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蒼海のアクアランサー ~槍に集いし海底王国の守護神たち~  作者: トモクマ
深度7000M 大乱闘なんて望んでないっ!
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63.もう一人のアクアランサー

 深色は、泣いているアッコロの腕を支えて起き上がらせようとしたが、立ち上がろうとした途端、彼女はよろけてその場に膝を突いてしまう。


「無理よ……私、もう立って歩くことができないの」


 アッコロは悲しそうにそう言葉を漏らす。――そういえば、ムーンテラピンの艦橋で「鷹の目」を使ってモビィ・ディック艦内の透視映像を見た時も、アッコロは車椅子に腰掛けていた。彼女は元より自分の脚を動かすことができず、ゆえに戦闘の際は、アーマーの背中に内蔵された機械の四つ脚を使うことでしか移動ができなかったのである。


「……どうして、歩けなくなったの?」


 恐る恐る深色がそう尋ねると、アッコロは思い出したくない過去を振り返るように苦い表情をし、恐怖におびえて自身の体を抱き寄せながら、震え声で答えた。


「―――呪いをかけられたのよ。海の邪神クラーケンに」


 アッコロの口から放たれたその一言に、深色はかける言葉を失う。


「……呪い?」


「ええ。何もかも、あの大嘘付きなアテルリア国王のせい。あの国王のおかげで、私は騙されて、危うくクラーケンの生き餌にされるところだったの」


 深色は目を丸くする。あのアメル国王が、アッコロを騙していた? 全く話の繋がりが見えてこない。


「でっ、でも、そもそも、あなたと国王の間には何の関係性もないはずじゃ――」


「それが大有りなのよ」


 アッコロは即答する。



「―――なぜなら、私もかつて、()()()()()()()()()()()()()()()()、アテルリア王国を脅威から守ってきたのだから」


 深色は、完全に言葉を失った。


「あなたには教えていなかったわね。……私の名前は、キリヤ――キリヤ・アッコロ。あなたが新しく就任する前にアクアランサーを務めていた、あなたの前任者よ」


 アッコロはそう言って、着ているアーマーの首筋をつかむと、自らの首元を晒して見せる。


 彼女の首筋には、深色と同じアクアランサーの証である痣「槍士の称号(ランサータトゥー)」が、くっきりと浮かび上がっていた。



「………コロちゃんが、私がアクアランサーになる前の前任者だなんて……そんな………」


 深色は信じられないという顔で、ぽかんとほうけてしまう。


「……それじゃ、百年に一度、封印から目覚めるクラーケンを仕留め損なった裏切り者ってのも、あなたのことだったの?」


「裏切り者? あのホラ吹き国王からそう吹き込まれたの? ふふ……とんだ笑い話ね。真の裏切り者は国王本人だと言うのに」


「アメル国王は、コロちゃんのことを滅茶苦茶にけなしていたよ。キリヤは、クラーケンを倒せなかった。それどころか、蘇ったクラーケンを封印することもできないまま、恐れ慄くあまり最後の任務を全うすることもできずに敵前逃亡しまった愚か者なんだって。そして、今日までクラーケンが我が物顔で海を荒らし回って回っているのも、全ては封印し損ねたキリヤのせいなんだって」


「ふふっ……それは本当に無茶苦茶な言われようね」


 アッコロはそう言って自嘲な笑みを漏らし、それから顔を伏せて、静かにこうつぶやいた。


「……あの時、私は怖くて逃げたんじゃない。遭遇した時点で、自分の負けが確定していたからよ」


「えっ……」


 ――この時、深色は背後から忍び寄る足音を耳にして、反射的に振り返る。


 深色たちの背後には、いつの間にか、痩せた髭面の男が一人、立っていた。その男は制服の上から厚いコートを羽織り、頭には機械油で汚れた船長帽が乗せられていた。


「……あなたは?」


「彼はヴィクター・トレンチ。私たち『アイギスの盾』の指導者であり、潜水艦『モビィ・ディック』の艦長。二人とも、お目にかかるのは初めてよね」


「あっ! 海底神殿で僕らに魚雷を叩き込んだアーマーの人だ!」


 名前を聞いたクロムが、声を上げてビシッと男を指差した。アッコロから紹介されて、深色はヴィクターに向かって恐々《こわごわ》と頭を下げる。


「……やれやれ、加勢に来たつもりだったのだが……どうやら、勝負は既に決してしまっていたらしいな」


 ヴィクターは、並んで座る三人を見て、安堵するように船長帽を外し、再び深く被り直した。彼は、一度敵を前にすれば、どこまでも冷酷になれる男だったのだが、今の彼の表情はほころんでいて、口元にはやんわりと笑みが浮かんでいた。


「ええ、ヴィクター。やはり、アクアランサーには勝てなかった。……でも彼女は――深色は、負けた私に手を差し伸べてくれたの。彼女こそ、アテルリア王国の守護神に相応しい人材だわ」


 そう言って、アッコロは深色の方に振り向く。


「折角だから、どうして私がヴィクターと出会ったかも含めて、あなたたちに私がアクアランサーになった経緯を全て話すわ。……そして、私たちが王国に反旗を翻す海賊『アイギスの盾』として活動を始めた、その理由もね」


 アッコロはそう言って、自らがアクアランサーとして活躍していた頃の話を、深色たちの前で語って聞かせた。

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