62.廃墟島での闘い③
「深色っ! あいつナイフを持ってるよ!」
「クロちゃんは下がって! 私が何とかする!」
深色はクルクルと槍を振り回し、正面切って突っ込んでゆく。アッコロはナイフの突出した機械の脚をバネのように伸ばして深色を貫こうとしたが、ギリギリのところでかわされ、ナイフの刃先は深色の残像を切り裂く。
「くっ――」
アッコロは飛び跳ねて後退り、反撃の隙を与えまいと、すかさず深色に切り付けた。
しかし、収縮する脚を駆使して何度切りかかっても、深色はナイフの軌道全てを見切るように、放たれる斬撃全てを槍で受け流してゆく。その様子はまるで舞を踊っているようで、ナイフの刃先と槍が交わることで火花が弾け、飛び散り、華麗な舞に更なる彩りを加えていた。
「コロちゃん! こんなことしてたって埒が明かないよ! どうしてそこまでしてアクアランサーを倒すことに執着するの? 理由を聞かせてよ!」
「うるさいっ! お前は何も分かってない! 王国の守護神? 英雄? そんなものは全部まやかし! アクアランサーが、お前自身が、この海に全ての不幸を呼び寄せる元凶になっているんだ!」
アッコロの放った言葉に、深色は驚いて目を見開く。
「えっ? それってどういう――」
そう尋ね返そうとして油断した隙を突き、アッコロの振りかざしたナイフの刃先が深色を薙ぎ払う。
「痛っ!」
加熱した刃先が深色の衣装を切り裂き、その内側の皮膚にまで裂傷が走った。アッコロは怯んだ隙を逃さず、ヘルメットのバイザーにエネルギーをチャージし、再び深色にレーザーを見舞おうとする。
しかしそこへ、折れた外灯の柱を両手に持ったクロムが飛び掛かり、アッコロの被っていたヘルメット目掛けて振り下ろした。背後からいきなり殴られたアッコロは、バイザーの照準がずれてしまい、ヘルメットから放たれたレーザーは深色ではなく、その隣にあったガスタンクを直撃。大爆発を引き起こして、三人もろとも吹き飛ばされてしまった。
アッコロは爆発の衝撃で宙高く舞い上がり、そのまま地面に激突。走る痛みを堪えて起き上がった時には、突撃してくる深色とクロムの二人が、すぐ傍まで迫って来ていた。
「ちっ――」
アッコロは、向かって来る二人に向かってヒートナイフの真っ赤に焼けた刃先を振り下ろす。
ガッ―――
「なっ………!」
しかし、深色は三叉槍の三又で刃を受け止めると、槍をグイと捻ってナイフを根元から真っ二つに折ってしまう。一方のクロムも、片脚を振りかざして、薙ぎ払おうとしたナイフの刃を踵の先で叩き折った。
武器を失ってしまったアッコロは、一旦引こうと後方へ飛び退くが、そこを逃さず二人が追撃する。アッコロを守ろうと蛇のように襲い来る機械の脚たちを、深色が槍で突いて抑え、防御が崩れた瞬間を狙い、クロムが自慢の拳をアッコロの頭部に叩き込んでゆく。いくら巨大なヘルメットを着けているとはいえ、受ける打撃は相当なもので、一発殴られるごとに脳みそを揺さぶるような衝撃が走った。
深色とクロムの連携攻撃により、徐々に追い詰められてゆくアッコロ。既に身に着けているアーマーは、クロムのパンチ連打を受けてベコベコにへこみ、機械の脚も深色の槍に何度も突かれてしなやかさを失い、反応が鈍くなっていた。
(駄目……ここで負けたら――)
アッコロはフラフラになりながらも決死に反撃する。しかし、二対一で明らかに不利な状況で、アーマーに蓄積されたエネルギーも残り少ない。これでは、せいぜいあと一度レーザーを撃てるかどうかも怪しい。
これでは、負ける――
(ここで負けたら、私は、また……)
深色の振るった槍の先が、アッコロを支えていた機械の脚を直撃する。バランスを崩して転倒したところへ、クロムがアッコロの頭に飛び掛かり、巨大なヘルメットに両手をかけると、渾身の力で一気に引っ張り上げた。
メリメリと音がして、ヘルメット内に入っていた海水が装甲の裂け目から噴き出す。そのままヘルメットを引きはがされ、アッコロの素顔が晒し出された。これが致命傷となり、アーマーに組み込まれた四本の機械の脚は動作を停止させ、だらりと地面に落ちた。
(また……あの惨劇を繰り返してしまうことに……)
「……そんなのは、もうイヤ………」
思わず言葉が漏れてしまう。反撃もできなくなった今、もはや打つ手は何もない。アッコロは殺されることを覚悟し、ぎゅっと目をつむった。
「コロちゃん――ひょっとして、泣いてるの?」
しかし、倒れたアッコロに向けられたのは槍の矛先ではなく、優しい口調で放たれた疑問の言葉だった。
アッコロは恐る恐る目を開く。目の前には、しゃがんで槍を地面に置き、こちらに向かって手を差し出している深色の姿があった。その姿は散々たるもので、先ほどの激しい闘いで体中は煤まみれになり、衣装はビリビリに破れ、破れ目からは生々しい傷跡が覗いていた。
しかし、傷を負いながらも、アッコロをじっと見つめる深色の目は何処までも澄んでいて、美しい海色に輝いていた。
「……どうしてこんなことをしたのか、理由を聞かせてくれないかな?」
そう言って、深色はニコリと笑って見せる。その顔を見たアッコロは目を大きく見開き、やがてその目に貯め込んでいた涙を溢れさせて、掠れた声を上げた。
「……何で、あなたはそんなに私に優しくしてくれるの………卑怯よ……」
熾烈な戦いによって崩れ落ちた廃墟の町中に、アッコロの悲しいすすり泣きの声が響いていた。




