55.私たち、歓迎されてない?
「びっくりしたよ! 本当に深色だよね? そうだよね?」
再び出会えたことが信じられずに、何度もそう尋ね返してしまうカナたん。深色は差し出してきた彼女の両手を強く握りしめながら、呆れたように答えた。
「もちろん本物だよ。他に誰が居るっての?」
「でもさ、見ないうちに随分イメチェンしたじゃん。めっちゃ髪青いし……しかも何その格好! コスプレかよ⁉︎」
ミヤぴーがそう言って深色の身に付けた衣装を指差して笑う。
「いや! べっ、別にこれは別に好きで着てる訳じゃなくて――って、そんなことより、マユっちは大丈夫なの?」
深色はミヤぴーの膝の上でぐったりしてしまっているマユっちに駆け寄り、額に手を当てた。酷い熱があり、本人も意識がはっきりしていないようである。
「熱中症にかかっちゃったみたいでさ。早く何とかしないと、このままじゃ死んじゃうよ」
「大丈夫、船に行けばきっと手当してもらえるよ」
そう返す深色に、カナたんとミヤぴーは「船?」と首を傾げる。
「ほら、あそこに見える亀の甲羅。あれが船だよ。ほら、行こう!」
深色は倒れているマユっちを抱え上げると、海岸に向かって走り始めた。
「あんなデカい亀に乗って来たっての? 浦島太郎かよ!」
慌てて深色の後を追う二人。すると、向かった先の海中から、鉄砲玉のように黒い影が飛び出し、砂浜の上に勢い良く着地する。
「ねぇ深色、その子たちは誰? 深色の知り合い?」
現れた影の正体はクロムだったのだが、突然人間の姿をしたシャチが目の前に現れ、カナたんとミヤぴーは悲鳴を上げた。
「いやぁああああっ! 半魚人だぁ~~~~っ!」
「なっ、半魚人とは失礼な! これでもボクは海にたった一匹しか居ない人間の言葉を喋るシャチで――」
「はいはい、御託を並べるのは後にして! この子はクロム、新しくできた私の友達だよ。外見はサメみたいでちょっと怖いけど、人を襲ったりはしないから安心して」
「だからボクはサメでもないんだってば!」
またしても深色からサメだと言われてしまい、怒ったクロムが牙をむき出しにして怒鳴るものだから、二人ともすっかり縮み上がってしまっていた。
○
そんなこんなで、遭難した三人を連れて、パトロール艦ムーンテラピンに帰艦した深色たち。しかし、浮上した艦の上では、艦長であるランド・キルドールが険しい表情をして彼らを待ち構えていた。
「これで気が済みましたかな? アクアランサー殿」
どうやら、モビィ・ディックを追う最優先任務を放棄してまで人命救助をやらされたことに相当ご立腹らしく、それは艦長の背後に控えている大勢の武装した兵士たちを見ても明らかだった。
しかし深色は、そんな怒り心頭な艦長を前にしても、怖気付くことなく言い付ける。
「いいえ、まだよ。――私言ったよね? 三人をきちんと地上まで送り届けてあげること、それが条件だって」
そう釘を刺され、ランド艦長は湧き上がる怒りを抑えるように歯噛みするが、やがて「まぁ良いだろう」と態度を戻し、指をパチンと鳴らした。
すると、背後に控えていた兵士たちが深色たちを取り囲み、持っていたライフル型のブラスター銃を一斉に構えた。
「どちらにせよ、艦長に歯向かう行為はアクアランサー殿とて重罪。あなたのお仲間を地上へ送り届けるまで、身勝手は謹んでいただきたいですな。――おい衛兵! 彼らを営倉へぶち込め!」
「……なんか、私たち歓迎されてないみたいだけど、大丈夫なの、みいろん?」
銃を向けてくる見たこともない甲冑姿の兵士たちを前にして、ミヤぴーが心配そうに深色へ問いかける。
「うーん……確かに、ここまで来るのに、ちょっと強引な手も使っちゃったからねぇ……まぁでも、彼らが無事に地上まで送ってくれるって言うし、ここは従うしかないよ」
そう言って、深色は観念しましたとばかりに、だらしなくその場で両手を上げた。
○
こうして、衛兵に捕らえられ、営倉にある牢の中に入れられてしまった深色一行。営倉内は空気で満たされており、地上人である深色の友達三人も普通に呼吸できる環境は整っていたのだが、空気は酷くよどんでいて辺りはジメジメしており、良い環境であるとはとても言い難い。
狭い牢の中には、カナたんとマユっち、ミヤぴー、深色、クロムの五人が押し込められていた。深色は自分の分身とも言える黄金三叉槍まで奪われてしまい、不満を隠しきれずにランド艦長に対する愚痴ばかりこぼしていた。
「本当にあの頭でっかちな艦長には困ったもんだよね~。罰を受けるのは私だけでいいのに、どうして三人とクロムまで一緒の牢に居れちゃうかな? もう訳分かんないよ。……それより、マユっちの具合はどう?」
「うん、おかげで大分良くなったみたい。熱も下がってるし」
マユっちの様子を見ていたミヤぴーが、額に手を当ててホッと胸を撫で下ろしていた。
牢の中で、深色は飛行機が落ちた後自分がどうなったかを、三人に話して聞かせた。けれども、話の内容があまりに奇想天外過ぎて、誰も深色の話に付いて行けないようだった。
「みいろんってば、私たちとはぐれていたこの三日間で何があったのか知らないけどさ。今までの話全部おとぎ話か何かなの? まず最初に喋るシャチに出会って、それから海底の神殿を案内されて、そこで海賊に襲われて死にかけて、でも黄金の槍の力で復活して、挙句の果てには海底王国の守護神になったって……お前さぁ、マジで一体どんな大冒険やってんだよ。映画かよ! アク○マンかお前は⁉」
そうカナたんに突っ込まれてしまい、深色は返す言葉もない。しかし、紛れもなく彼女自身が体験した事実であることには間違いないのだ。
「……まぁでも、あの飛行機事故に遭ってからというもの、本当に夢やおとぎ話みたいなことばかり立て続けに起きてたような気がするよ。私もまだ、自分が一国の命運を握る神様であるなんて、未だに信じられないくらいだもん」
深色はこれまでに起きたことを振り返ってみて、思ったことを素直に口にしてみる。これまで死んだと思っていたクラスメイトとこうして再会することができて、深色も気軽に会話を交わせる仲間が側に居てくれることに大きな喜びを感じていた。このまま無事に三人を地上まで送り届けてあげなくちゃと、深色は決意を新たにする。
しかし――
「………あの飛行機事故は……ただの事故なんかじゃないわ」
「えっ?」
すぐ隣で横になっていた休んでいたマユっちが、弱々しい声と共に、そんな言葉を漏らした。