違い、壁や床はすべて黒曜石でできていたのだが、もうずっと長い間放置されていたのか、その床には塵や砂が深く積もって、辺り一面真っ白になってしまっている。床の上には手術台のような長方形の台が幾つも並び、天井からは錆びた鎖が何本も垂れ下がっていた。そして部屋の奥には、一体何に使われていたのか想像もつかないほど巨大な釜と炉が置かれている。
「あれ……おかしいな? 私が考えている秘密の部屋ってのは、もっとこう宝箱が部屋一杯に転がっていて、キラキラした財宝の光で満ち溢れているようなイメージだったんだけど……」
「……ってかさ、むしろここって、宝が隠されてる部屋というより、拷問部屋って言った方が近いんじゃ……」
深色とクロムの体からサーッと血の気が引き、二人とも互いに青ざめた顔を向け合った。
その時――
ガタガタガタッ!
「ひぃいいいぃっ‼︎」
部屋の奥から突然物音がして、びっくりした二人は恐怖のあまり互いに強く抱き合った。
部屋の隅に溜まった暗闇の中から、二つの赤い目が覗いていた。その目はカタカタと音を立て、徐々に二人の方へと距離を詰めてゆく。
深色が驚いた際にうっかり地面に落としてしまったランプフラワーの淡い光が、その赤い目の正体をぼんやりと映し出す。
「……あ、なんだ、ただのカニじゃん」
深色の前に現れたのは、タラバガニのような長い脚を持つ生き物だった。危険な生き物でないことを知った深色は、安心して胸を撫で下ろす。
けれどもクロムは、「違うよ! ほら、よく見てごらんよ」と、出てきたカニを鰭で指し示した。
横歩きしながら深色の前に姿を現したそれは、姿こそカニを模していたはいたものの、その脚から胴体に至るまで、体の全てが光沢のある金属でできていた。
「何よあれ⁉︎ ロボット?」
「これはきっと、海底人の作ったカニ型のカラクリだよ。ほら、海底人は人間よりも数倍文明が進んでるって言ったでしょ? だから、こんなものだって簡単に作れちゃうのさ。……でも、どうしてこんな所にカラクリが居るんだろ?」
「カラクリ」と呼ばれる機械のカニは、カチカチと関節を鳴らしながら深色たちの前までやって来ると、体から突き出た赤い目をカタツムリのように伸ばして、暫くの間深色の方をじっと見つめていた。
それから、そのカニは何を思ったのか、くるりとこちらに背を向けると、壁際の方まで歩いてゆく。
壁の際までやって来ると、カニの細い目から眩いフラッシュライトが放たれた。放たれたその青い光は、徐々に人の形を成していき、やがてある一人の人物を、立体映像として二人の前に映し出した。