54.思わぬ再会
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「……はぁ、飛行機が舞台のパニック映画ではお決まりの展開なんだけど、まさか本当に墜ちちゃうなんてなぁ」
「ちょっと、馬鹿なこと言ってないで、マユっちを日陰に運ぶの手伝ってよ」
ザザーン……と、波の寄せる音しか聞こえない浜辺の上で、三人の女子高生は途方に暮れてしまっていた。修学旅行の帰り、乗っていた飛行機が突如として墜落し、海に放り出されてしまった三人。その後、この小さな無人島で奇跡の再開を果たしたものの、辺りには白い砂浜と、ごつごつした岩と、数本のヤシの木が生えているだけで、池も無ければ水溜まりもなく、まさに何もない孤島だった。
「ヤシの木に実が幾つか付いてたから、辛うじて脱水症状は免れたけど……でもお腹すいたよ~。早くお家帰って『ハワイアン・オブ・ザ・デッド』見たいよ~」
「そりゃ、もう三日間何も食べてないんだから当たり前でしょ。ってか、こんな状況でよく映画見たいとか呑気なこと言ってられるわね。ほら、マユっち運ぶから手伝って。あたし頭支えるから、アンタは足を持って」
そう言って、砂浜にぐったりと倒れ込んだマユっちの肩を支えるミヤぴー。
「お~い、マユっち大丈夫かー? しっかりしろよ~」
「………うぅ……ん………」
カナたんが耳元で呼びかけるが、マユっちは顔を赤くして苦し気に唸るだけで返事を返さない。灼熱の太陽から降り注ぐ日差しにやられ、熱中症にかかってしまったのだ。
「こりゃ重傷だな……何処かに通りがかりの船とか見えない? じゃなければ飛行機とかヘリコプターの音とか……」
「残念だけれど望みは薄いわね。ここって太平洋のど真ん中だもの。一応砂浜にSOSは書いたけど、きっと誰も見てくれないでしょうね」
「そんなぁ……」
二人はマユっちをヤシの木の下へ運ぶ。木陰に休ませて様子を見るものの、彼女の熱は下がらず、より酷くなってゆく一方だった。
「私、砂浜にもっと大きなSOS書いてくるよ!」
そう言って再び砂浜へ駆け出すカナたん。砂浜の向こうには一面の青い海が広がっているだけで、船影も無ければ狼煙も見えず、まるで青い砂漠を前にしているよう。助けが来ないことに苛立ったカナたんは、砂浜に落ちていた小石を拾い、海に向かって大きく振りかぶった。
「も~っ! 誰か私たちを助けに来てよ―――っ!!」
カナたんの叫び声と共に、放り投げられた石が大きな螺旋を描いてポチャンと海に落ちる。
――その刹那、小石が落ちた先の海面が大きく盛り上がり、ザバァッ! と水飛沫を上げて巨大な物体が海面から顔を出した。
「おわぁあああああぁっ! 何か出た~~~っ!」
悲鳴を上げて飛び退くカナたん。ヤシの木陰に居た二人も、目を丸くして海の方を見る。
海中から浮上したのは、全長五十メートルを超える、盛り上がった巨大な島――のように見えたが、よく見るとその島には亀甲模様が刻まれており、その外観は完全に亀の背中だった。
驚きのあまりミヤぴーたちの居る所まで逃げ戻ってきたカナたんが、突然海から現れた物体を前に疑問を投げる。
「……何あれ? 巨大な亀?」
「あんな巨大な亀なんてこの世に居ると思う?」
「大怪獣ガメ◯が本当に実在したとか?」
「映画好きは黙ってて!」
ミヤぴーとカナたんが海に浮かぶ物体の正体について議論を交わし合う。
――と、その時、波の打ち寄せる海岸から、一人の人影が姿を現した。
砕ける白波に洗われながらも颯爽と登場した彼女は、鮮やかなセルリアンブルーの髪をなびかせ、太陽の光を受けて青い瞳が輝き、片手には黄金の槍が握られていた。
そのあまりに可憐な登場の仕方に、浜辺に居た三人は、本物の人魚が現れたのかと目を疑ってしまう。
「えっ? ちょ、あの子って……まさか、みいろん?」
「うそっ! ホントだ、みいろんだ!!」
現れた少女が深色だと分かり、カナたんが大きく手を振る。すると、相手の方も持っていた黄金の槍を高く掲げて応じてくれた。
――いつもは、学校で会って何気ない会話を交わすだけの仲だったクラスメイトの深色。でもこの時だけは、海岸から現れた深色が、まるで救いの女神のように三人の目には映っていたのだった。